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魔獣イラストレーターと最強のFランカー  作者: 成若小意
第一章 魔獣イラストレーター

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1-2  永遠のFランカー

「シオン! 今日はいつも以上にいい絵が描けたよ。また明日もよろしくね」


「明日もか。俺に休みはないのか」


 相変わらずゴーシュからの依頼がひっきりなしにくる日々が続いている。依頼を受けたときには年に数度のつもりだったのに完全に計算違いだ。おかげで目前だったEランクに全く上がれていない。


「え、明日の分も今日行ったほうがよかった?」


「いや、そういう事ではない。まあいい」


 依頼を終え、ヒョロヒョロなのにやけに体力だけはあるゴーシュを見送り自分も住処に戻る。


 ゴーシュからの依頼が頻繁なせいで他の依頼を受ける時間がないのだ。単発の依頼も受けられないのでなかなかランクポイントが貯められない。かといって、ゴーシュの依頼を断りすぎると契約違反になってしまう。


 ギルドの規約で、『正当な理由なき契約破棄はランクポイントマイナスの対象』『頻度の高い契約破棄または悪質な契約破棄と判断された場合は違約金支払いまたは冒険者資格の剥奪』というものがある。契約破棄とまでいかなくても、契約内容の一部不履行でもギルドの判断によっては罰則が適用されるとも聞いた。


 大雑把な性格の者が多いこの業種では普通に契約破棄や契約違反をする者もいたが、あいにく根が真面目な俺はなるべくならルールを守りたい。そのため、ゴーシュからの依頼に思うところがあっても、自分から破棄しようとは思わなかった。


 まあ、別にランキング争いに強いこだわりがあるわけではないし、安定的に稼げればそれでいい。ゴーシュだってきっとそのうち飽きるか、そのイラスト集とやらを完成させて、依頼を完了させるだろう。そうすればEランクにくらいなら慌てなくても上がれる。


 安定を求める俺にとって、常に仕事があるこの依頼はうってつけといえばうってつけだ。まだしばらくはこの状態でもいい。だが、なぜか精神的な不安定感が半端ない。ゴーシュの探究心は止むところをしらず、危険な場所での観察など当然。閲覧注意的な()を欲しがることもあるので、心臓に悪いのだ。


 この前も鞠と言う魔物を描きたいというので同行した。体高が人間の三倍ほどある球体の生物で、薄桃色で表面に血管が浮き出ている。ゴーシュは()()()()()()を探していると言い……グロテスクなので、もう忘れたい記憶だ。






 一転、今回の依頼はとても退屈そうなものだった。バスケットボールくらいの大きさの黒い玉を描きたいというのだ。球体続きだ。シンプルな外見だけに絵面えづらとして面白さは感じない。そんなもの描きたいのかと意外ではあったが、楽な仕事に文句があるはずもない。依頼主様に申しつけられたとおりに今回も作業を開始する。


 楽な仕事だと予想できるが、それでも俺は装備を万全にしていく。ごついブーツ。頑丈な胸当てと脛当て。防具がない部分も鎖帷子くさりかたびらのような丈夫な素材の生地をなるたけ使った服をガチャガチャと音をさせながら着こみ、依頼に合わせた武器えものを持つ。今までの稼ぎの大半はこれらの武具防具につぎ込まれていると言っても過言ではない。


 ちなみにこの世界はとてもすごしやすい気候だ。もしかしたら色々な地域があるのかもしれないが、少なくとも俺はこの辺しか知らない。


 この辺の気候は、やや涼しめなステップ気候といえばいいのだろうか。乾燥していて、植生に乏しい。しかし、朝夕は肌寒い。夏は適度に暑くなるが、灼熱というほどではない。


 防護の為に肌をなるべく露出しない格好をしているので、涼しい地域なことに感謝だ。


 そんなことを考えながら、ぼろいアパートの木製のドアを押しあける。






 ◇

 依頼のあった地域はゴツゴツした岩場の間に突如現れる渓谷、マニョーサ渓谷。そこにゴーシュを連れていく。というよりか、ゴーシュに連れていかれる。


 意外なことに車やらホバークラフトやらいろいろな移動道具がこの世界にはあるのだが、俺は免許を持っていない(試験が難しい)。ゴーシュは世界中の美しいものみたさに免許をとったらしい。つまりゴーシュの運転で俺が助手席だ。早く免許が欲しい。


 ジープのような車に乗って乾燥地帯を爆走し、目的地に着いた。


 渓谷は、もし底に落下したとしてもジープですら豆粒くらいの大きさにしか見えなさそうな深さがある。


「それで? ゴーシュ。今回は黒い球のお絵描きだったか? どこにいる……って、おわっ! なにしてんだ」


 ゴーシュが俺の話を聞きもせずに、渓谷から枝分かれした小さな大地の切れ目に頭から突っ込んでいた。逆さまになって足だけ出ている状態だ。


(最近巨大昆虫ばかり見ていたのでゴーシュもなんだか虫に見える……って、そんなこと考えている場合じゃないな)


 我に返ってゴーシュの足を引っ張り上げる。その手には黒いボールのような物体が抱えられていた。


「それが今回の目標物か?」


 ゴーシュを逆さまに吊り下げたまま俺がそう聞くと、


「そうそう。素敵でしょ!」


 そう笑顔で、逆さ吊りのままのゴーシュが言う。


「ゴーシュ。出発前の説明では、お前も初めて見ると言っていたよな。よくわからない物体をいきなり素手で触ってはいけない」


 そう説教するがこいつは絶対聞いていない。


 俺が降ろしてやった途端、ゴーシュはおもむろにそのボール魔物(?)を浅めの渓谷に投げつける。


 渓谷は大地溝帯もかくやと言えるほど大きな台地の亀裂と、その周りに枝分かれした小さな亀裂があり、小さな方は場所を探せば容易に降りられる部分があった。そこにゴーシュはボールを投げつけたのだ。目を爛々と輝かせて。


 ゴーシュが投げた球は跳ね返る際、物理法則を無視したかのように加速度を増して高速で小渓谷をバウンドしていった。


「これね、とてもよく跳ねるんだ」


 そう言われ、俺もなんだかやってみたくなった。ゴーシュが先程頭を突っ込んでいたあたりの裂け目を覗いて、同じように黒い球の密集地帯から黒い球を探す。岸壁にカビのように無数にへばりついていた。そのうちの一つをもぎ取り、適当な小渓谷に力の限り投げつけてやる。やはり思っている以上によく跳ねる。楽しい。


「スーパーボールみたいだな」


「?」


 俺の感想にゴーシュは不思議そうな顔をした。スーパーボールという言葉は通じないみたいだ。残念だ。






 跳ねている黒いボールをとても嬉しそうに描くゴーシュ。跳ね返ったときの躍動感がいいのだそうだ。わからん。ちなみに俺に何度も取りに行かせては投げつけてを繰り返させている。


 一度投げたものを取りに降りるのは、そこがいくらか小さめな渓谷と言っても骨が折れる。そのため幾つかまとめて回収してそれをゴーシュの近くまで持っていくようにしたのだが、ちょっとした違和感に気が付く。


「おい、このボール、他のと色が違わないか」


「もう。さっきからシオンはボールボール言うけど、この子たちはちゃんとした名前があるんだからね! ここ来る前にも言ったけど、モリルっていうんだよ。なんて美しい名だろう」


 ゴーシュの話を無視してボールの観察を続ける。よく観察すると、一番気になっていたボール以外の色合いもそれぞれ少しずつ違っていた。


「元々違う色だったのか?」


 不思議に思って、黒ボールの密集地帯があった裂け目をのぞき込む。そこから新たにいくつかボールを取り出して並べてみると、すべて同じような黒さだ。


「実験するか」






 色々と実験を重ねた結果わかったことは、このボール状の魔物は弾めば弾むほど色が薄くなることだ。しかし、なぜそうなるのかは全くわからなかった。改めて謎の物体だ。


「なんだろな」

「なんだろね」


 お互いそうぼやく。


 結局理由はわからないままだったが、ゴーシュが絵を描きたいと言い始めたので実験は終了した。


 ボールはグラデーションにならべておいた。






 渓谷にしばしの静寂が訪れる。時折ゴーシュの筆の音が聞こえるが、静かなものだ。ゴーシュがお絵かきに夢中になっている横で俺は武器の手入れをすることにした。


 この武器の手入れというのはこの世界に来て気に入ったものの一つだ。この作業一つ一つにまさに命がかかっている。整備不良は命を奪う。頼りになる相棒を労るように、丁寧に手入れをしていく。とはいえ、ここは外で魔物のうろつく場所だ。たいしたことができるわけでもないので、簡単に布で拭い、携帯用砥石で研ぐのみ。砥石が刃物を滑る音が小気味よく渓谷に響く。


長閑のどかだな」


 俺のそんなつぶやきも、渓谷に飲まれていく。ゴーシュは聞こえているのかいないのか、こちらを振り向きもしない。


「変な依頼ばかりだったからな。たまにはこんな平穏な依頼があってもいいな」


 そうつぶやきながら、おや、これはフラグと言うものじゃないか? と頭の中でもう一人の俺がつぶやく。


 その頭の中の声に呼応するように、どこからともなくパキパキ……と変な音がした。


 どこからともなくではない。まさに先程まで遊んでいた魔物ボールからこの妙な音は聞こえてきている。警戒しながらも観察すると、どうやら魔物ボールが割れてきているようだ。


(散々投げたからな。時間差はあるが今更壊れてしまったか?)


 そう思ったが、動きが妙だ。まるで孵化する時の卵のように割れていく。そうすると隙間からエイリアンの赤ん坊のような物体が蠢いているのが見えた。


 俺はそのまま武器の手入れをしていた手を止める。


「ゴーシュからの依頼だからな。まともなわけがなかったか……」




「おい。ゴーシュ」


 ボールが跳ね回るところの記憶を頼りに描いているからか、現在はボールを見ていなかったゴーシュ。一心不乱に手元のスケッチブックだけを見つめて、描き続けている。


 再度話しかけると、ようやく異変に気がついたのかボールの方を向くゴーシュ。


「え、なにこれ?」

「……どうやらこれは、何かの魔物の卵だったようだな」

「え〜?」


 その様は、やはり生まれたばかりの鳥の雛のようだった。手足の数がややおかしいし、やけに長いので、ともすれば蜘蛛のようでもあったが、普通の鳥の雛も生まれたばかりの頃は割とグロテスクだ。そう考えると、可愛くも思えてきた。


「意外とかわいいな」

 そう言う俺に対して、


「え?可愛くないでしょ」

 即座にゴーシュにそう返された。


 お互い価値観が違うことを改めて認識して、微妙な空気が流れた。






 ◇

「お前はずっとFランだな」


 本日のゴーシュの依頼が終わり、(ちなみにあの後、投げたボールと同数の大量の雛? に追いかけられ、ゴーシュを引っ掴んでジープに戻り全力で逃げてきた)ギルド支部へ戻って毎度の成果報告をしていると、そう声をかけられた。


 顔を見なくてもわかる。グラドだ。


 俺がこの世界に来てからずっと同じFランクで冒険者をやっていた奴なんだが、なぜかやたらとこちらを目の敵にしてくる。多分一度か二度、こいつが失敗した依頼を俺が速攻で片付けたことがあったから、それを逆恨みしているのだろう。


 俺はF−、F、F+と、最下級ながらもFランク内で最速で昇格したので、それも気に入らなかったのかもしれない。


 そのグラドは俺がゴーシュの依頼を受けている間に無事Eランクに上がれていたようで、最近マウントが増してきた。


「ああ、ランキングポイントになるような魔物を狩れてないからな」


 俺がそう答えると、何がおかしいのかグラドは下卑た笑い方で笑っていた。


 ランキングポイントとは、魔物ごとにつけられているポイントで、ポイントを集めることで冒険者ランクを昇級できる。俺が討伐している魔物はどれもポイントがごくわずかしかない。討伐にすら至らない日もある。雑魚を大量に狩ったからといって冒険者ランクはなかなか変わらなかった。


「こいつは永遠のFランカーだ」


 笑いすぎて涙目になりながらそう言い、グラドは仲間とともに去っていった。

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