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魔獣イラストレーターと最強のFランカー  作者: 成若小意
第三章 シオンのスローライフ        (推定累計ポイントD→Bランク)

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3-2  カメレオン、ランヴィ

 キブリを退治したその日、喋る魚には結局会えないまま帰宅することになった。楽しみにしていたのに、少しがっかりだ。


 しかしながら家にいてもやることがない。シャワーを浴びて道具や武具の手入れをし、露店で買った食事を適当に食べてすぐに横になる。


「豚になる……いや、牛になるだったか?」


 当分はゴーシュが帰ってこないのだから、依頼もない。ギルドに行って依頼をとってきてもいいのだが、仮Fなので大したことはできない。


 だから、やはり翌日も喋る魚に会いにいこうと思う。






 翌朝。まだ日が昇る前だがさっさと出かけようと身支度をしていた。


「……」


 しかし、窓際に並べた、ダッフルコートのボタンのような物が目に入ってしまった。魔物から採集した素材だ。それを見て、今のうちに討伐しておいたほうがいい魔物を思い出す。


「しかたない。こっちが優先か」そう独りごち、目的を変更した。


 部屋の扉を開き一歩前へ踏み出すと、ジャリっという音がする。アパートの共用廊下は、定期的に掃除屋が入っているにも関わらず土まみれだし、外に出ると砂埃舞う大通りだ。


 住む場所は前の宿に比べていくらかマシになったのだが、それでも荒くれ者が多く住む土地だ。あちらこちらが雑然としている。


 大通りを突き進み、ギルド横に設けられたゲートをくぐると、魔境だ。


 ゲートの作りは、支部にもよるらしいが、ここでは木製だった。くぐると言っても三階建てくらいの高さはある。


 大した手続きはなく、ゲート脇でやる気なさそうに座っている職員に身分証の提示を求められるくらいだ。俺は頻繁に通るのでもはや顔パス状態。ここもさっさと通過する。






 なるべくなら狩っておいたほうがいい魔物。それはカメレオンのような魔物だった。名をランヴィというらしい。


 以前その魔物の見学依頼クエストがあったとき手こずってしまい、埒が明かないからと途中で帰ったため、ゴーシュがしばらくの間「まだ全然描けていない」と怒ってたのだ。


 その魔物からいくつか採取した素材を家に持ち帰り、少しばかり研究していたのだが、大体の攻略方法の見当がついたため暇を見て再挑戦しに行こうと考えていた。


 相手の射程が広いので、ゴーシュを連れての対応は少々荷が重く二の足を踏んでいたのだが、一人の今なら気軽にいろいろと試せるというのもある。


 喋る魚はなんならゴーシュとも見られるわけだし……と自分を納得させ、雇用主の喜ぶ顔を思い浮かべる。


 ……さあ、いくか。






「そっちはだめだ!! はさみ込め!」

「んなこと言っても足場がわりーんだよ!」


 荒れ地を抜け、砂漠地帯も抜け、目的地の密林地帯に差し掛かったところ、珍しく同業者がいた。


 ここらへんはネリアに言わせれば組織ギルドという、軍隊が元になっているギルドの管轄地だ。このエリアでソロや少人数で活動する冒険者は実は少ない。


 ちなみに組織ギルドは大規模に人員を展開して、大規模な攻撃を仕掛け、根絶やしにする勢いで戦闘を繰り広げる。そのため危なっかしくてあまり近寄りたくない。


 幸い彼らの戦闘はとても派手なため遠くからでもすぐわかるので、それを見かけたら迂回して行動するようにしていた。


 おそらく、いま目の前にいる奴らは小規模クランの連中なのだろう。人種には詳しくないが、たまに見かける軍人たちとはなんとなく異なる容姿をしていた。二人組のようだ。


 軍人たちはグレーやこげ茶の髪を短く刈り込み、軍服らしき制服を着込んでいたが、この二人は白髪に近い銀の髪。服装も俺がよく行く冒険者用の服屋のものだ。年の頃は二十代前半か。


 流石にこんな奥地にいるので、ランクは中くらいなのだろう。動き自体は悪くないのだが、いかんせん足場の悪さのせいか連携がうまく取れてないようにみえる。


 ここは密林地帯らしくあたりには蔦が張っているのだが、ベトベトしてて下手をすると絡め取られてしまう。


 対戦している相手は今回のお目当て、ランヴィだ。見た目はほぼそのままカメレオンだが、魔物の常なのかサイズが狂っている。体高は人の二倍。体長(頭の先からしっぽの先まで)はその4倍はあるだろう。


 何より気持ちが悪いのは、その目のあるべき場所が落ち窪んているところだ。腐り落ちているのだろうか。大きな仄暗いうろがあいている。


 その見えない目が、若い冒険者二人組のことを見据える。







 ……しかしながら、冒険者というのは格好いい。なんと言っても魔法を使う。


 あまり他の冒険者が戦うところを眺める機会がなかったのだが、ちょうどいいので勝手に見学させてもらうのとにする。


 手のひらから火炎放射器みたいな炎が出ている。


 熱くないのかな。


 基本、魔物は火に弱いようで、火の系統の魔法を操れる冒険者は重宝されるそうだ。この二人も上手に火の魔法を使いこなしている。




 しばらく眺めていたが、惜しいところまでいくものの、なかなか倒しきれないでいた。そしてとうとう諦めて二人は退散するようだ。


 この二人、なんとはなしにチラチラとこちらを気にかけている様子も見せていた。そこで爺さんの言葉を思い出す。あまり手の内を見せないのがこの地では当たり前なのだ。……見過ぎだったのか。


「おい。ひきあげるぞ」


 少し背の高い方の冒険者が、相方にそう告げる。


「あんた。こいつとやるのか。俺たちの戦闘をジロジロ見てたんだ。あんたのも見させてもらうぞ」


 小さなほうが俺の方を若干嫌そうな目で見てそう言った。


「ああ。かまわん」


 持ってきたとっておきの武器を取り出して、選手交代だ。







「ちっ、素人はこれだから」

「おい、お前。カメレオン(ランヴィ)は短期決戦が基本だ。棘を飛ばし始めたら一度引くんだよ」


 俺の戦い方が気になったのか、しびれを切らしたように二人が助言をくれる。彼らは兄弟らしく、息のあった調子でダメ出しをガンガンしてくる。


「まあ、棘は痛いしな」


「そうじゃねーよ。毒やら雷やら色々とパターンがあるんだ。だからたとえ歴戦の魔法使いが対応しようがどのパターンか読めないから、棘飛ばし始める前に潰すしかないんだよ」


「そうだよ。一旦飛ばし始めたら落ち着くまでだいぶかかる。オレたちは何度も繰り返してたからもうこんな時間だ」


 たしかに、日はすでに傾き始めていた。


「情報ありがとう」

「いやいやいや」

「情報以前の、常識だ!」


 なるほど。遠距離攻撃型なのでこの地域に入る者は基礎知識として頭に入れているわけだ。


「そもそもギルドで説明されるだろ」

「人の話はちゃんと聞かないと」


「あ〜……」なるほど。


 とりあえず、自分流の戦いを始めることにする。


 調べたつもりでも組織に所属していないとどうにも情報が偏る。身をもって知ることも多い。基礎知識も、ギルドの補助も、魔法も何もない俺だ。できることをコツコツとやるしかない。


「こいつの棘なら、多分大丈夫だ」


 推測はあっているとは思うが、過信は禁物だ。念の為しばらくの間、棘を飛ばしてくるのを見定める時間として割り切った。


 カメレオンは二つの虚でこちらを見やり、口を大きく開け、喉の奥から棘を飛ばしてくる。


「そこは本来ベロが飛び出すところだろうに」


 魔物となることでその生体が変わってしまったのだろうか。それとも、元からこの地域に住むカメレオンはこんなのだったのだろうか。


 そもそも、元々いた動物が魔物になるのだろうか。


 ……思考に(はま)りそうになるのは俺の悪い癖だ。頭を切り替え、目の前の獲物に集中する。


 調子が出てきたのか、ランヴィはテンポよく棘を打ち出してくるようになった。


 はじめは単純なる棘。

 つぎは雷を(まと)っている。

 つぎは……毒か。


 見極めつつ、避けていく。






「な……なんで来るやつがわかるんだよ」

「反射神経か?」


 二人組が驚いて聞いてくる。棘から逃れるように木の影に隠れながら。


「さすがに反射だけだと間に合わん」


 驚いてくれて少し嬉しい。仕込んできた手品に驚いてもらったような気分だ。


「やつの棘の数と、鱗の横に並んだ沢山の(あな)がおそらく同じ数なんだ。そして、飛ばすときにわずかに孔が膨らむ。穴の色によって針の種類が違う」


 長いことお絵描きゴーシュと共にいたのも良かったのかもしれない。ゴーシュはじっくりと観察して緻密な絵を描く。触角の節の数。ひげの長さと体の大きさの比率。その骨格から連動する部位。様々な事柄をよく観て描く。


 俺もそこから学ぶものが多い。今回のように体側の孔と口腔からの棘が連動していることを推測できたのもゴーシュのおかげだろう。


 ヒントがあると対応は格段と容易たやすくなる。武器屋でいろいろと購入していてよかった。

 毒が来たらそれ用の盾で打ち返す。雷が来たら雷耐性の盾で打ち返す。氷がきたら……。


 つまり、飛んでくる棘に対応した盾を構えれば被害はないのだ。大切なのは瞬発力で。


 そう二人に解説しながらも、ランヴィの攻撃を適した方法で打ち返していく。瞬間的に相手の出す攻撃を見定め、それに適した方法で対応していくのだ。


 ああ。これなんかに似てるな。


 日本の、古くからある、遊戯。相手の出方によってこちらの手を変える。


 たしか……、


「叩いて」


「叩いて?」


「かぶって」


「かぶって?」


「じゃんけん……」


「なんだそれ」


 ツッコミを無視しながら、バンという大きな音とともに棘を打ち返した。


 打ち返したら、ランヴィはあっけなく倒れてしまった。うまく棘がランヴィ自身に刺さったのだ。打ち返した棘のあたった部分がズブズブと溶けて崩れ落ちていく。


「自分の毒は耐性がありそうなもんなんだがな。こいつは自滅するようだ。まあ自宅で実験してみたら普通に皮膚が溶けたからある意味予想通りだ。もしかしたら内膜に耐性があるが皮膚にはなかったのだろう」


 ……解説しているのに、二人が反応してくれない。ランヴィが得体のしれない煙を上げて崩れていくのを口を開けてみているだけだ。


「あ。しまった。倒しちゃいけないんだった」


 不意に思い出す。


「なんでだよ」

「なんのために戦ってるんだよ」


 二人は我に返ったのか、また反応するようになってくれた。


「俺の雇用主は生きたままの魔物を観察することをご所望だ」


 ゴーシュに見せてやろうと思ってここまでやってきたのに、ここまでグズグズに瓦解がかいしてしまっていると、流石に持って帰れない。


 今度はしびれさせたり固まる方法を模索する必要があるな。ある程度方策はたったのでゴーシュを連れてきてもいいかもしれない。







「さあ、帰るか」


 いつまでもここにいても仕方がない。


「え、置いてくの? 素材の回収は?」


 背の低いほうが聞いてくる。


「ああ。置いていく。持ち帰れないしな」


「なんでだよ。おまえ、クルマ(あし)はなんだ? 小型車なのか」


「足は自分の足だ」


 そう答えると、二人は怪訝な顔でこちらを見た。


「………なんだかすごいのかすごくないのか、よくわからないやつだな。」

「むしろこんなところまでよく徒歩でこれたな。やっぱりすごいわ」


 流石兄弟。息が合っている。


「乗ってけ」


「そうか? 助かる」


 こうして、冒険者兄弟にランヴィごと車に乗せてもらって帰れることになった。


 ◇◇◇

 今回もまたシオンが魔物の話をするのをめつけるように見ている者たちがいた。


「やはり冒険者の作法がわかってないようだ。やつのことは何かわかったのか」


「あまり具体的には。やつはどこにも所属してませんでした。しかも、まだFです」


「なんでそんなやつがあのエリアをウロチョロしてるんだよ。まあ。中途半端に才能があるやつなのかもな。手綱握るためにもウチに引き入れろ」

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