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魔獣イラストレーターと最強のFランカー  作者: 成若小意
第二章 冒険者たち     (推定累計ポイントEランク)

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2-4  出禁とアウローラ

「どうするのさ~シオン~」


「さて、どうするか」


「なんで全然焦ってないのさ!」


 ゴーシュに喚かれるが、そう言われても俺自身は焦っているつもりだった。見た目に出ないだけだ。しかしなるようになるだろう。


 新しい支部に着いて早々出禁になってしまったわけだが、期限付きの出禁なのか、そしてこの支部限定の出禁なのか。そんな細かいことを質問しようにも、出入りできないので聞くことすらできない。


 知り合いがいればギルドに尋ねに行ってもらうなりして何とかなったかもしれないが、当然いないし、ゴーシュに行かせるのは危ないだろう。その証拠に俺に合流する前一人で歩いていたゴーシュは何人にもちょっかいを出されていた。


「……でもシオン。確かにどうにかなるかも。別に討伐はギルドを通してやらなければいけないという決まりはないと聞いたことはあるよ」


「そうか。それは都合がいいかもな」


 ギルドを通すと、ランクに応じた討伐依頼制限というものに従わなければならない。


 ゴーシュに関しては護衛なのでグレーゾーンな面も多かったが、それでもとりあえず何から護衛するのかという報告は出すようにしていた。


 その報告内容はランクに応じている必要があったし、ランク外の魔物を狩るのは偶発的な遭遇時において認められる程度だ。今回移籍の原因となったアウローラもランクが高いため、アウローラの出現地域にいる低ランクの魔物の討伐申請をし、ついでに見学するという狡い手を使おうかと相談していたのだ。


「ゴーシュはそれでいいのか?」


「いいよ~」


 そう軽くゴーシュは返事をしていたが、全く問題がないということもないだろう。制度として、ギルド経由で依頼を出している雇用主にはギルト統括地域での滞在許可が下りるが、そうでないと逗留税という住民税のようなものを払わなければならない。


 税と言ってもギルドに身の安全を保障してもらうために支払う護衛料のような面もあり、金額がとても大きい。ちなみに払う相手は国ではなくギルドだ。


 だから雇用主たちは直接雇用をせずにギルド経由で支払う。面倒ごとの対応をギルドに任せたいという思惑もあるが金銭面からというのが主な理由だった。


 それにしてもゴーシュの懐具合が気になる。こいつは何の仕事をしているのだろうか。美術家と言っているし、俺に依頼を出す前に美術作品で沢山稼いでいたのだろうか。


かねは大丈夫か?」


 直球で聞いてみた。


「シオンのおかげで沢山稼いでるからね!」


 なんと、この前出したイラスト集、はじめこそ今ひとつだったが最近爆売れしだしているらしい。それで欲をかいてゴリラ(アウローラ)狩りに行きたいと言い出したのか。


「まあいい。とりあえず明日から早速依頼遂行(クエスト)に行くか」


 アウローラについての下調べは事前に終わっている。今日はもうゴーシュが見つけた安宿に泊まって明日に備えることにした。



 アウローラのランクはC*。単純なCではない。『*』(アスタリスク)がついている。これは特殊性を表しており、条件をそろえなければランクが一つ上がると言われている。本来なら俺のようなFランカーが討伐対象とするには許可が降りない相手だ。


 今回の条件は人数をそろえること。アウローラは群れで暮らす。そのため多対一になる。この前のような冒険者相手の多対一などとは比べ物にならないくらい難易度が上がるだろう。そして群れの規模によってそろえるべき人数が変わるのだ。


 このエリアに来たばかりの俺たちに人数をそろえるのは至難の業だ。即行で人海戦術はあきらめた。


 しかし、俺たちの目的はアウローラを倒すことではない。アウローラを描くことだ。なので、問題がないと言えば問題はないだろう。






「シオン~。死んじゃうよ~」


 そう弱音を吐くゴーシュ。それもささやくような声で。


 双眼鏡を覗くその先にアウローラが見える。体高が人の三倍、体積にしては軽く十倍もあろうかという、大型の魔物だ。(獣型なので魔獣か。)指でつままれただけで頭が潰されるだろう。ゴリラゴリラいうように、見た目は霊長類だ。毛並みが美しく、オーロラのような光沢がある。特に子どもの柔らかい毛並みは目を見張る美しさがあった。


 アウローラ群生地にたどり着いた俺たちは、距離を測り、相手の出方を伺いつつ、近づいていく。


 森は静けさに包まれていた。穏やかな静けさではない。耳が痛くなるような異様な静けさだ。魔物が多く生息しているこの森の中で、物音ひとつしないのは異様としかいえない。その理由は簡単だった。ここがアウローラのテリトリーだからだ。


 アウローラは超絶的に狩りが上手い。そのため彼らのテリトリーに入ればすぐに獲物として捕らえられてしまう。とはいうものの、絶対的捕食者なので彼ら自身は穏やかな暮らしをしている。幼いアウローラが戯れに狩りをすることもあるが、基本的にはいたずらに狩りをすることはない。常に満ち足りているのだ。


 しかし、捕食される側はそうはいかない。できる限り彼らの興味を惹かないように息をひそめてこの地の通過を試みる。こうしてアウローラの周辺には静けさが訪れる。


 さすがは死の使いと呼ばれるアウローラだ。


 そんなアウローラのテリトリーに俺たちは土足で踏み込んでいる。普段は嬉々として魔物に特攻するゴーシュでもこの状況は恐ろしいようだ。しかし怖がっていては何も得られない。


 俺たちは丸腰でアウローラの元に向かっている。『仲間として間違われよう』作戦だ。




 ちなみにここまでは対砂地用ジープで半日かかる。前にいた支部は砂地が多い地域だったが、ここは緑豊かで、霊長類にふさわしく途中から現れた森がアウローラ群生地だという。その森が巨大も巨大で、近くからは梢が全く見えなかった。


 そしてアウローラも巨大だ。下調べしたと言っても挿絵もない文献。実際目の当たりにすると半端ない大きさにさすがの俺もつい退きそうになるが、あんまり怪しい動きをしていると襲われかねない。


 以前テレビで見たアニマルドキュメンタリーのように、細心の注意を払いつつ素知らぬ顔で徐々に徐々に群れに紛れ込む。先ほどまで泣き言を言っていたゴーシュもさすがに声を出したらやばいと思ったのか、何も言わずに静かに泣きながらついてくる。


 残念ながらここで直接絵を描くことはできない。あまり変なことをして奴らの興味を引きすぎてもいけないので、ゴーシュを説得の上、目に焼き付けることに合意させてここまで来たのだ。しかしここにきてしまえばゴーシュも絵を描きたいなんて逆に言い出す雰囲気もなくなっていた。恐怖ですくんでしまうというのももちろん大きな理由だが、息をのむほどの光景にすべてを忘れて二人魅入られていた。


 圧倒的な死の象徴であり、圧倒的な生者の顕現でもある彼ら。


 木漏れ日の刺す巨大樹の森に、静謐せいひつと暮らす巨大な死の御使い、虹色のアウローラが百頭を超えて群れをなす光景をしばらく眺めていた。






 後日。アウローラの暮らす森から帰り、しばらく感傷に浸りつつ徐々に日常に感覚を戻しながら暮らしてたが、とある問題が発生した。

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