2-17 付録 武器屋の爺さん
あと三話ほどで第二章が終わります。
よろしくお願いします。
「シオン。お前は運命に身を委ねすぎるきらいがあるな」
そう言ったのは、かつては歴戦の戦士だったであろう、武器屋の爺さん。引退して尚、筋骨隆々としているのはなぜだろう。とりあえず武器屋の店主が似合う男だった。
「『運命に身を委ねる』か。なるほど。言われてみればそうかもしれない」
「死ですらも受け入れそうだな」
「どうかな」
「シオン。お前はこの業界では稀に見る丈夫だ。命を大事に使ってくれよな」
「どうも」
店主とそんな会話ができるようになったのは、この武器屋に何度か通ってからのことだった。
町には寝るためと食事のため、そして武器を揃えるために主に帰る。ここ最近はそんな日々を送っていた。
武器屋は基本的にどの町でも主に二箇所に分かれて配置されていた。一つは魔境側。魔境で仕入れた素材をそのまま運び入れて加工するのに丁度いいためだ。そしてもう一つは真逆で魔境の対面側。つまり周辺国側。周辺国からの補給が定期的に入るため、卸業者がそのまま取り扱っている形だ。
そのため魔境側の武器は魔境由来の素材を使った変わった物が多く、周辺国側の武器は文明を感じさせる洗練された物が多い。
俺はそのどちらも好んで使っているが、多少使い方が荒くても壊れない、耐久性の高い魔境側の武器の方が結果的に使用頻度は高い。
「おう、シオン。また買い替えか」
武器屋の爺さんは爺さんと言えどかつては名を馳せた冒険者だったのだろう。剣呑とした瞳は半端な者を射竦めるだけの力があった。
「ああ。また壊した」
やや薄暗くボロい店の中で、手に取った剣を僅かに差し込む陽の光にあてながら答える。
爺さんは苦笑していた。
爺さんとはこの地に移籍して、ギルド証が使えないと指摘されて以来の付き合いだ。初めはぶっきらぼうな対応というか、不審人物を見る目で見てきていたのだが、そのあとも俺が頻繁に訪れ、あまりに来すぎるためにさらに不審人物扱いされることになった。
あるとき声をかけられ「転売しているのか」と聞かれたので、耐久戦が多く壊れやすいのだという事情を語った。そしたらその内容に興味を持ったのか、俺の狩ったことのある魔物の種類を聞いてくるようになった。
そこから爺さんはまれにポツポツと、自らが冒険者として活躍していたときに得た、冒険者としての心得を教えてくれた。
癖のある武器の扱い方。購入場所の注意点。関わってはいけない連中。魔物を倒すコツ。
なにより、生き延びる方法。
ゴーシュやマリウスたちは、やたらと俺のことを強いと褒めてくれるが、そんなことはない。この地で生きる歴戦の猛者たちがいる。彼らは、この爺さんは、命をかけてその中で磨きぬいた技を持っている。
ゴーシュやマリウスたちはあまり奥地にいかないので、そういう強者と出会う機会がないのだろう。だから俺の戦いぶりが凄いように思ってしまうだけだ。
上には上がいる。この地で生きる人へのリスペクトが強まる。
「俺はまだまだだ」
爺さんの話は、俺にはできそうにない技ばかりだった。
できそうにはないが、憧れはある。そのため、爺さんの英雄譚聞きたさに足繁く武器屋に通ってしまっていた。
「なあ。じいさん。頼みがあるんだ」
「なんだ」
だいぶ親しくなった頃。
「俺だけじゃなく、町の子どもたちにもいろいろと教えてやってはくれないか?」
「ああ。ムラの子供か」
「? 町の子供ではなく?」
「この地ではあの子達のことをムラの子供といってるんだよ」
「そうか。通称ということか。そういえば知人が言っていたな」
ネリアの授業でやった気がする。
「オレも子供らのことは気になってはいたが。しかしシオン。お前気安く言ってくれるな」
「爺さんのことを見込んでのお願いだ。なにも全てじゃなくていい。生き残る術だけでもいいんだ」
「その様子だとあまりわかっていないようだな。この地では、情報は命より高いんだ」
爺さんは、じっと俺の目を見て教え子に語るように説明をした。
「なんのために命がけで戦っているかというと、魔物の素材が欲しいからだ。もしくは、討伐の手柄か。なのでなるべく魔物の討伐方法は独占したい。情報漏洩で殺し合いが起こるほどだ」
組織ギルドも、帝国ギルドも。
「田舎の方では故郷を守るために、人を守るために戦う。だからまだ緩やからしいと聞いたことはある。しかし、冒険者業界の主流は、金のためだ。命がけだからこそ貴重な討伐方法は秘匿する。その流れで、情報全般が高価なんだよ」
「ネリアに聞いてはいたが、殺し合いか……。そこまでだとは思っていなかった。俺の認識が甘かったようだな。悪かった」
「いや。オレも気にはなっていたのは事実だ。死なない程度の知識を教えてやるくらいなら、考えてやってもいい。だがな、現実問題、時間というか、金がないんだよ。オレもギリギリで生活している。店を空けるわけにもいかないから無理なんだ」
「なんだ、そんなことか。それなら俺が払ってやるよ。指導料だ。店番くらいならバイトを雇えばいい。ちょうど裏手が空き地なんだから、そこで指導すれば、何かあったときすぐに店に戻れるしな」
どうだ? と尋ねると、ちょっと呆れ顔になりながらも、「わかったよ」と引き受けてくれた。
やっぱり思った通り。いいやつだ。
☆☆☆武器屋の爺さん視点
ある時からシオンという大柄な冒険者が店を訪ねてくるようになった。佇まいから滲み出る強者の雰囲気とは裏腹に、少年のような瞳をしているので、ついつい気を許していろいろと話したくなってしまう。
あるときはムラの子供たちのために金を出すと言っていた。お人好しのようだ。
子供たちにも慕われているようで、最強のFランカーだと呼ばれていると言っていたが、それについても謙遜していた。
……そういえばこいつFランカーだったな。ギルドカードは仮のFランカーだし。見た目とかけ離れた評価なので、ついその事実が頭から抜け落ちる。
たしかにシオンの狩った魔物の話を聞くと、弱くはないが最強と言うほどでもないのかもしれない。
まあ、俺が弟子と認めて直伝で技を教えてやっているわけだ。同じクランでもないのに技の伝達など稀なケースなのに気がついていないようだが、素直な性格のこいつがちゃんと実行すれば、やがて最強の冒険者に名を連ねる日が来てもおかしくないだろう。
そう思い、
「オレの行ったとおりにすれば、最強になれるぞ」
そう言ったのだが、
「いや、無理だ」
すぐに否定された。
「なんでだ」
「俺は魔法が使えない」
「……は?」
「俺は魔法が使えない」
「……意味がわからないが、お前が今まで狩っていた魔物にも使っていないのか?」
「ああ」
いつもは自信があふれているように見えているのに、若干落ち込んでいるようにも見えた。いや、いじけている? しかしながら魔法も使えずに魔境に赴くとは。
シオンが帰った後、呟かずにはいられなかった。
「なら、お前はたしかにある意味最強かもな」





