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魔獣イラストレーターと最強のFランカー  作者: 成若小意
第二章 冒険者たち     (推定累計ポイントEランク)

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2-5  武器が買えない

 「問題がある」


 そう真剣に話を切り出した俺を、ゴーシュは華麗にスルーした。絵を描いている時はいつものことなので、これはきっと俺が悪いのだろう。話しかけるタイミングを間違えた。




 アウローラ(死の虹色猿)との暮らしが思いのほか肌にあってしまい、あれから巨大樹の森で彼らとともに一週間ほどすごしていた。巨大な生き物というのは時間の流れも異なるものなのか、共にいるだけでも悠久の時を生きているような気分になれた。


 強い存在ものというのは得てして鷹揚なモノが多いのだろうか。俺たちの存在も認識してはいるものの特に気にしている様子もなく、次第に普通に受け入れてもらっているような雰囲気になった。


 特に子供のアウローラからは懐かれて、少しコミュニケーションも取れるようになっていた。


 ゴーシュも普通に馴染んでいた。絵を描く余裕も出てきたのに、肝心の絵の具をあらかた置いてこさせていたので描く道具をほぼ持ってきていないことを愚痴っていたほどだ。


「ゴーシュ。やばい」

「え?」

「野生(冒険者業)を忘れそうだ」


 そう気が付いて何とか踏みとどまることができたが、へたをするとそのままずっとその地にいただろう。


 夢見心地で町に戻ってきた。それからは一心不乱に絵を描き続けるゴーシュ。こんな時は何を話しかけても無駄なので、俺はしばらく町を散策して過ごしていた。


 ゴーシュは金があるというし、しばらくこうして過ごしていても問題がないと思っていたのだが、やはりというか問題はあった。


 それは武器屋に行ったときに発覚した。


 武器の購入にはちゃんとしたギルドの証明書が必要らしいのだ。俺の前の支部でもらったギルド登録証明書は転出処理をしてしまっているので正式なものではなくなっている。それは知っていたが、転出手続きを取っただけなので、この町に来てからもある程度のことはこれで十分だった。しかし、武器購入など重要な場面では使えないと言われた。中途半端な証明書ではだめなのだそうだ。


「そこをなんとか」と店主にかけあったが、「身元の怪しいやつに売れるわけねえだろう」と至極まっとうな答えを返されてゴーシュのところに来たわけだ。


「ゴーシュ。問題があるんだ」


 とりあえずもう一度ゴーシュに問いかける。


 月契約の宿屋にいるのだが、ゴーシュの部屋には画材が散らばり絵具も飛び散っている。清掃代などでこれはこれで問題がありそうだ。とりあえずそれは置いておいて、ゴーシュの肩をゆする。全く気が付かない。もしくは気が付いていても完全に無視しているのか。目も瞳孔が開いているようでとても怖い。


「アウローラより怖い」


 俺はそうつぶやいて、反応をしてくれない雇用主を置いたまま食事に出かけた。


 食事を摂った店でそのままいくつか持ち帰り用に包んでもらい、宿に戻る。気絶したように半眼で絵の横に倒れて寝ているゴーシュを揺り起こし、食事を摂らせる。


「ゴーシュ。このままだと武器が買えない」


 寝ぼけ眼で聞いているのか聞いていないのかわからないゴーシュはうんうんとうなずく。


「とりあえず隣の町まで移動しよう」


 隣の町のギルドならまだ出禁の対象外の可能性がある。俺の提案に再度うんうんとうなずいたゴーシュだが、結局絵を描き終わるまで宿を動くことはなく、結局この町を離れたのは1週間たってからだった。






 元々いた第三十六支部に戻ってもいいのだが、せっかくだから色々な町も見てみたいということになり、とりあえず第三十六支部とは反対隣の町に行ってみた。そこで出禁解除をしてもらえなかったら仕方がないので元の支部に戻ろうという話になっていた。


 幸い隣の第四十一支部では特に問題なく出入りしてもいいと言われた。そこで転入の手続きを改めて行おうとしたのだが、また別の問題が起こった。


「シオンさん。身分証明書をお持ちでないのですか?」


 綺麗な受付嬢がそう小首をかしげる。


「ギルドカードを身分証として使っていたのだが」


「そのギルドガードを発行するために身分証が必要なはずですが……」


 ギルドカードとは別の身分証が必要なようだ。よく考えたら俺はこの世界に流れ着いてきた後、ごり押しでギルドに登録してもらっていた。そこでは身分証がなくとも登録できた。田舎の支部だったからできたのだろう。


「移民なのですね。それでは在留許可証は?」


 ついぎくりとしてしまった。それも持っていない。そもそも在留許可証の存在も知らない。自覚がないだけで、もしかして俺は不法滞在者……?


「いや。持っていない」


 戸惑いを気取られないように受け答えしたが受付嬢の視線が少々痛い。


「そうですか。それでは別に手続きが必要なので、別室にお越しください」


 続けて受けた説明によると、移民ではなく難民申請に近い形になるようだった。出身国からの出国手続きが正式にできていない者に対する手続きだそうだ。


 かつては簡易的だったその移民制度を利用して、敵性国の人間が何度か検挙されたこともあり厳しいのだという。


「身元のしっかりした人からの推薦状と、略歴書の提出、そして基本的な質疑応答がありますのでご準備ください」


 そう別室で説明された。推薦状はゴーシュの物でいいそうだ。


「お前は身元がしっかりしていたんだな」


 そう驚いたら失敬なと言って怒っていた。


 略歴はとりあえず書ける範囲で嘘偽りなく家族の名前等を書き、メインは最初のギルドでの活動内容を書いておいた。


 後でギルマスに確認を取ってくれるそうだ。それなら信頼度は上がりそうだと安心した。使い慣れない形状の筆記具を操りながらなんとか書類に書き込む。


「それでは質疑応答をします」


 問題はここからだった。


 質疑応答と言うからには面接官との対話かと思っていたのだが、なんと筆記だった。基本的な文化や地形に関する知識の問や、基礎学力の問だった。この地で働くのに問題がないかの検査なのだと思う。多岐にわたる問題を延々と解いていく。


 つまり筆記試験。


 そして俺は見事に試験に落ちた。

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