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魔獣イラストレーターと最強のFランカー  作者: 成若小意
第四章 クラン抗争と追いかけっこ     (推定累計ポイントAランク)

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4-14 ゴーシュ(前編)

 僕が魔獣を描くということにとりつかれたのは、ある出来事がきっかけだった。




 僕が生まれた家は、中の上または上の下くらいの階級。兄と姉と妹がいる。

 生きることに困ることはなかったが、四人の兄弟にきちんとした教育を受けさせるために両親は尽力してくれたので、そこまで贅沢な生活でもなかった。


 住んでいる場所も、僕とシオンが今暮らしているような魔物の多発している魔境のような地域ではなく、人が人として文化的に普通に生きていける場所だった。やや都会だったので便利な物もあふれていて、不自由することなく暮らしていた。


 そんな中、家族で旅行に行くことになった。生憎(あいにく)母は体が弱かったので留守番。


 父は僕ら兄弟を連れて大陸横断鉄道に乗った。旅の目的地は何だったのか今では忘れてしまった。たしか当時話題の場所に行こうという話だったはずだ。多分いろいろなものを見聞きし経験させてやろうと父は考えたのだろう。


 旅の序盤は穏やかなものだった。僕ら兄弟も無邪気にはしゃいでいたし、厳しい父も心なしかいつもより楽しそうだったのを覚えている。


 自分たちの住む都会を抜け、大きな町をいくつか通り、やがて荒野に差し掛かる。はるか遠くには魔物が住まうとされる魔境の地が陽炎(かげろう)に紛れながらわずかに見える。しかしここも危ないことはなく、むしろ金持ちたちが安全地帯から危険な土地が見られる格好の観光スポットとして好評な場所であった。


 なのに。


「みんな伏せろ! アラゴンが出たぞ!」


 まさかの声にほとんどの乗客たちはすぐには反応できなかった。幾人かの旅慣れた装いの者たちはすぐに頭を抱えて座席の合間に身を隠したが、多くの乗客は様子を見るために窓に身を乗り出した。この行為が人々の生死を分けた。


 父は賢い人だった。そして一人で子供四人を守らねばという気持ちで旅をしていたからだろうか。とっさに僕ら四人を守るために動いた。ボックス席の隙間に僕らが身を隠れるように、やや強引に両腕で抑え込んだのだ。




 何が起きているのわからないが、けたたましい何かの鳴き声、いや叫び声と、よくわからない轟音。そして何かがきしむ音が鳴り響く。



「お父さん! 何が起きているの?」

「いいから頭を守るんだ。口も閉じておけ。舌を噛むぞ」


 父はそう言ってさらに僕らを抑え込んだ。『お父さんこんなに力が出たんだ』と驚くほど、痛いくらいの強さで抑え込まれた。


 そして体が吹き飛ばされそうなほどの遠心力を感じる。


「怖い怖い!」


 と叫びながら、父に兄弟みんなでしがみついた。


 父の判断と手加減のない押さえつけ方が功を奏したのだろう。僕らは列車が止まるまで大した怪我もせずにいられた。


 列車が完全に止まったことを確認してからようやく頭を上げると、車内は惨憺(さんたん)たるありさまだった。


 天井はひしゃげているし、車両の反対側まで見通せないほどに車体は歪んでいる。乗客は衝撃で吹き飛ばされたのだろうか、あちこちで倒れていた。怪我をしている者も多く、幾人かはピクリとも動かない。


「お父さん」


 姉が怖々と話しかける。


「乗ってる人、()()()()()()()()?」


 そんな恐ろしいことを父に尋ねる。父は沈痛な面持ちで


「きっと窓から投げ出されたのだろう」


 そう言ったのち僕ら兄弟の身を起こすのを手伝い、一人一人怪我はないか確認していった。


「お父さん……!」


 そうするとまた姉が父を呼ぶ。


「まだアラゴンがいる。それに変な生き物も」


「! アリス。あれらは生き物ではない。魔物だ。見てはいけない!」


 父は息つく間もなく僕らをまたかばう。子供たちの心の傷が増えないよう、外が見えないように四人を抱きしめた。


 でも、僕は運が悪かった。否、運が良かったのかな。四人を抱え込むにはさすがに頼もしい父の背中でも足りなかった。一番端にいた僕には、父の脇の下から外の景色が見えていたのだ。





 ひしゃげた窓枠から魔物たちの争いがわずかに見えていた。それは強烈な光景だった。


(やっぱりお父さんは賢い)僕はそう思った。他の兄弟が同じようにこの景色を見ていたら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()





 アラゴンとは蜘蛛のような魔物だ。単純に蜘蛛を巨大化させたような存在で、よく絵本に出てくるほど代表的な魔物。汽車一両よりはるかにでかい。魔物に詳しく無い者でもその存在は知っている。


 その糸で獲物をからめとり、無数の牙でかみつき、毒で麻痺させてゆっくりと咀嚼する捕食方法を取る。そのためそのフォルムと相まって魔物の恐ろしさを伝えるのに適していたのだろう。魔物の怖さを教えるための象徴だった。



 そのアラゴンに対抗するのは、名前は後ほど知ったがイゾラという魔物。イゾラとは別名『火の鳥』。分類としてはより上位の魔物である魔獣にあたる。燃えるような翼を大きく広げて敵を威嚇する。土地によって伝承がある不死鳥と似ているのだが、その腹から無数に伸びる金色の触手があるので全く異なった存在だと分かる。美しくも気味の悪い火の鳥イゾラ。




 当時の僕には知る由もなかったが、イゾラの天敵アラゴンがしつこくイゾラを追いかけてきたことで両者とも生息地を大きく逸脱し、通常なら現れない地においても尚この二体は戦闘をしていたようだ。


 二体の戦いは巨大な蜘蛛の魔物アラゴンの方が優勢。


 その糸で(から)めとられられたのか、イゾラの羽はところどころ痛々しくもげ、いくつもの糸が絡みついたままだった。しかしイゾラも負けてはいない。その金色の触手からは毒が出るのか、アラゴンに触手をさし伸ばす。そしてその触れた部分が嫌な音を立てながら溶けていく


 しかしその抵抗むなしくイソラの体に巻き付く糸の量は確実に増えていき、、やがて身動きが取れなくなっていく。


 あわやアラゴンのその牙がイゾラの体にかかるか否かのその瞬間、聞いたこともないような不気味で恐ろしい鳴き声を上げながらイゾラがその腹から炎を噴出した。アラゴンはなすすべもなく焼かれていく


 泣きたくなるような美しい夕日を背景に、その命を燃やすような炎に包まれながら絶体絶命の窮地を抜け出し、天に飛翔していくイゾラ。


 ただただ巻き込まれて多数の死傷者を出した列車の状況など当然気に留めることもなく、人間をはるかに凌駕する強者対強者の争いはこうして雌雄を決し、また何事もなかったようにかの地へ勝者が飛び立っていった。


 僕はその様を見てしまったその日その時から、その光景が目に焼き付いて離れなくなってしまった。






 僕はその日髪の色がすべて抜け落ちてしまった。姉も兄も少し白髪混じりとなった。当時眠っていて、起きた後も父の腕の中だった妹だけはあまり影響を受けていなかったが。そのあと妹はおねしょの再発と一人寝ができなくなったしまったとは聞いた。


 多数の被害を出した列車事故は、その後国からの救助隊が駆け付けて事態の収拾にあたってくれた。僕らは助け出され、負傷がなかったことですぐに代替列車にて帰宅することができた。当然旅の目的地には行けずじまいだが誰も気にしていなかった。早く家に帰りたかったのだ。


 無事家にたどり着き、心配でやや憔悴した母に抱きかかえられたことで、父はじめ僕ら兄弟はようやく安心することができた。


 衝撃的な出来事は多少なりとも僕ら兄弟の心に影響を残したが、数日穏やかな日々を送ることで徐々に普段の調子を取り戻していった。


 僕を除いて。

次回2/6 20:00-21:00頃投稿予定です。

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