5-2 帝国クランの二番手
シオンが小ネズミの前で葉巻を吸っている一方その頃。
そこには悩める冒険者がいた。
そことは、シオンのいる場所からより遠く、爆心地付近の上空。浮遊車に乗って空中停滞しているのだ。
眼下では蠢く魔獣の群れと、テンションの壊れた上級ランカーたちの魔法による乱攻撃が繰り広げられていた。
彼は帝国ギルドのメンバー。艷やかな黒髪を後ろで一つに束ねて流し、ここらでは見ないような白装束に身を包み、まるで戦闘とは無縁そうな涼やかな顔をしている。それでも、帝国ギルド全体の中の、二番手。
「おい、どうした黒雷。まだ暴れたりないのか?」
そう声をかけるのは、こちらはまた如何にもな戦闘狂的な風貌の男。名をダンデリオンと言う。獅子の鬣のような髪型で、獰猛な笑顔を湛え、眼下の惨状を満足そうに眺めていた。
「いえ、実験したいことがありまして」
「なんだ。また余計なことをしたいって言うのか。お前の雷は強力すぎて序盤しか出番がないからな。退屈なのはわかるが、おとなしくしていてくれ」
「……」
黒雷の沈黙をダンデリオンは同意と受け取って、用は済んだとばかりに満足そうにまた眼下に目を戻した。
軍隊ギルドが一般人を鍛えて画一的で保守的な全面攻撃を主とするのに対して、彼ら帝国ギルドは自国の戦争で力を持て余し、はるばる魔境までやってきて戦闘行為を行う暴れん坊たちの乱攻撃を主としている。
冒険者一人一人の能力が高いのでほぼ各人の魔力ごり押しではあるが、集団行動を行うからにはある程度の行動規範があった。
黒雷がいる場合はそれが顕著だ。彼は名の通り雷を操る。雷は局所的攻撃だと思われがちだが、その電撃は大地を這って広範囲のモノを攻撃する。
その一撃で目に入る範囲のモノすべてに攻撃できるわけだが、この攻撃は不器用だ。味方も見境なく攻撃する。
そのため、まず彼が一人で雷を落とす全面攻撃をし、次いで狩り残しを他の者たちで掃除するのだ。
いかに全面攻撃に適していると言っても、空中を飛んでいるモノ、雷耐性のあるモノ、そして単純に耐えしのいだモノが生き残っている場合がある。それら残り物を狩るために、他の冒険者たちはオーバーキルを行っているのだった。
彼、黒雷がやりたかったこと。それは。
『電撃を使って魔物を操れるのではないか』という仮説に対する実験をしたいということ。
彼はとても優秀な雷の使い手であり、強力な広範囲攻撃から繊細な静電気まで、意図するままに操れた。
そして電撃を加減して、魔物の攻撃を止めるだけの雷を繰り出した時、気が付いたのだ。『止められるということは、動かせるということでもあるのでは?』と。
しかし、ここは魔境で、周りにいるのは戦闘狂だ。そんな彼のおかしな持論に理解を示す者はいないし、彼もそれをわかっていたので話そうとも思っていなかった。
それでも彼の中の好奇心は膨らむ一方であった。謎を探求したい。そしてそのことを誰かと分かち合いたい、と。
帝国ギルドの行動は早い。さっさと攻撃してあらかたの素材を回収したらさっさと撤収していくのである。
そもそもの話、帝国ギルドが主な攻撃対象としている魔物たちは、討伐の必要がない。
なぜなら、魔物たちは常になぜか爆心地に向けて縄張りを広げており、その上級の魔物に押し出される形で下級の魔物が魔境からはみ出し、主に下位のFランクの魔物が人の地に侵入していくのである。
つまり、上級の魔物であるほど魔境から出てこない。
ただ単に帝国ギルドはその素材欲しさに、無害な魔物を虐殺しているのである。まさに侵略者は冒険者。
そして田舎ギルドや軍隊ギルドと異なり、人に害をなす機会のない上級の魔物は殲滅の必要性がない。ゆえに必要な素材を回収してさっさと撤収していくのだ。雑である。
そして皆討伐が終わると、収獲の祝いに酒を飲む。
「黒雷さんやっぱすげーっす! 黒い稲妻がバリバリーって! そりゃ、ダンデリオンさんがやっぱ一番迫力と破壊力がありますけど、魔物の保存の良さが別格です」
酒の場でお気楽な下っ端がそう解説する通り、黒雷の稲妻はなぜか黒い。その性質を以て黒雷とあだ名されているのであって、本名は別にある。
ダンデリオンが帝国ギルド内にある各クランの中でも一番手、黒雷が二番手だ。だが雷は内部破壊ができるので素材の保全に向いているため、ある意味一番手よりも重宝されていた。
「どうした黒雷。せっかく無傷で回収した魔物をあいつらが滅茶苦茶にしたから怒っているのか?」
確かにそれもあったのだろう。黒雷の電撃で今回はほぼ無傷で殲滅できていたので、残りの襲撃はただの無駄なお祭り騒ぎだ。
しかし黒雷が気になっているのはそれではない。
「田舎の方のギルド支部に、魔物にやたら詳しい冒険者がいると聞きまして」
「なんだそれは?」
「あ、僕それ聞いたことありますよー! 魔物の実験ばかりしていてFランクから上がれていないって人ですよね!」
ダンデリオンは知らないようだが、下っ端の小僧が知っていたようだ。
「ああ、そいつのことか。それなら俺も聞いたことがあったな。たしか、研究のために魔境まで絵描きを引き連れている変人と言う話だったな」
「そうです、それです! ダンデリオンさん。助手として子供たちを大勢引き連れていることもあるとか!」
ダンデリオンと下っ端が奇人話で盛り上がっている中、一人真剣な顔をしている黒雷。
「……変人かどうかは知りませんが、一度その人に会ってみたいと思いまして。そのため今日を持ちまして、当ギルドを抜けさせていただきます」
その一言により、この日帝国ギルドに激震が走った。





