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魔獣イラストレーターと最強のFランカー  作者: 成若小意
第一章 魔獣イラストレーター

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1-9  付録③ ヒンジ

【ヒンジ】

 タイプ わにの魔物

 ランク F

 特徴  人懐ひとなつこい

 備考  肉食






 ◇◇◇

 ゴーシュのイラスト集が販売されてしばらくしてから、シオンはFランクの冒険者に「指導をしてほしい」と頼まれることが増えた。


 この日も、ヒンジという鰐に似た魔物の討伐に同行して指導してくれと若手に頼まれて同行していた。ゴーシュも面白がってそれについて来ている。


『ヒンジは(わに)と違って立派な鶏冠とさかがある。そして人間に興味を抱くことが多く、近くを通るとしばらくついてくる。そこまではあまり害がないのだが、うまく振り切れないとだんだん距離を詰めてくる。


 はじめのうちは攻撃性が無く、すり寄って来るだけなので油断してしまいがちだが、そのザラザラした肌ですり寄られることによって皮膚に裂傷ができる。血を流したらそこでその関係は()()()()だ。


 途端に獲物として認識され、無数に取り囲まれた状態から逃げ出せなくなる。立派な鶏冠は立派な凶器となり、切り刻まれがちだ』


「……この手引書にはこんなことが書いてありますけど。攻撃性が低いとはいえ、魔物相手にこんな油断することありますか?」


 若手のうちアスタとよばれる少年がシオンにそう尋ねる。手引書とは、イラスト集のことだ。若手の間ではそう呼ばれるようになっていた。


「ヒンジだけを相手にしていたら()()はならないかもしれないが、他の魔物と戦っているのなら、攻撃性が低いものに関しては無視してしまいがちになる」


 シオンはそう答えたが、ゴーシュが横からでしゃばる。


「でもシオンは無視してるというより、『意外と可愛い』とか言ってたよね」


「とりあえず、実践だ」


 ゴーシュにかまっていたら話がまっすぐ進まない。シオンは話を切り替えて、実践練習に入ることにした。






「ヒンジ討伐のセオリーは、上から長めの武器で攻撃し、上顎と下顎を貫き通して地面に縫い付ける。武器の近く、ヒンジ頭の上に立ち、その位置ならしっぽが届かないのでそのまま脳天攻撃する」


 シオンの説明に、アスタたちはイラスト集で既に知っている知識であるものの改めて目を丸くした。それは、目の前に広がる、無数のヒンジの大群を前に『いや理屈としてはわかるけど無理だろ』という気持ちを表してのものだった。


 そのアスタたちの気持ちを無視してシオンは早速ヒンジ討伐を始める。棒高跳びの要領で銛の柄を地面に突き立て跳躍する。そしてヒンジの上に飛び乗る。人懐こいという情報の通り、ヒンジは乗られても攻撃性を特に見せない。


 そしてそのままだまし討のように、シオンは銛を上顎に突き立てた。


「こんな感じだ。やってみろ」


 アスタはじめ若手四人衆はブンブンと首を振った。


 ちなみにシオンの言うセオリーはセオリーでも何でもない。通常はヒンジが口を開けるタイミングを見計らって口の中に攻撃魔法を打ち込むのだ。ヒンジが口を開けるには餌を使うのだが、この餌となる魔物を捕えるのがまたなかなか難しい。そのため、Fランクではあるが手間のかかる魔物と認識されていた。


「そうか、無理か?」


 シオンは、実践を拒否する若手たちを責めるでもなく呆れるでもなく、顎に手を当てて次の対策を考えて始めた。






「この方法を試そうかと、かねてから考えていたんだ。ちょうどいい。やってみるか」


 そう言ってシオンが取り出したのは、ゴム紐の両端に重しをつけた妙な道具。


 その中心を持って手でブンブンと回す。


「鰐の口は閉じる力は強いが開く力が弱いというからな」


(輪ゴムをかけただけでも開けられなくなるというのを聞いたことがある。構造が似ていると特徴も似ることが多い。試す価値はあるだろ)


 シオンはそう考えながら、重し付きのゴム紐をヒンジ向かって投げつけた。


「いや、シオンさん。やりたいことはなんとなくわかりますけど、そううまく引っかかるんです……ね……」


 アスタが現実的な意見を口にしようとしたが、シオンはその現実を軽々と超えていく。


「コレの投擲はこの前の護衛依頼クエストで何千回もやらされたからな」


((((どんなクエストだよ……))))


 若手四人衆の心の呆れ声をよそに、うまくゴム紐はヒンジの口に絡みつき、口を開けなくなった一体がもがいていた。


「これで大丈夫そうだね!」とうかつに近づいたゴーシュの襟首をシオンが引っ張り上げる。間一髪で、一瞬前までゴーシュが居たところをヒンジの凶悪な牙が通り過ぎる。


「ゴーシュは出血が無くても捕食対象っぽいな。そしてこの作戦は失敗だ」


 鰐と違い開く力も強烈だったようで、先の一体が大口を開けてシオンたちを見ていた。


 ゴーシュが近づいたことがトリガーだったのか、全ヒンジが捕食体勢に入って大口を開けていた。






「もう一つ試したいことがある」そう言ってシオンは立ち上がる。少し距離をおいたので、ヒンジの集団は落ち着きを取り戻していた。


 そこで唐突にシオンが自分の手首を切る。そしてその血を布でぬぐい、矢に巻きつけ、ヒンジの()()目掛けて射る。


 血の匂いにつられて、ヒンジの大群が凶暴に牙を向き、頭上の矢に向けて大口を開ける。その口の角度は鰐と違い、180度を越える。


「あの角度は気持ち悪いな」そう言いながら、続けてヒンジに向けて矢を射る。


「シオンさん、ヒンジは脳天以外は致命傷になりませんよ」


 そんなアスタの言葉をよそに、シオンが放った矢はヒンジの口の横に突き刺さる。仲間が攻撃されているにもかかわらず、大量のヒンジたちは餌と認識したタオルに大口を開けて群がっていた。都合がいい状況なので、そのままたて続けに大量に弓を放ちすべてを命中させる。


「……何か全部」


 アスタたちがあ然とする前で、すべての矢がヒンジの同じ部位に刺さっているようだった。


「あそこはヒンジの口のつなぎ目にあたる。蝶番の結合部分のような感じだ。あそこに矢を刺し込めばもう口は閉じられなくなる……はずだ」


 なるほどシオンの言うとおり、どのヒンジも口を閉じることができなくなっている。そして、そのままシオンたちの方へ向く。そして、そのまま全頭がシオンたちのもとへ走り出す。


 大口を開けた大量のヒンジが襲いかかる様はまさに地獄絵図だった。たとえ口が閉じられないと言っても恐怖でしかない。


 それなのに、シオンは余裕で言い放つ。


「これで効率よく口の中に攻撃できるだろ」


 その言葉に口の端を引き攣らせながら、腹をくくった若手四人衆が攻撃魔法をヒンジ目掛けて放った。






 ◇◇◇

 シオンの戦い方には特徴があった。それは魔物をよく観察し、様々な方法を試すのだ。


 それはひとえに、シオンの魔物に対する考え方の違いにあった。シオンは魔物を動物の延長線上の生き物として捉えている。対して、この世界の人々は魔物を無機物の延長線上として捉えていた。


 懐かせるとか手懐けるとか、ましてや可愛いという感情は抱かない。ゴーシュですら、魔物の美しさは認めるものの可愛らしさは理解できないようだ。


 だからこそシオンは、魔物の動きに感情を見出し、特性を他の人よりも一歩深いところまで理解できるのだった。


 また、弱い魔物相手であっても、相当の実力差がなければシオンのような戦法をとることはできない。


 イラスト集での知識も、多くの冒険者にとって()()()()と思うものも多いが、『実践できるかっ』というものも多かった。


 自覚はないがFランクにして最強と言わしめるシオンだからこそできる芸当だったのだ。


 アスタたちはこの討伐指導のあと、周りの冒険者に口にした。


「シオンさんの討伐は、百回分の討伐相当の経験が積める」


 そしてこう言う。


「でももう二度と行きたいとは思えない」


 大口を開けた大量のヒンジに追われるという光景を思い出しながらアスタたちは頭をふる。


 こうしてシオンは着実に若者たちにトラウマを植え付けていった。

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