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魔獣イラストレーターと最強のFランカー  作者: 成若小意
第一章 魔獣イラストレーター

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1-13 付録⑦ シオン

 シオンはこの世界に来たきっかけを忘れたと思っていたが、そもそも大きなきっかけなどなかった。


 シオンが異世界に転生したのは、仕事の帰り道。いつもと同じ通りを通って、いつもと同じ曲がり角を曲がる。しかし、ゲームのバグのように、世界の狭間をすり抜けてしまった。そこにはなんら神の意図があったわけではなく、運命さだめがあったわけでもない。本当にたまたま、道が()()()だけ。


 そんな自体に陥ったのがたまたまシオンだったのが幸いした。並の人間ならとてつもない苦労をしただろう。生き延びることも難しかったかもしれない。しかし、もとの世界でもタフだったシオンは、この世界に嬉々として適応していくこととなる。


 とにかく、仕事帰りの()()()。シオンがいつも通りの角を曲がると、見知らぬ風景が広がっていた。


 空気が少し砂っぽい。道行く人が西部劇に出てくる人のようにゴツく、粗野だ。通りも広く、何より早朝だというのに人が多い。


 常ならぬ事態にシオンは立ち止まり、少し眉根を寄せて考える。


(ここ、どこだ?)


 そんな小学生並みの感想を持ちながら、シオンはまた歩き始める。今度は注意深く周りを観察しながら。


(武器。異国の顔。遠くに見える見知らぬ山。……映画のセットでもなさそうだ)


 絡まれぬ程度に人を観察する。周囲の建物などの様子も確認する。ついでにガラスに映る自分の姿も見る。


(異世界転生……。でも俺の姿は変わってないし、異世界転移? 環境は、アクションファンタジー? 学園モノということはなさそうだが、そもそも世界がすべてジャンル分けできるという前提にするのは間違いだな。とりあえずは様子見だ)


 そんなことを考えながらも、足取りは迷いなくある建物に向かっていた。躊躇せず戸を開ける。


 そこは町の人々が吸い込まれるように入っていく場所。そこを選んだのは状況判断からとも生来の勘ともいえた。入口には、シオンには読めない文字でこう書いてあった。


『冒険者ギルド 第三十六支部 ドンデストイ支店』


 シオンは確信を持った足取りでその建物で一番偉いであろう人物の前に行き、こう言った。


「迷子だ。保護してくれ」





 ◇◇◇

 いつも通りの朝を迎え、いつも通り早朝出勤したギルドマスターは、突然の奇異な訪問者に一時思考停止した。


「迷子だ。保護してくれ」


 そう言った人物は明らかに迷いがなさそうだ。まあ迷子と言うのはそういう意味ではないが、あまりにも堂々としているのでギルドマスターの方が困惑してしまう。


「迷子……ですか?」

 そう聞き返すと、自分でもおかしいと思ったのか、その訪問者は一度首を傾げたあと


「迷い人だ。保護してくれ」


 そう言い直した。


 保護してくれと言うが、ここはボランティア施設ではない。もしかしたらこの人物は世界の狭間からやって来る稀人とか異世界人とかいうやつなのかもしれない。


 しかしそもそもここは移民が多い、冒険者が集まる土地。得体のしれない人物だらけなので実はむしろセキュリティが高い。紹介状がなければこの町には入れないし、入ってからも定期的に調査が入る。そうでなければすぐ混沌とした町になってしまう。


 そんな理由があるため、この人物も同じように調査し、身元が不明なら移民管理局に引き取ってもらうことが通常の流れだ。だが、シオンがあまりにも当たり前に話をすすめるものだからギルドマスターも判断が鈍った。


 何より、シオンの体格の良さ、目つきの良さに何かを感じ取ったギルドマスターの欲、下心が動いた。シオンを是非ともこの冒険者ギルドに入れるべきだと。


 シオンをギルドマスターに案内した受付嬢の後押しもあった。彼女はシオンの見目の良さに加え、品の良さを感じ取りギルドの雰囲気改善並び目の保養のためになんとしてでもシオンを確保したかったのだ。


 三者三様の思惑おもわくを持ちながら目的は一致し、シオンは晴れて『冒険者ギルド 三十六支部』所属の冒険者となった。





 ◇◇◇

 嬉々としてシオンを受け入れたギルドマスターだが、当初の思惑は外れた。冒険者または剣士や軍人などとしての経験があるのだろうとその雰囲気から勝手に推測していたのだが、そのどれも未経験だという。


 格闘などは師に習っていたというので全くの見当違いではなかったが、実戦ができないのではどうしようもない。


 とにかく初心者コースを受けさせる。筋はいいようで、初級の魔物はすぐに倒すことができるようになった。


(この調子で行けば、歴代最速でFランクを抜けられるだろう。そうすれば俺が無理矢理シオンをねじ込んだのが正しかったと証明できる)


 そう思ったギルドマスターだが、またしても予想が外れることになる。シオンは何やらこだわりを発揮し、最弱の魔物の倒し方に何度も挑戦しだしたのだ。指導についた者に様子を聞いてみるといろいろな方法を試しているのだという。


「こんなヤツ見たことないですよ」


 シオンの指導についた、今まで数多くの新入りを受け持った古参の冒険者がそう言った。





 ◇◇◇

 シオンは、ゴーシュがおかしい、おかしいといつも思っていた。しかし実は周りからはゴーシュももちろん変わり者だが、それ以上にシオンの方がおかしいと思われていた。


 体格がよく、運動神経に優れ、洞察力と探究心がある。そんな性質たちのシオンにとってこの世界はとても向いていた。もとの世界では多少浮いてしまっている自覚はあったが、この世界では水を得た魚のように生き生きと暮らすことができた。


 だから気が付かなかった。この世界に適しすぎていることに。あまりにも適しすぎて逆に規格外になっていることに。


 かくして、ゴーシュに振り回されたシオンはこの地に疾風を巻き起こし、台風の目となり、更に周りを巻き込んでいく。辺境の一支部に過ぎないこの地で嵐のもとが出来上がっていることを、この世界はまだ知らない。

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エンジェライト文庫様より2023/12/23電子書籍化
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