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魔獣イラストレーターと最強のFランカー  作者: 成若小意
第四章 クラン抗争と追いかけっこ     (推定累計ポイントAランク)

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4-9  ホバークラフト

 ゴーシュが攫われ、マリウスたちが慌てふためき、ザバックがシオン探しに出かけているころ、シオンはいまだカエルの魔物と対峙していた。


 否、対峙と言うには少し距離が遠い。


 木の冒険者が出てきた森を抜け、砂漠地帯に入ったところでキファランガのエアーバイクに乗って、カエルの魔物を遠くから観察していたのだ。


「うえぇ~。あれ、気持ち悪いね、シオン」


 キファランガがそう言うのも無理はない。巨大なカエルの背中には無数の丸い玉が埋め込まれていた。それがピパピパと呼ばれる普通のカエルであったら、丸い玉は卵であり、そこからオタマジャクシが孵化をする。


 それもなかなかに気持ち悪いのだが、その中身がこの魔物のように捕獲した獲物であれば、なおのこと気持ちが悪い。


「そう言えばキファランガ。お前は何か魔法が使えるのか?」


 若干ワクワクした様子で尋ねるシオン。


「キファでいいよ。親戚はそう呼ぶ。俺は火の魔法が使える」


「すごいな、キファ」


「すごくはないよ。大抵の奴が使えるだろ? それに俺は持続力はあるけど勢いがないからあまり狩りでは役に立たない」


「そうなのか?」


「そうだよ」


 不貞腐れたようにするキファランガを放って、何か考え込むシオン。


 ここに来るまでに、叔父から聞いた情報だけでなく実際に様々な魔物をたやすく狩っていくシオンをみて、少しずつ懐いたキファランガ。


「俺、本当は冒険者なんてやりたくなかったんだ。大した魔法も使えないし、怖いし汚いし。シオンはどうして冒険者になったの?」


「ああ。俺はここら辺で迷子になってな。住むところも仕事もなかったから、適当にできそうな冒険者になった」


「はっ?」


 当然驚くキファランガであったが、当然のように気にしていないシオン。


「まあいい。とりあえず行くぞ」


「行くぞって……。何かいい案でも思い浮かんだのかよ!」


「まあな」





 先日カエルと戦ってた冒険者たちは果たして無事に帰れたのだろうか。それはさておき、シオン達は巨大ガエルの射程に入った。


 感情の見えない瞳に捉えられ、足がすくむキファランガ。……と、怖がっている間もなく、カエルが二人に向かって跳躍する。それをすんでのところでよけるエアーバイク。


 カエルは今二人に背を向けている。


 すると、何を思ったのか適当なナイフを放るシオン。ナイフは空を切り、カエルの右後ろ足付近にサクっと音を立てて落ちた。


「何やってるんだよ! あんな小さなの刺さっても何の効果もないだろ!」


 たしかにカエルは微動だにしない。当たってもいないので当然だが。


 小声で話すキファランガを軽くあしらい、シオンはなおもカエルを見つめている。放ったナイフなど何もなかったかのように気にもせずに。


 カエルはゆっくりと振り返る。左の前足、右の前足。続いて後ろ足。交互にゆっくりと、しかし確実に動いて二人の方向を振り向く。


 背中に背負うものも不気味だが、そのカエルの顔も純粋に不気味だ。ただただ巨大なだけで普通の顔なのだが、巨大なだけに影が落ち、不気味な遊園地の着ぐるみのような様になっている。


 ついでと言うように、長い舌をのばしてすべてを薙ぎ払うかのように舐めとるしぐさをするカエル。ただ舌の射程範囲には入っていないので、これについては二人とも静観するのみ。


 そしてなぜかシオンはエアーバイクから降り、少し離れる。キファランガも仕方がなくバイクを止めて降り、ついていく。カエルは目線を外さず二人に狙いを定める。


 そして間髪入れずにまた飽きずに跳躍するカエル……に対し、


「今度はよけるな」


「な……!?」


 そうあんまりな指示を出すシオン。


 襲い掛かるというよりも降ってくるようなカエルをぎりぎりまで見定めて、すっと身を引き腕一本分の距離だけおいてよけるシオン。キファランガを共に安全圏に引き寄せることも忘れない。


 大跳躍をしてくる超巨大な生物を腕一本分の差で避けるなんてのは、肝が冷えるどころの話ではない。


 キファランガは今起こったことがよく理解できず、目の前にあるのがカエルの尻であるのにしばらく気が付かなかった。


 カエルはその行動パターンに(のっと)り、のそのそぐるぐるとその場旋回をして敵を探す。だが、シオンたちもそれに合わせて動く。


 冗談のように、鬼ごっこの鬼の背後に隠れるいたずらっ子のように、カエルの背後に回り続けるシオンと戸惑いながらついていくキファランガ。


 やがて、なぜかカエルは動きを止める。


「やはりな。こいつ、多分耳がよくない」


「え。僕らがここにいることに気が付いていないってこと?」


「おそらく。先日の冒険者たちとの戦いでもそうだったし、さっきのナイフでもそうだったが、音にはあまり反応を示していない。もっぱら視覚と、もしかしたら、味覚」


 舌でなめとるのは、状況把握のためなのだろう。


 置きっぱなしのエアーバイクが舐めとられてしまわないかソワソワしながらも、


「それで、ここからどうするの?」


 そう素直に尋ねる若き冒険者。


「そうだな。まず、砂地に手を当ててみてくれ。そう。そんな感じだ。そして火を送り続けて欲しい」


 そして素直に狩りを楽しむ赤き冒険者は楽しそうに魔法を使う姿を眺めていた。





 ◇

「こんなところにいたのか、シオン」


 ザバックがシオンに気が付いたのは、特大の物音がしたからだった。


 マリウスたちから話を聞いたザバックは、まずシオンの部屋に行き、何も情報を得られず、次いでゴーシュの部屋に行った。そこは扉が破壊され、部屋の中も踏み荒らされていたが、あまり物は盗られていないようだった。


 当然といえば当然である。誘拐などする者たちは美術品になど目もくれないのだろう。価値を知るインテリ誘拐犯ならばシオンよりも数倍金になるその絵画を盗っていっただろうが、そのままだった。


 ザバックはその絵のモデルをじっくりと観察し、その傾向をさぐり、場所に検討をつけてから出発したのだ。別段ゴーシュのファンではないので、正確にその足取りを掴めたわけではなかったが、近いところまで来ていた。それは、木の魔物の巣食う森の中。


 そこにきての、轟音。


 とりあえず危険回避のためにも、様子を見ようと木の合間から覗き込んだら、巨大なカエルが横倒しになっていたのだ。


 このカエル、雷系の魔法使いを連れてこないと厄介だとの噂は聞いたことがある。横倒しになる討伐方法など聞いたこともなかった。


 だから、早速そこへ向かった。





 思った通りの探し人はいたのだが、成り行きは検討もつかない。


「これは一体どういうことなんだ?」


「あ〜。茹でガエル、的な?」


 聞くと、試しに火の魔法で砂を熱してみたそうだ。「あんなにピンポイントに熱せるんだな」と驚いていた。


「思いつきの戦いに若者を巻き込むな」


 ザバックはそう言ったのだが、シオンは、


「それで。何の用だ?」


 と、どこ吹く風であった。


「そうだ。悪い、のんびり話してる場合じゃなかった。つい非常識に驚いてしまってな」


「だから、何の用だ?」


「ゴーシュが攫われた」


「え!? ゴーシュさんが!?」


 驚いたのはシオンではなく若き冒険者。


「そうだ。討伐の途中悪いな。町に引き返してもらおう。多分俺のホバークラフトの方が早い」


 ザバックがそう言うので、シオンはザバックのホバークラフトに、キファランガはひとりでエアーバイクで帰ることになった。ひとりでと言っても彼は冒険者だしここまで一度一人で来ている実力者なので、問題はなかった。


 待望のホバークラフトに乗り込んだあとも、終始無言のシオンが気になり、


「お前でもやっぱり相棒が心配なのか?」


 そう聞いたザバックだったが、間違いに気がついた。


「お前、怒るとそんな顔になるんだな。怖っ」

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