4-1 クラン抗争と追いかけっこ
「これからシオン争奪戦が始まる」
小さな事務所である男がそう言った。
「何言ってるんだ、もうやってるところはやってるだろ。ペッポコのとこも声をかけたと言っていたし」
男の前に座る若手がそう返す。
「そうじゃねえよ。本格的に大手クランが参入してくるってことだ」
「なんで今更?」
「それはな、あいつが黒竜を狩ってきた件が新聞に載ったからだ」
「なるほどな。でも、あの件は少し前の話だろ? 今更新聞に載ったからって何なんだ。ここらではすでに話題になってたし、そもそもあいつはなんだかんだ話題性があった。存在は大体知れ渡ってただろ」
「わかってねえな。『周知された』ってことが重要なんだ。いままでも、あいつのことを認識していたクランはまあまあいた。だがな、大手クランがたかだかFランクの冒険者に声をかけるというのはプライドが許さないんだろう。そんな理由で今まではお互い探り合いながらも大々的な動きはなかった」
ここまではわかるな? と男は一呼吸置く。
「だが、『周知された』ということは、『お前が知っているということを俺も知っている』なおかつ、『“お前が知っているということを俺も知っている”ということをお前が知っているのを俺も知っている』という状況なわけだ」
「意味わからねえよ」
「つまり、全員知っているということを全員が知ったわけだ。つまり、段階が変わった。今までは放置していてもよかった。むしろ、ソロで勝手にやっててくれた方が都合がいい。だが、実力未知数な奴がライバルクランに入ってしまうのは大変都合が悪い。という名目で、これからは大手を振ってシオンを勧誘できるわけだ」
「よくわかんねえけど、有名になったから人に取られる前に先に取っておけってことだろ?」
「まあ、完結に言えばそういうことだ」
男は咳ばらいをし、居住まいをただす。
「と、言うわけでだ。お前シオン探し行ってこい」
「……出遅れているよ。叔父貴。最近シオンについてどんなうわさが出ているか知ってるか?」
「なんだ?」
「『探しても全然見つからねえ』だ」
そんなこんなで、多数クランによるシオン争奪戦ならぬ捜索戦が始まった。
◇◇◇
クランによるシオン争奪戦ならぬ捜索戦が町で始まっている一方、シオンは砂漠地帯にいた。
目の前には、骨を追いかける犬ならぬ、自身が骨で出来た巨大な野犬の魔物の群れが走り抜けていく。時折互いの骨が絡まり、崩れ落ちてはまた組みなおされ、奇妙な動きをする魔物だ。
「こいつら、お互いの骨が入れ替わってないか……?」
そう独り言ちる。
「シオン~。僕の方は描き終わったよ~」
そんな中珍しくゴーシュが先に後片付けを始めている。
シオンはと言うと、お手製の傘のような弾が出るボーガンで骨の犬を打ち抜きく。骨のため,もちろんその体はスカスカであり、傘の弾は体をすり抜ける。
しかし、抜けた先で、傘が開く。
「ちょっと待て、ゴーシュ。アウローラの子供におもちゃをやると約束してしまったんだ」
貫通した先で傘が開くので、骨で出来た胴体に上手に引っかかる。ボーガンの弾からはロープが伸びており、その先端はシオンの手元にある。
「約束って、シオンの言葉きっとわかってないよ~」
ロープをタイミングよく引っ張ると、釣りのように骨付き肉ならぬ骨の犬を捕獲できるという寸法だ。だがなかなか思うようにいかず、何度もトライしている。
「そうだろうな。でも言ってしまったことはちゃんとやりたい」
そんな会話をしながら、魔境滞在のお土産を準備しているところであった。





