2-7 見習い冒険者 マリウスと仲間たち
討伐ついでに採集した素材を、少年の冒険者(見習い冒険者と言うそうだ)と運んでいたら、たびたび絡んでくるやつがいたわけだが、つい気絶させてしまった。その冒険者をリヤカーで運んでそいつの身内を探して渡したら、微妙な空気になってしまった。
その後も何度か絡んでくる輩はいたのだが、そのたびに伸していたらいつの間にか絡まれることはなくなった。以前の経験からちゃんとギルドの敷地外で対応することにしたのもよかったのだろう。特に出禁を食らうことなく過ごせた。よかった。俺が求めているのは安定している生活だ。
その後、少年たちの間で取り分についてもめることがあった。一番乗りだった少年や大きな獲物を荷台に運んだ少年、まだ息のあった魔物の止めを刺した少年などが取り分を多く貰えるはずだと主張するようになったのだ。
「おい。素材を持っていくのはいいが揉めるのはやめてくれ」
「でもシオンさん! こいつずるいんですよ!」
「いや、ずるいのはおまえだろ。シオンさん聞いてくださいよ」
「みんなシオンさんを困らせるな」
揉めている割には、なんだか懐かれているような気がする。
「それじゃこうしろ。働きたいというなら、お前たちには一律にバイト代を出す。荷台を持ってきたやつには別にレンタル費用を払う。その他も考えてから追加報酬を決めてやるから、もう揉めるな」
俺がそう言うと少年たちはひとまずはおとなしくなった。
そう話しながら俺たちが向かうのは今回は水辺のエリア。少年たちはピクニック気分なのだろう。楽しそうに持ってきたお菓子などの話をしている。今までは討伐エリアの近場で待機していてもらったのだが、今回は見学をしたいというのでそばまで連れていくことになったのだ。
「シオンさん、今日の獲物は何なんですか?」
「クラケン草だ」
そう答えたらなぜか全員黙った。
「なんだ。お前たち怖いのか?」
全員押し黙る様子を見るに、今日の狩り(お絵かき)の対象を知らなかったようだ。
「……マリウス。対象の下調べはクエストには必須だと前に伝えたはずだが」
子どもたちは別に狩りには参加しない。しかし何があるかわからないのがクエストだ。下調べは当然するべきだろう。俺についてくるのなら最低限のことはしておいて欲しい。そう説明すると、
「本当にクラケン草だとは思わなかったんだ」
と、マリウスは半分不貞腐れながら言う。
「なぜだ?」
「だって……。だってシオンさんがいくら強いからって、あんなの相手にするなんて思わないから」
そう言いながらもたどり着いた場所は湿地帯。原生林が広がり苔むした木の根や岩場が広がり、その間を穏やかに川が流れている。
植生豊かでシダ植物のようなものも生えており、小動物も多い。なかなかに俺が好きな景色だ。そして特筆するべきは巨大なチューリップのような花。クラゲのような組成なのか、半透明な花びらが壺のような形を成して生えていた。大きさは子供が入るくらいのサイズだ。
皆息をのんで景色を見渡している。
「なかなかきれいな場所だな」
「……」
俺以外の全員が黙って首を振る。ゴーシュすら言い出しっぺのくせに口の端を引きつらせて首を振っていた。
「シオンあの魔物の中身見えてないわけ?」
状況判断は冒険者の基本だ。見えてないわけがない。
「魔物が溶けているな」
そう。この草|(?)の魔物は食虫植物のように魔物をとらえて溶かして喰うという性質があった。そのため川沿いに一面に広がるチューリップ畑のようなクラケン草の中には、総じて何やらの魔物が溶けていた。
この魔物、死を如実に見せつけるため、死を象徴する魔物として嫌われているのだというのだ。常に危険と隣り合わせ、死と隣り合わせの冒険者たちにとって大変縁起の悪いものと聞く。
魔物の死骸なら割とあちこちにあるため珍しいものでもないのだが、器が透明なので溶けていく様、有が無になる様がはっきりと見えるのが嫌なのだそうだ。魔物に食われた後どうなるのかを見せつけられているかのような。
文化によって縁起がいいもの悪いものはさまざまにある。ここではそのような風習なのだなとゴーシュに伝えたら、「どんな文化でもあれは嫌がると思うけど……」と言われた。
「おい。みんな荷台に乗れ」
少し近づいてから俺は少年たちに指示を出した。全員文句も言わずに荷台に乗り込む。
「ゴーシュは俺から離れるな」
ゴーシュは文句も言わずに俺の指示を完全に無視してクラケン草のもとへ走り出したので、首根っこを掴まえてその場にとどめる。
「元から知っている者もいるだろうし、さっきマリウスから説明があったから全員が理解していると思う。今回は特に魔物に攻撃を仕掛けることはない。お前たちはこれ以上に近づく必要もない」
手の内で暴れているゴーシュ以外はおとなしく聞いていた。クラケン草は近づいた魔物を不意打ちでとらえるという方法で狩りを行う魔物だが、遠距離にいる獲物についても襲うことがある。蔦を使って引き込む方法と、もう一つ、
「誘因香というものを使って引き込むこともある」
「じゃあゴーシュさんは今、誘因香を吸っちゃったってことですか?」
「いや、こいつはただの性格だ」
「え~」と子供たちにドン引きされても尚クラケン草に突撃しようとするゴーシュとともに、二人でもう少し近づく。子供たちはこの場にとどまるよう指示を出しておいた。いい子たちだ。
「ゴーシュさんがシオンさんの保護者みたいなもんかと思ったけど、やっぱりゴーシュさんもおかしいね」
そんな会話が背後から聞こえてきた。
今回の仕事は子供たちの反応に反してとても楽なものだ。魔物に近づく必要がないため、あまりすることがない。ゴーシュは近寄って描きたいと言ったが、離れて書いた方が無数に広がるクラケン草というこの壮観な景色が描けると説得した。そもそもあまり近づきすぎると誘引香にやられて即掴まる。
ゴーシュが絵を描いている間はたまに来るツタを切ればいいだけだ。狩りというよりも作業感が強い。子供たちも少し離れたところで、しかも台車の上にあげているので難易度が下がっているため、全員で協力すれば対処できるだろう。
子供と言えど冒険者の端くれ。甘やかしも良くない。保護と放置の加減が重要なのだと感じる。
この日もいつも通り日が暮れるまでゴーシュのお絵描きに付き合い、クエストは終わった。今回の素材はツタ。思ったよりも大量に採れたので回収していく。子供たちは思いのほかぐったりしているので俺がある程度回収し、台車に子どもたちを乗せて帰ることになった。しかしぐったりしている割にはおしゃべりだ。
「シオンさんやべえ」
「あのツタの数を延々と捌いていて平然とした顔してる」
「速度もおかしい。ツタがあんな早いなんて聞いていない」
「ゴーシュさんの周りの量がやばかった」
「でも俺たちがやばい時ナイフ投げて助けてくれた」
クラケン草生息地域である湿地帯を抜け、ギルド支部が見えてきたころには子どもたちは完全に元気だった。
「ここは最高のバイトだぜ!」
「金もいいし、経験も積めるし、何より最高の格闘ショーが見られるからね!」
「ゴーシュさんもおかしいけどやっぱりシオンさんが最強におかしい!」
褒められているのか、けなされているのかわからない。
「やっぱりお前ら歩いて帰れ」
「えー」と言う子供たちを台車に乗せながら帰るのだった。
そんなこんなで子供たちにも懐かれ順調な日々を送っていたある日、懐かしい顔を見る。
「シオン。お前この町に来てたのか」
好青年ザバックだ。
「ああ。ザバックもここに滞在するのか?」
「そうだ。てっきりお前らが一つ前の町にいるのかと思っていたから、探すのに手間取った」
「なんだ? 俺たちを探してたのか」
「そうだよ。言っただろ。お前ら放置してたら何するかわからないからな」
「余計なお世話だ」
そう言いつつも気にかけてもらえるのは正直にありがたいので礼を言う。
「それで? 問題はなくすごせてるのか?」
「ああ。順調な日々を送ってる」
「それは重畳。ランクも上がったか? おまえならもうDくらいにはなってるだろ」
「いや。手続きの関係で(仮)Fランクになった」
「なんで下がってんだよ!!」
第四十一支部にザバックの声が響き渡った。
第三十六支部 最初の町。田舎。
第三十九支部 出禁の町。やや都会。
第四十一支部 仮免許の町。現在滞在中。





