表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

企画参加作品

青井くんのせいだよ。

作者: 水泡歌

 プリントの渡し方が丁寧だった。

 きっかけはただそれだけのこと。


 山川 梨花りか。高校2年生。

 1学期。6月。

 2年生になってはじめての席替えをすることになった。

 くじ引きで決まったのは窓際の1番後ろの席で。

 出席番号順の席から後ろにひとつずれただけの席だった。

 前の席には話したこともない男子が座った。

 青井くんと言っただろうか。

 おとなしくてこれと言った特徴もない男の子。

 友達とも離れちゃったし、今回の席運あんまりかも。

 そんなことを思いながらぼんやりと窓から校庭を眺めてた。

 SHRショートホームルームになって担任の先生がプリントを配る。

 前の席から1枚づつ取って後ろの席に渡す。

 青井くんからプリントが回ってくる。

「あれ?」と思う。

 こちらに身体を向けて、私が伸ばした手にちゃんと渡してくれる。

 この人、プリントの渡し方、丁寧だな。

 そんなことを思う。

 以前に座っていた前の席の男子はノールックでこちらに渡してきやがったので、その違いがよく分かる。

「ありがとう」

 思わずそう言うと青井くんは小さく笑った。

 ただそれだけ。

 ただそれだけのことだった。


 それから私は青井くんをなんとなく見てしまう。

 衣替えしたばかりの夏服の白シャツ。

 色白の細いうなじには真ん中にポツンとひとつホクロがある。

 それがなんかのスイッチみたいでかわいらしい。

 授業中はきっちり伸びた背筋が休み時間になると少しまるまる。

 友達との会話は主にあいづち役で自分の話はあんまりしない。

 でも、とても楽しそうに話を聞く。


 青井くんはとてもふつうの男の子だ。

 その「ふつう」の中に時折ほっとあたたかいものが灯る。

 そのぬくもりが好きだった。


 期末テストになって一時的に座席はまた出席番号順に戻った。

 それぞれの机の中をからっぽにして移動する。

 私は青井くんの席になる。

 青井くんは扉の近く。はしっこ1番前の席に行ってしまう。

 遠いなあ……。

 そんなことをぼんやり思う。

 前の席からテストが回ってくる。

 渡し方はやっぱりノールックで、青井くんとは全然ちがう。

 青井くんの席に座れるのはなんだかうれしい。

 でも、あなたが前の席にいないのはさびしい。

 こんなことを思うのはきっと──


 青井くんのせいだよ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
青春ですねぇ~。 甘酸っぱい空気がします。 恋に青春に、楽しそうな学生生活が羨ましい。 ノールックの男子が、河村勇輝ばりにナイスアシストパスですね。 可愛いお話をありがとうございました。
テストの時にノールック男子が前にいることの残念さもそうなんだけど、青井くんが遠くに行って寂しく思うところが可愛くて好き。短い文字数なのに素敵がぎゅっと詰まっててすごく魅力的。 ……青井くんの魅力に気…
わあ、ステキなお話で、甘酸っぱい気持ちになりました♡ タイトルとオチが最高に好きです! 可愛すぎるっ。 ホクロのぼたん! なるほどなあと思いました。押さないようにしないと……! 好きだとなんでも好きで…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ