5-1 初期の町へ行こう!
「シオン! 金色の絵の具を探して!!」
帰省からまた魔境に戻ってきたゴーシュは、今日も元気だ。心なしか前より晴れやかな表情になっているようにも見えるが、言動は基本前と変わらない。
俺はというとそんなゴーシュに返事もせずに、座って葉巻を吸いながら、慌てる雇用主を眺めている。格好つけているわけではないし、ゴーシュを軽んじているわけでもない。
一息吐いてから、返事をする。
「どこにあるんだ? 失くしたのか?」
この葉巻は、魔物除けの葉巻。
今回の狩場にはネズミがたくさんいた。それもとても小さなネズミだ。小さすぎて、アリよりも小さい。それが無数に足元に蠢いていた。まわりには立派な林木が立ち並ぶ。スギのようにまっすぐ伸びているが、魔境の常であまりに大きくその梢は見えない。
この小ネズミ、近づく者に一斉に襲い掛かる習性があるらしい。それ故、葉巻もなしにこの地に来たら、あっという間に小ネズミに体中覆われて全身噛みつかれることになる。
普通なら葉巻ではなく、風魔法か火の魔法で小ネズミを追い払うらしい。
小ネズミだけでも最悪な状況なのに、この地には他にも厄介な魔物がいる。小ネズミに包まれた者は、アリクイならぬ小ネズミ喰いという魔獣についでに襲われる。鼻面と舌のとても長い魔獣だ。ちなみに小ネズミも魔獣判定。
ゴーシュはこの小ネズミを描きに来たわけでも、ラットイーターを描きに来たわけでもないと言う。
「ここにはないよ!」
ゴーシュは頭を掻きむしりながら、金の絵の具が無いと喚く。
同じく小ネズミを食う、ナマケモノに似た魔獣ビズィビーを描きたいのだそうだ。
「ここにないのなら、探しようがないだろ」
「だって、ビズィビーのあの、素敵な輝く金色の瞳を描きたいんだ!」
このビズィビー、フォルムこそナマケモノにそっくりだが、好戦的なその性格は真逆だ。その鋭い爪で辺りを切り裂いて回る。
ビズィビーがラットイーターを追い払おうと襲い、ラットイーターが小ネズミを襲う。その小ネズミにゴーシュが襲われないようにと、俺は必死に葉巻を吸う。
このカオスな状況の中、ゴーシュは一心不乱にいつも通り絵を描いていた。
「そこにある金の絵の具ではだめなのか?」
「これは色味が違うでしょ~。もっと深い、力強い、黄金色。そうだなあ、昔戦った鎌虫のフサフサみたいな色だよ」
吸い込んだ葉巻の煙を効率よくいきわたるようにして地面に吹きかける。
残り本数が少ない葉巻を大切にちまちまと吸う。しかし煙が少なすぎても効果が薄れるので、適度に調整する。
この葉巻、おそらく他に持っている者はいないだろう。ゴーシュですら聞いたことがないと言っていた。
「それならその鎌虫の触手をそのまま使えばいいだろう」
「魔物を、絵の具に……? シオン! 君は天才だ!!」
俺の発案が気に入ったようで、目が輝いていた。
「戻ろう! 最初の町へ!」
頭上では壮絶な小ネズミ喰いとナマケモノとの戦いが繰り広げられ、目の前ではゴーシュと小ネズミ共の大騒ぎが行われている。
「ゴーシュ。ここらで潮時だ」
葉巻がもう無くなりそうなのを暗につげると、素直に撤収準備にかかるゴーシュ。おそらく頭の中は新しい絵の具でいっぱいなのだろう。とても素直だ。
そうして荷物をかつぎ、エアーバイクに二人で乗って町に帰還した。





