4-13 ムラの子供③
青空を見上げて、その子供は思う。
――僕らはシオンに何か言いたいことがあったんだ。でも、それが何かわからなかった。
その子供は寝転がって空を見上げていた。
別に遊んでいるわけではない。彼はムラの子供だ。また底辺冒険者にこき使われ、今回もなんとか生き延びて、泥にまみれながら倒れ込んだその視線の先にあったのが青空だっただけ。
ここは『力こそ全て』の、魔境。力のあるシオンにとっては遊び場だが、力のない者たち、特にムラの子供たちは地べたを這いずりまわるしかない。
まともな冒険者なら『子供を魔境で雑用に使おう』などと思わない、ということにも気づかず、来る日も来る日もまともな冒険者を探して雑用をこなす。
彼は、彼らはとうに疲れ切っていた。ここから這い出たいと思っていた。しかしその方法をしらない。自分たちがどうしたいのか、言語化すらできない。
それが、魔境を囲む町という、特殊な環境で育ってきた彼ら『ムラの子供』だった。
そんな彼らが出会った、また別の種類のまともではない冒険者シオンとの出会いが彼らに新しい概念を与えた。
――ようやくわかった。みんな同じ気持ちだ。
「シオン。僕らを助けて。助けてほしいんだ。守ってください。今までこんな当たり前のこともわからなかった。誰も僕らを助けてくれない。でも、ずっと心の中で叫んでいたんだ」
この少年の偉いところは、すぐに行動に移したところ。
泥の中から起き上がり、体を拭うこともせず、涙を拭うこともせず、赤髪の冒険者がいるところへ駆け込んだ。
そしてようやく言葉にできたその気持ちを口にした。今まで周りの大人には決して言えなかった言葉、『助けて』。
「ああ。いいよ」
その大柄で、鷹揚な赤髪の冒険者はあっさりと認めてくれた。
「お前らのこともなんとかする必要があると、武器屋の爺さんともよく話してたんだ。マリウスとか他の子供も、もうこのクランに加入している。いろいろ教えてもらうと良い。爺さんや他の奴らにも声をかけておくよ」
あまりにも話が早いので少年はぽかんとしてしまう。
シオンが言うように、このクランの事務所(洗濯屋の二階の控室)にはムラの子供たちが思い思いに過ごしていた。窓から見える建物裏手の中庭ではドラゴンフライをモチーフにした紙飛行機を使った、射撃訓練という名の遊びをしている。
他にもザバックさんやネリアさんなど有名な大人の冒険者たちも何人か話し合いをしていた。
「俺は常にここにいるわけじゃないが、誰かしらいるだろう。困ったことがあれば助けてもらえ。お前たちも自由にここで過ごせばいい」
シオンはそう言い、大きな掌で少年の頭を雑に撫でる。
「ありがとう」
涙が止まらない。嗚咽の中、少年は何とかその一言を絞り出した。
――こうしてシオンのクランは僕らの家になった。
【クラン】氏族。一族。家族。
次回2/5 20:00~21:00頃投稿予定です。





