2-3 新生活スタート
半日かけて到着した場所は第三十八支部。噂に聞いた通りだいぶ都会だった。まず道がきちんと整備されている。建物も大通り沿いは少なくとも管理が行き届いているようだ。
しかしやはり冒険者の町。ごろつきのような風体の人間も多く、なんなら前のところよりも人相が悪かった。前のところは陽気な漁師のおっちゃんたちのような雰囲気だったが、ここはなんというかぎすぎすした雰囲気を感じる。見たことはないが傭兵の集まりという感じと表現したらいいだろうか。
とりあえず深く考えても仕方がない。やることは決まっている。ギルド施設へ行き受付をすることだ。早くしないと寝床も確保できない。宿が見つからなければ最悪野宿だ。
ここに来るまでは町中で適当にごろ寝してもいいかと思っていたが、実際に来てみると治安がよくなさそうだからやめておく。何ならこの町中で野宿は外で野宿よりも危険が高い可能性すらある。
ゴーシュにそう伝えたら、宿探しをしてくれるそうだ。よく動いてくれる雇用主で助かる。あまり町中をウロウロしていてもゴーシュは絡まれそうなので、入管職員に町の総合案内所を教えてもらい、そこで町について下調べ兼宿探しをしてもらうことにした。
「絡まれないように気をつけろよ」
「シオンこそ心配だよ!」
そんなやり取りの後、急ぎ足で町の入管職員に聞いたギルド本部へ向かう。
ギルド本部も前の支部よりしっかりとした建物だった。受付も整然としており、クエスト受注の窓口とクエスト終了報告窓口、金銭受け渡し窓口等々がしっかりと分かれている。どことなく市役所のような雰囲気さえある。
とりあえず転入手続きをしなければならないので、総合窓口に並んでおく。施設内には、線の細そうな若い男性職員や退役軍人のような風貌の職員もいるのが面白い。
この世界はギルドが役所も兼ねて取り仕切っているのかとゴーシュに聞いたことがあるが、そういうわけでもないらしい。ゴーシュの故郷も含めて、大抵の人間が魔物とは無関係な地域で平和に暮らしており、冒険者ギルドなどという組織も普通に生活していたら目にしないという。
俺たちが今いる地域が特別なようで、魔物が溢れすぎていて人が住みつけなかったこの地に初期の冒険者たちが作ったのが冒険者ギルド。一般の役所等の国の機関はこの地に入ることも難しいのでギルドが自治を任されることになったのだそうだ。
ゴーシュに聞いたそんな説明をボケっと思い返しながら受付の列に並んでいると、さりげなく列を抜かされた。
ぼうっとしていた俺も悪いと思ったが、そのあとまたもう一人に抜かされそうになった。
「おい。間違えているぞ」
でかい俺のことがまさか見えなかったとは思いにくいが、何らかの勘違いの可能性もあるかと思い、なるべくかどの立たないように声をかけた。
しかし、抜かした相手は何の反応もしない。完全に無視された。俺よりも頭2個分低いそいつの肩をたたいてもう一度問いかけると、
「なんだよ、デクの坊」
驚いたことにそいつは面倒くさそうに一瞬だけこちらを向いてそう悪態をつく。
(木偶の坊とは古風な言葉だな)
的外れなことを考えていたのがいけなかったのだろうか。肩に置いた手をそのままにしてしまっていたのが気に障ったのか、前の男が振り向きざまに俺の肩を押して突き飛ばそうとした。
不意打ちだったので俺もついふらついてしまう。倒れそうになったので当然近くにある何かに掴まろうと反射的に手を伸ばす。そこにいるのは突き飛ばした当本人で、相手も掴まれると思っていなかったのか驚いた顔をしていた。
掴んだ俺と掴まれた男。体重差を考えると男がこらえきれないのも当然で、俺が男を引き倒した形になってしまった。申し訳ないことにそれでも尚、体勢を立て直せず俺も転び、こけた男に追加で肘鉄を食らわせる形になってしまう。
天に誓ってわざとではない。が、周りから見たら突然列の前の男を引き倒して肘鉄をかましただけに見えたようだ。
不運なことに、この男には仲間がいた。しかもたくさん。ギルドのあちこちで分担して窓口に並んでいたようで、この騒ぎを目にして「おうおう」とよくわからない声を上げ威嚇しながら何人かこちらに向かってくる。
「タケ、大丈夫か? おうデカブツ。こんなところで俺たちACクランに喧嘩売るなんていい度胸しているな」
倒してしまった男はタケという名らしい。ACクランとはグループ名だろうか。顔見知りも多い男のようで、周りの人間もこの男の名を呼びながら心配している。
ただ並びたかっただけなのに、おかしなことになってしまった。
対応に数分かかったが幸い大した事態にはならずに済んだ。
魔物相手に多対一はよくある状況なので慣れたものだったし、元の世界では総合格闘技だのストリートファイトだのを嗜んでいたので久々の感覚にむしろ楽しみながら向かってくる奴らを伸していった。
都会とは言っても猛者がたくさんいるわけではなかったようで、数分のうちにみんな静かになってくれて、ほっと胸をなでおろす。
列が空いたため思いのほか早めに受付の順番がきて、かえってよかったと思ったのだが、
「施設内での暴力行為は禁止されています。当施設の立ち入りを禁止いたします」
と震えた声でなお気丈にもこちらを見る受付嬢に出禁を言い渡されてしまった。
「え~~~~!!!」
合流した際事の顛末を伝えたら当然ゴーシュに驚かれた。





