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魔獣イラストレーターと最強のFランカー  作者: 成若小意
第一章 魔獣イラストレーター

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1-3  最弱のFランカー

 ゴーシュの依頼を受けると、たいてい朝から晩まで同じ魔物と戦っているように思う。しかしそのおかげで面白い発見をすることもある。


 鎌虫とはずっと戦っていたおかげで、仲間を呼び始め、レア色を集められることがわかった。以前戦ったことのある鞠は結局長時間戦ったおかげで羽化をして、発生地が不明だったモルフォイという魔物(の繭)だったことがわかった。どれも短時間ではわからなかったことだ。


 ちなみに前回追いかけられた黒い玉(モリル)は、跳ねる回数が多いほど色が薄くなり、色が薄いほど孵化した後の体もでかく足も早かった。


「渓谷に落ちた距離が長いほどバウンドするからね。深い所まで行った子が強くなるようになっているのかも」

 ゴーシュはそう推察していた。これも玉を投げ続けなければわからないことだっただろう。


 瞬殺できてしまう雑魚とわざわざ長時間戦うバカはいない(俺以外)。Fランクレベルの魔物に関しては誰よりも知識があるかもしれないと思うようになってきた。






 瞬殺できるような魔物の依頼がまたきた。てんとう虫に似た巨大昆虫タイプの魔物が今回のご依頼だった。この虫、てんとう虫と同様に身を守るために臭い液体を出す。


 ゴーシュはその液体を描くことが()()()らしい。


「キラキラ光っていてキレイ」とのことだった。


「こんなもの描いて何が面白いってんだか」


 全く理解できないが、依頼主の希望を聞いてやるのが俺の仕事だ。とりあえず何も考えずに対応することにした。ゴーシュの依頼をこなすコツは、虚無心だ。心を空っぽ、頭も空っぽにして対応していればいつの間にか依頼は終わっている。意味を求めてはいけない。


 今回の依頼はとても楽だった。


 このてんとう虫、ひっくり返すと自力ではなかなか起き上がれない。普通ならひっくり返して弱点の腹に剣をひと刺しすれば終わる話なのだが、おなじみゴーシュの依頼なのでそれはしない。


 重すぎて飛ぶことはできないらしい。少し哀れになってくる。


 いつもと同様にとどめを刺さないのだが、この魔物はひっくり返っている間攻撃をしてくることはない。つまり、俺の仕事は延々と起き上がってくるこの魔物をひっくり返すだけ。


 三匹ほどかたまっているところを発見したので、さっそく重たいコイツらを力づくでひっくり返して、裏返ってジタバタしている様をまずはしばしながめる。そのうちに起き上がれるモノが出てくるので、それをひっくり返す。


 たまに腹の横を突っつくと、一番後ろの足の関節付近から、ぷくっと黄色い液体を出してくる。臭いので鼻がもげそうだ。俺は鼻と口を覆うように布をまいているのだが、それでも臭ってくるので口で息をする。


 気をつけなきゃいけないことは、もがくこいつらの足にうっかり引っかからないようにすることと、この臭い液体が体についてしまわないようにすることくらいだ。


「すごい! すごいよ! シオン」


 ……それともう一つ。ゴーシュが魔物に近づきすぎて食われないようにすることも。これが一番厄介だった。


 何度も近寄りすぎて一度は魔物の足に引っかかってつかまり、ひっくり返っている魔物にそのまま食われそうになっていた。この時ばかりはゴーシュの指示(『もう少し魔物の口を近くで見ていたい!』)を無視して、この一匹にはとどめを刺した。


 助けたのにもかかわらず文句をぶつくさ言われる理不尽さに耐えながら、延々とてんとう虫をひっくり返す。


 この、魔物の立場からすると嫌がらせにも似た(むしろ完全なる嫌がらせ)作業をしているうちに、段々とこいつらが不憫に思えてきた。 


 起き上がってはひっくり返らされ、腹をつつかれて護身用の溶液を出し……。それも朝一番からだ。残る二匹のうち一匹はとどめを刺すまでもなく、とうとう力尽きて絶命してしまった。流石に可哀想だった。


 もう一匹残ったやつも、もうだいぶ力がなくなってきており、もがく手足も弱々しい。


 そんな時ふと違和感に気づいた。


「あれ……?」


 ゴーシュも気がついたようだ。 


「ねえ、シオン。この子の臭液、薄くなってきてない?」

「ああ、俺も今そう思っていたところだ」


 一日中臭いをかいで鼻がバカになっているので臭いが薄くなっているかはわからないが、見た目は明らかに薄くなっていた。


「可哀想に。液体を作る機能も枯れちまったのか」


 そう憐れみながらも、俺は突く手をめない。そうしないと俺も帰れない。流石にもう帰りたい。


「あ……!」


 すると、今度はゴーシュが目を輝かせながら嬉しそうに叫んだ。


 俺は嫌な予感がした。この声を出したゴーシュは、何かに熱中し始める。つまり、まだまだ帰れない可能性が出てきたということだ。


「シオン、見て見て! 臭液が透明になった」


 そう言われて見てみると、なるほどほぼ透明だ。


「そうだな。ただの水なのか?」


 そう言いながら俺も魔物の足元を覗き込む。死んではいないがほぼ死んでおり、手足の動きは緩慢だ。それでも注意しながら、足の付け根の臭液(ほぼ水?)を観察する。


「……ねえ、シオン。これやばいと思うよ」


 その言葉を聞いて、ゴーシュが二の句を次ぐ前に俺はゴーシュの襟首を掴んで引き寄せる。


「何がやばいんだ? 毒か?」


 危険を察知したときにやるのは会話ではない。まずは避難。そうしてからの状況確認だ。その冒険者としてのセオリーを踏んだだけなのに、俺の手にぶら下がったゴーシュは昆虫のようにもがきながら文句を垂れる。


「離してよ、シオン! いいところだったのに」


「危険はないのか?」


「ないよ!」


「なら何がやばいんだ」


「それはね……あ! ちょっとまって、やばやば」


 そう言いながら、慌てて魔物に駆け寄るゴーシュ。その姿はまるで大切なペットのお別れに立ち会う飼い主のようだ。


「……死んじゃう! この子も!」


 そういいながらゴーシュは懐を何やらゴソゴソさぐり、そして瓶を取り出す。


「シオン、ここ持って」


 言われたとおりに魔物の脚を注意しつつも持つ。そうしないと、虫が死後そうなるように、脚が閉じていってしまうのだ。


 ゴーシュが何をしたいのか未だ不明だがそれはいつものことなので、とりあえず指示に従ってやる。


「脚閉じちゃうとこの液取れないからね」


 そう言って、脚の付け根の透明になった臭液を瓶に回収した。


「シオン。これなんだと思う?」


「……臭液だろ?」


「うん。」

 ゴーシュは勿体つけたようにニンマリと笑う。俺はイラッとする。


「そして、超高濃度の、()()()()()


 そこで俺はようやく合点がいく。


 昆虫っぽいと言っても、コイツラは魔物だ。そして臭い液体と言っても、魔力が宿っている。そう。この臭い液には高い魔力が宿っていたのだ。


 しかし、臭いのでなんの活用も今までできなかった。それが今はどうだ。鼻を覆った布を外して嗅いでみた。臭いは多分ない。色も透明。こいつが本当に高濃度のエリクサーだったとしたら、本当にやばい。とんでもないことになる。






 最後の一匹が意外と粘ったので、結局夕方まで帰れなかった。つまり、この日も朝早くからこのてんとう虫に似た巨大昆虫と戦っていたのに、日が暮れても同じ絵面だったのだ。


 そこをまたグラドたち御一行が通っていく。


 俺たちが狩場としているのは、ギルド指定の狩場のうち最浅部。ランクが上の者たちはそこを通ってさらに奥地に向かう。同じギルド支部からやってくるならほぼ同じ道を通る。つまり、Fランク用の狩場はそのギルドから来る全冒険者の通り道でもあるのだ。


「お、シオンだ」

「まだやってんのか。昼もいただろ」

「あれドームじゃね?」


 ドームとはこのテントウムシ型の魔物の名前だ。


「うそだろ? あれ今日始めたような冒険者でも瞬殺できるやつじゃないか?」


 3人のうち一人はそう発言し、もう一人は本気で心配しているようだった。


「あんな最弱の魔物も倒せないようだと、冒険者をやめたほうがいい」


 心配した男のその言葉を異なる意味で受け取ったのか、グラドが笑いながら言った。


「そうだな。あいつは冒険者失格だ。最弱の魔物も倒せないんだから、最弱の冒険者だ」


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