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魔獣イラストレーターと最強のFランカー  作者: 成若小意
第四章 クラン抗争と追いかけっこ     (推定累計ポイントAランク)

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4-7  キファランガ②

 キファランガはまたまた泣いていた。


 彼は叔父貴と呼ばれる一族の代表がリーダーを務めるクランに所属し、ムヴァという従兄が放棄した依頼を請け負っているところだ。


 そもそも彼は冒険者なんてやりたくなかった。討伐依頼に参加している時は大抵半泣きだ。


「冒険者をやる奴なんてみんな頭がおかしい。猫に引っかかれるだけでも怖いってのに、人間サイズの虫とか鳥とか戦うとか正気の沙汰じゃない。第一、魔法ってのは料理したり人を助けるために使うんだっておかあが言ってたし!」


 と、一般的に考えると至極まっとうなことを呪詛のようにぼやきながら参戦していた。


 彼にとっては不幸なことに、彼の一族は皆冒険者という仕事に駆り出されていた。


 徴兵で魔境での仕事をした後、魔境という空気に取りつかれて再びこの地に身を投じる者たちが一定数いる。また、兵役が長引いて本業がままならなくなり、後続の仕事として冒険者業を選ぶ者も一定数いた。


 キファランガの親族は前者を口実に、実際は後者の理由で一族全体が冒険者になる道を選んでいたのだった。


 そして実は彼のようにいやいや冒険者をやっている者も少なくはなかった。


 しかし、彼には才能があった。結果魔境の僻地に拠点を構えてしまったシオンに自覚なしに肉薄していた。


「なんだよ、この木。これ魔物か?」


 多くのクランが町を中心にシオンの情報を探っている。また一部のクランはソロの冒険者が訪れそうな場所を探っていた。また、魔境での人探しの基本の一つに、魔法の反応光を目安にするという方法もあった。


 そのどれもが空振りに終わっている中、キファランガは着実にシオンの後を追っていたのである。


「あれ、この木の魔物、ツタが(かかと)から繋がっている……」


 なぜ彼がそんなにもシオンの後を辿れているのか。その理由は、繊細な心からくる繊細な観察眼を持っていたから。そして、


「そうか。これが……。確かこの場合はツタを辿って、木の根元に、水をやる……」


 ゴーシュのイラストの愛読者だったからだ。






 ◇◇◇

 木の魔物の森を抜けたところで、シオンとゴーシュは地響きを聞いた。


「なんだろうね、今の音」


 森の隣は再び砂漠地帯。なぜこんなまだらな植生になっているかというと、(ひとえ)にここが魔境だから。とにかく、うっそうとした森林地帯からの急激な砂漠地帯。そこに響く轟音。その正体は何かと確認するため、二人は木々の間から顔をのぞかせた。


 そこに見えたのは、超巨大な()()()の魔物。どのくらい巨大かと言うと、これまで見た魔物の中でも一、二を争うほど。ちなみにシオンが出会った中で一番大きいのは古龍。その次がおそらくこのカエルの魔物だと思われる。それほどに大きい。


 そしてその巨大なカエルが、カエルの常としてそうであるように、跳ねる。少し体が沈み込み、前足を踏ん張り、やがて貯めていた力を解き放つように後ろ足をバネのごとく伸ばし、宙を舞い、再び大地に舞い戻る。


 その足元にはワラワラと冒険者たちが蟻のように右往左往していた。


 果敢にカエルに迫っては、その長い舌でなめとられる。近接戦はよくないと距離を置こうにも、遠方まで飛んでくる。踏みつぶされたらひとたまりもない。


 当事者たちにとってみれば大惨事なのだが、シオンとゴーシュは安全圏からそれを眺めていた。


「どうする? ゴーシュ」


 もちろん助けに入るかとかそういう話ではない。絵のことだ。そもそも他の冒険者の討伐に助けに入るのは、お互いのプライドの問題もありあまり率先してやることではない。


「う~ん、そうだね。あそこまで大きければここからでもよく見えるし、定期的に止まっててくれるし、しかも定期的に飛び跳ねて向きも変えてくれるから……」


 ゴーシュは最後まで言わずに、もうお絵描き体勢だ。つまり、ここから眺めてお絵描きを始めますということである。


 冒険者も巨大カエルもお互い善戦している中、ゴーシュとシオンの周りには穏やかな時間が流れていた。


 そんな時、背後から物音が。


 それはエアーバイクの音だった。爆音とまではいかずともまあまあの音量だったため、近づく前にシオンのみならずゴーシュですら気が付いていた。しかし、その音が自分たちの背後まで来たことでさすがに無視しているわけにもいかず、シオンは振り向いた。もちろんゴーシュは絵に夢中だ。


「あ、あの!」


 バイクは森を抜け、シオン達の少し後ろで停止した。エンジンはかかったまま。少し()()()()()


 そのバイクに乗っているのは、年若いというよりも少年をようやく脱したか否かというほど、幼さの残る若い冒険者。おそらくマリウスたちと同世代。


 エアーバイクも乗りこなしていてなかなかに様になっている。少し長めの茶色の髪と褐色の肌、エキゾチックな面立ちは、この砂漠の地でエアーバイクにまたがっていることも相まって、また一つの魅力的な冒険者像を描き出していた。


 エアーバイクの免許も持っていないシオンは正直うらやましいと思った。


「あなたがシオンさんですよね!」


「ああ。そうだ」


 嘘をつく理由もないので正直に答える。


「そして、この方がゴーシュさんですよね!」


 なんとなく、ゴーシュの方を敬っているように感じる。シオンにとっては雇用主であるのでそれでいいのだが、正直珍しい。


 当のゴーシュは未だ絵の世界の中だ。


「俺たちを追ってきたのか?」


「はい! あ、名乗り遅れました。キファランガと言います」


「よく見つけられたな」


「はい! そう思います。僕も諦めていたのですが、どうせならゴーシュさんの絵の元となった魔物を見ていこうと、イラストになったものを追いかけていたのです。そうしたら偶然たどり着きました」


「そうか。それはまた珍しいな」


「あ、珍しいと言えば! 木の魔物、あれレア色いましたね!」


 途端に振り向くゴーシュ。


「え? え? え? なになになに??? どこにいたの!!!」


 それまではちらりとも見向きもしなかったゴーシュが、レア色の話になると若き冒険者(キファランガ)に飛びつき、肩をつかみゆすり始める。見開いた眼、ぼさぼさな白髪、骨と見まごう細さなのに異様な力の手。それらは普通に恐ろしい生き物と言って差し支えないものだったのだが、意外なことにキファランガは普通に対応する。


「ここに来る途中にいました!」


「え、僕らが来た道を来たんだよね」


「そうです。ジープの轍を辿って……あ! 轍のちょうど間にいました」


 なんだか嬉しそうに話すキファランガとレア物に興奮するゴーシュ。


「つまり、ジープの下にいたわけか。間抜けにもほどがある」


 そして落ち込むシオン。


「シオン! カエルなんか見ている場合じゃない!」


 興奮しながらも的確に画材を片付けていくゴーシュ。こういうところはしっかりとしている。


 そしてキファランガを伴い道案内もとい来た道を辿って逆戻りしたところ、彼の言う通り、轍のちょうど隙間に木製冒険者が。


「おそらく排ガスを吸って勝手に自滅したのだろう」


 シオンがそう推測する。


 レア色がそろったので、また町で絵を仕上げたいと言うゴーシュに従い、皆引き上げることになった。


 キファランガからのクラン加入の誘いは丁重に断った。




 ◇◇◇


 キファランガのようにシオンに会える者もいれば、会えずに諦める者もいた。

 しかし、会えなくともまた異なる手を取る者もいた。


 会えないのならば、会えるように仕向ければいい、と。


「シオンってやつの弱みは何だ?」


「なかなか情報が少なくて。外見的特徴、Fランカーであること、直接の雇用主がいることくらいしか」


「雇用主か……。なら、そいつをさらえばいい」


 そう会話する者たちがいることを、シオンたちは知らない。



次回?ゴーシュ誘拐される。

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