髪素晴らしきが故に貴からず
常に髪型を気にしている人が書いた作品です。20分程度で読み終わります。
100円で購入した1つの小さな容器。そこには少量ではあるが、非常に貴重なヘアオイルが入っていた。
「てっぺんハゲの横田」はそれを両手に伸ばし、僅かばかりの髪の毛と頭の大半を占める地肌にしっかり馴染ませた。
本当に効果があるのだろうか?
横田は鏡に映るオイルでテカテカになった自分の頭を見つめながら、先日の会見を思い出した。
日曜日、横田はベッドでゴロゴロしながらテレビを観ていた。別に観たい番組があった訳でもない。ただの暇つぶしである。横田には休日に遊ぶ友達がいないのだ。理由は禿げだから。高校生の時に徐々に髪の毛が薄くなりテッペンのみ禿げた。周りの人からは散々馬鹿にされ、高校3年間彼女なし。そこから大学に入学し、出会いを求めにサークルに入ったが、周りからは不潔だという理由で避けられた。育毛や植毛をしようかとも考えたが親が学費を払えとうるさく、髪に賭けるお金は一銭もなかった。
なんで禿げたんだ……横田は自分の頭皮を恨んだ。そこそこ顔も良いし頭も悪くない。髪の毛さえあれば女の子からモテていたはずなのに!
ベッドにはおよそ200本の抜け毛が散らばっていた。横田はそれを眺めながら、これから先も抜け続けるのだろうと自分の頭皮の未来を想像し、空しい気持ちになった。
ふとテレビに視線を戻す。
ニュース速報が流れていた。
『ニュース速報:「リーブネイチャー」社長が緊急会見。画期的なヘアオイルを発明の模様』
「画期的な……ヘアオイルだと!」
背中に衝撃が走った。
テレビ画面には大手頭髪会社「リーブネイチャー」の社長、増毛による会見の様子が映し出されていた。
「……男女共に、まずは第1印象を見て人と関わるかどうかを判断するんです。
見た目って凄い大事でね、見た目が相手から良くないと思われた時点で、中身を知ってはもらえません。例えば美男子と、太って禿げているおじさんが、あなたの目の前にいたとしましょう。どちらかとは関わらなければならない。どちちと関わりますか?
……そりゃあ美男子ですよね。清潔感があるんだから。太って禿げたおじさんとなんて関わろうと思わない。まして中身を知ろうとなんて思わない。そうでしょう?」
横田は太ってはいないものの禿げについて否定された気がして嫌な気分になる。
「今ね、カップルや夫婦の割合が少ないんです。全国で3割しかいない。そりゃあ少子化も止まりませんよ。それを改善するには恋愛人口を増やさなければならない。でもね、特に男性に多いのですが、恋愛をしようとしない人が多いんですよ。自分の見た目や中身に自信がないから。
20年前、新型コロナウイルスのせいで、マスク生活が始まりました。すると髪型をマッシュやセンター分けなど、お洒落にするだけで『マスクイケメン』と呼ばれる男性が増えたんです。まぁそれも当然な話なのだけど、髪型って第1印象を決めるのに重要な部分なんですよ。でも今の日本人男性は大半が髪型を気にしていない。生まれつきお洒落な髪型ならばいいんだけれども、残念ながら日本人の7割以上が、くせ毛なんです。
で、そのクセを活かしてお洒落な髪型にしたり、縮毛矯正をしてサラサラマッシュにすればまだ良いんですが、面倒くさいとか、髪が傷むとか、お金がかかるとか、そういった理由でしない男性が多いんですよね。その気持ちは分かりますが髪型はお洒落にした方が良いんです。見た目が良くなるから。
そして見た目に自信が付くと、中身にも自信が付きます。そして恋愛人口が増えるんです!
本題に入りましょう。実は我々は数十年前から見た目がよくなるヘアオイルの開発をしていました。10年前にそのヘアオイルは完成していたのですが、中長期的な効果を知りたいがために、完成した直後から今日まで数十名の方を対象に、その効果があるかどうかの実験をしていました。そして10年間効果があり続けたので、それを節目にして今日、弊社が開発したヘアオイルについて紹介します」
スクリーンに4種類のヘアオイルが映しだされた。とても小さな容器に少量のヘアオイルが入っている。
「スクリーンをご覧ください。弊社が開発したヘアオイルは次の4点です。左から『永久ふさふさオイル』と『永久マッシュオイル』『永久綺麗なパーマオイル』、そして女性のために開発した『永久直毛オイル』を並べています。
後ほど各オイルに関しての実験映像も流しますが、各オイルの効果は10分後に発揮されます。そして新たに生えてくる髪の毛もその効果を発揮します。
それはなぜか?――このヘアオイルには我々が名付けた『ジンクシグナル』という成分が大量に含まれています。『ジンク』は日本語にすると亜鉛という意味です。亜鉛はタンパク質が髪に変わるのを助ける栄養素ですが、その際にこの『ジンクシグナル』が髪型を決めます。例えば『永久ふさふさオイル』では『ジンクシグナル』が『髪を増やせ!』という信号を送ります。そして使用して10分後に髪はふさふさになるというわけです。
また『ジンクシグナル』は頭皮に残り続け、新たな『ジンクシグナル』を産み出し、永久的に残り続けるので、『永久ふさふさオイル』を使用すれば一生涯、髪の毛がふさふさなんです!『永久マッシュオイル』や『永久綺麗なパーマオイル』、『永久直毛オイル』でも同様のことが言えます。
実験映像をお見せしましょう。
こちらの男性は我々が開発した『永久ふさふさオイル』の被験者です。左から使用する前、使用して10分後、使用して1年後、10年後の写真を載せています。ご覧の通り、彼はヘアオイルを使用する前、テッペンが禿げていました。そこで我々は彼に『永久ふさふさオイル』を少量だけです、頭皮を中心に馴染ませました。すると10分後、ご覧の通り、髪の毛がふさふさになったんです!」
スクリーンには早送りで10年前に取られた10分間の証拠映像が流れた。今の横田と同じような状態の頭にヘアオイルを馴染ませている。すると徐々にだが、禿げていた部分から髪の毛が生えてきた。そして10分後、クセは多少あったが彼はふさふさな髪の毛を手に入れていた。そして1年後も、10年後の今でもその状態を保っていた。
「そして実は、この映像の際の微量のみしかオイルを馴染ませていません。そこから一切オイルは使っていないのです!」
会見会場のマスコミ関係者は驚いていた。横田は口をあんぐりと開けていた。
おいおいマジかよ……
その後、他のオイルに関しての実験映像が流れた。
また、オイルの使用推奨について説明があった。禿げている人や毛量が少ない男性は『永久ふさふさオイル』、毛量が普通でクセがある男性は『永久マッシュオイル』、毛量が多くクセがある男性は『永久マッシュオイル』か『永久綺麗なパーマオイル』、クセに悩む女性は『永久直毛オイル』を使用すれば良いといった具合だ。
さらに増毛は、全員が気になっていたこと……ヘアオイルの価格を発表した。
「我々の1番の願いは髪型を通して、見た目が良い人々が増えることなんです。まずは髪型から良くして頂きたい!
そのために、今からホームページで、先ほどの4商品を発売します。ぜひ皆さんに購入して頂きたい。だから価格はですね……なんと100円にしました!」
あまりにも衝撃的な価格の発表に会場の騒ぎはおさまらなかった。
横田の頭には「100円」というワードだけが響き続けていた。
100円で……たった100円だけで一生禿げではなくなるのか!
「ただし、お1人様1点のみの購入となります。また注意点がございまして……」
増毛が続けて話すが興奮状態の横田には何1つ聞こえていなかった。
日本だけでなく世界中からも注文が殺到し、横田の元にヘアオイルが届いたのは会見から2週間後。
購入したのは当然『永久ふさふさオイル』。禿げている箇所には、
「髪よ、生えろ!」
と願いを込めてとても丁寧に馴染ませた。
すると……
横田は鏡に映る自分を見てあんぐりと口を開けた。
「髪の毛が生えている!」
会見で流されていた証拠映像の通り10分後、てっぺんハゲの横田はふさふさの髪を手に入れていた。
増毛社長による会見から1ヶ月。
各種ヘアオイルによりビジュアルが良くなる髪型を手にする人が増加した。それだけが理由ではないだろうが、ここ1ヶ月のカップル成立数や結婚者数は徐々に右肩上がりである。
しかしこのヘアオイル、問題点もあった。社会人だけではなく、小中学生でさえも『永久綺麗なパーマオイル』を使用してお洒落なパーマを手に入れていたり『永久ふさふさオイル』を使用すれば一生禿げないという理由で、髪の毛を派手な色に染めていた。
あるデータによると日本の総人口の30%がブリーチをして髪の毛を染めているらしい。
学校や企業にとってパーマや派手な髪色の人の印象は悪い。
しかし、髪色は戻すことが出来ても1度オイルを使えば髪型を戻すことは出来なかった。髪の毛で遊ぶ人が増加しており、それに伴って髪型や髪色は自由だとする学校や企業が増加した。
そんな中……
「それではまず1液を付けていきますね」
とある美容室。「軟毛くせ毛の松井」は縮毛矯正をしていた。
「そういえば、初めての縮毛矯正みたいだけど『永久マッシュオイル』は使わなかったの?」
想定していた質問が来た。
「使えなかったんですよ」
むすっとした顔で答えながら、松井優太は先日の出来事を思い出した。
注文して1ヶ月、待ちに待った『永久マッシュオイル』が届いた。
これで雨の日も風の日も髪の毛を気にせず済む。
今まで雨の日や風の日はセットした髪型がすぐに崩れることがストレスだった。松井は額が広いので天然パーマを活かしつつ前髪で額の全てを隠すようにセットしていた。しかし雨の日や風の日はそれが台無しになり、前髪が割れて額が見える。それは禿げたおじさんの髪型のようだった。
しかしそれも今日でおしまい。マッシュになれば雨風関係なく髪型を維持する。もう髪型でストレスを感じることはない。
でもこんな少量で効果が発揮されるのか?
松井は少量のヘアオイルを見て、首をかしげたが、先日の会見で流された『永久マッシュオイル』を使用した人の映像を思い出した。強いチリチリパーマの持ち主が『永久マッシュオイル』を使った映像。髪の毛全体にオイルを馴染ませ10分待つ。そうすると急にチリチリしていた箇所が、真っ直ぐピンと伸びて最終的にさらさらなマッシュになっていた。
また松井は会見後に「リーブネイチャー」のホームページを見ている。他にも10人ほど『永久マッシュオイル』を使った人のデータが紹介されており、母数は少ないが全員がさらさらマッシュを手に入れていた。
さらにSNSでこのオイルを使用した人たちの投稿も見ている。全員、効果は発揮されたと画像付きで投稿をしていた。
「とうとう俺もマッシュになれるのか……」
松井は『永久マッシュオイル』の効果を信じて容器の蓋を開けようとした。
そのとき、
「ピーンポーン」
と、インターホンが鳴った。
思わず舌打ち。
松井以外、家には誰もいなかったので応答しなければならなかった。
「誰だよ。こんなときに」
松井は蓋を一旦閉めて、洗面所から受話器の方に向かった。
するとモニターには見ず知らずの顔が映っていた。
「はい、松井ですけど」
「松井か!俺だよ!俺!横田だよ!」
モニター越しの男はハイテンションだった。
横田……俺の知っている横田は小学校から大学まで同じの「てっぺんハゲの横田」。
ああてっぺんハゲの……
「横田!?」
モニター越しに映っている男の髪の毛はふさふさだった。
「本当に横田なのか!?」
「ああ!オイルの効果で髪の毛がふさふさになったんだよ!」
「マジかよ!」
「とりあえず家あがらせろよ!」
「了解した!」
マジであのオイル効果あるよ!
松井は横田を家に招いた。
それが間違いだった――
松井宅にあがり、「リーブネイチャー」をベタ褒めし続けた横田は「松井は何のオイルを頼んだん?」と髪の毛をいじりながら訊いた。
「『今すぐマッシュになるオイル』」
「確かにお前、髪の毛のうねり具合すごいもんな」
「うるせぇ」
「もう届いたのか?」
「さっき届いて、今からつけようとしていたところ」
「あ、まじ!んじゃ付けようぜ!どうなるか見たいし!」
「言われずとも今からつけるつもりよ」
そう言って松井は洗面所に向かった。
「俺もついて行くわ!」
2人は洗面所の鏡の前に立った。
そして松井はヘアオイルの容器を開けようとしたが、
「ちょっと待って」
と、横田に手を止められた。
「俺が付けるよ。一人でやると適切なところに付けられないのよ。それで俺も少し失敗してクセがついちゃってさ」
「なるほどね。んじゃ、ここと、ここは重点的に、あとここも」と松井は真っ直ぐにしてほしい部分を指差していった。
しかし、この時の横田の発言は嘘。なぜならどこに馴染ませても綺麗なマッシュになるとSNSでは多くの人が証明していたから。それに『永久ふさふさオイル』はどこに馴染ませても、ほとんどの確率で少しクセのある髪型になることが「リーブネイチャー」のホームページに載っていた。あれはあくまで髪の毛がふさふさになるオイル。綺麗な髪型になる保障はされていなかった。
そう、横田は松井を騙したのだ。そして横田は自分の手に馴染ませたオイルを自分の髪の毛に馴染ませた。
「おい!横田!何しているんだ!」
松井は横田の胸ぐらを掴み鬼のような形相で睨んだ。
「痛いなあ」横田も松井を思い切り睨み返す。「たかがヘアオイル数滴取られただけで怒りやがって。他に誰か持っている奴いるだろ」
「周りのみんな全員使い切ったんだよ!」
松井の家族は全員くせ毛。父は『永久ふさふさオイル』、母は『永久直毛オイル』を使ってそれぞれ理想の髪型を手に入れていた。横田含めて松井の友達全員もヘアオイルを使用済み。
「まあ、落ち着けって」横田は松井を宥める。
「何が落ち着けだ!」
松井の怒りは収まらず横田の首を右手で掴んだ。横田は松井の股間を膝蹴りする。松井は思わずの痛さに右手を離す。次は横田が松井の首を右手で掴む。松井に股間を膝蹴りされる。思わずの痛さに右手を離す。松井は横田の首を……
そして2人が格闘し合い、10分経過したところで、横田の髪の毛に変化が起こった。くせがあった部分が徐々にピンと伸び始める。そしてさらさらなマッシュヘアになっていた。松井はあんぐりと口を開けて驚いた。力が抜け、その場に跪いた。その隙に横田は松井宅から逃げた。
てっぺんハゲの横田許すまじ……
松井が一通り話を終えたところで美容師は1液を塗り終えた。
「酷い奴だね」
美容師は吐き捨てるように言ったが、実際のところ松井が今後縮毛矯正のリピーターになる可能性があるので喜んでいるのではないかと思った。
「ちなみに熊さんは何のオイルを買ったんですか」
「熊さん」とはこの美容師さんのあだ名だ。
「俺は『永久ふさふさオイル』よ。やっぱり禿げるのは嫌だからね。俺はこの歳だけど髪の毛で遊びたいもん。だから一生マッシュとかパーマも嫌だね。ハハハ」
今年40になる熊さんは笑った。
確かに熊さんの言うとおりで『永久マッシュオイル』『永久綺麗なパーマオイル』を使うと、それぞれ一生パーマに変えたりマッシュに変えたり出来なくなる。その点では松井は『永久マッシュオイル』を使わなくて良かったと思う。
しかし、使った場合のメリットは大きかった。雨風のせいで、禿げたおじさんの髪型のようにならないし、縮毛矯正にお金を賭けなくて済んだ。だからこそヘアオイルを横取りした横田を松井は恨んだが、熊さんは「でもその横田って子、大丈夫かな?」と憎き横田を心配した。
「ねぇ、あの人かっこよくない?」
「めっちゃ分かる!」
「私、メイク崩れていないかな」
「ちょっと、あの人どっか行くよ!」
「やばい!もっと拝まないと」
ふさふさの髪を手に入れ、さらにはマッシュヘアを手に入れた横田は、街ゆく人々から視線を浴びるほどのイケメンになっていた。
そして横田は、てっぺんハゲ時代の横田を知っている人はいないだろうサークルに入り女の子から注目を浴びた。
サークルの男子は誰もが髪型は良いものの、肌が汚いであったり、パーツがいびつであったり、髪以外のところがイケメンに程遠かった。
顔が良くないと女の子は寄ってこないんだよ。
今日はサークルで飲み会。横田にとっては人生初の飲み会だった。
「横田君はお酒強いの?」
サークル内でも1番の美少女、あかりちゃんが体を近づける。
やう゛ぁい!
推定Gカップの美少女が俺に体を近づけている……!アニメの世界も良かったが3次元もたまらねえな!
横田は興奮しているのがバレないようにしつつ「まあまあ強いよ」とかっこつける。
強いか弱いかは知らない。今日人生で初めて飲酒をするのだから。
「キャーかっこいい!んじゃ飲も飲も!」
そうあかりちゃんに言われて渡されたのはハイボールというお酒。
横田はごくごくと飲んだ。
……不味い!
「キャー!勢い良い!」
周りに集まっているギャラリーはキャーと叫ぶが、横田はこのアルコールの味しかしないハイボールの不味さと格闘していた。
その後は女の子たちから次々と質問が来るので、1つ1つ回答していった。質問に答えるのに必死だったので、お酒をあまり飲まずに済んだのは良い。
しかし、横田は女の子たちから幻滅されたくなかったので沢山嘘をついてしまった。
質問「彼女はいる?」
嘘の回答「今はいないよ」
本当は「いたことねぇよ……」
質問「高校の時、チョコ何個貰った?」
嘘の回答「毎年50個は貰っていたかな」
本当は「1個も貰ったことねぇよ。それどころか、禿げ隠しと言われてチョコを頭皮に塗られていたわ」
質問「経験人数は?」
嘘の回答「10人くらいかな」
本当は「そんなこと聞くなよ。童貞だよ!」
もしかすると話しかけられずハイボールを飲んでいるだけの方が良かったのかもしれない。ここまで嘘をつくことになるとは。まぁあの時とは見た目が全然違う。嘘がバレることはないとは思うが。
横田は最大限にかっこつけた。イケメンフェイスに見合う格好の付け方だった。女の子たちは横田のそばに群がっていた。
外見が良いって最高だな。
シャワーを浴びて、ドライヤーで髪を乾かす。ノーセットでも格好よく決まるマッシュを見て横田はニヤニヤする。
今日もイケメンだ。
この日はサークル1の美少女、あかりちゃんとの初デート。それも当然、サークル内で1番格好いい俺だからこそ彼女をデートに誘うことが出来た。
横田はシンプルな韓国コーデを身に纏い、サボンの香水を付け、デートの待ち合わせ場所に向かった。
「ごめん!待った?」
あかりちゃんは5分遅れてやって来た。
「ううん、全然!俺も今来たところ!」
「良かった!ご飯行こ!」
やう゛ぁい……可愛すぎる。こんな子とデートに行けるなんて。今までの全てが報われた気がする!
本当はそのやばい感動を全面に表したいが、我慢する。
俺は格好いいから堂々と振る舞わなければいけない。「やう゛ぁい」なんて死んでも言ってはいけないぞ。
「ご飯どこ行く?」
あかりちゃんが訊く。横田は昨日の夜に行くお店を決めていた。
あかりちゃんと一緒に何を食べたいか?それは当然美味しいもの。あかりちゃんは基本的に嫌いなものがなかったので決めやすかった。
横田の中で美味しいものはラーメン。ただ、チェーン店のラーメンはNG。安っぽさが感じられるから。横田の中で美味しいと感じるのは、それぞれのお店の麺やスープにオリジナリティーを感じることが出来る自家製ラーメン。そして自家製ラーメンでも、あっさり系は女子からも超人気。インスタ映えもする。だから横田は、今まで行ったあっさり系の自家製ラーメン屋で1番良かったところに行くと決めていた。
「もう決めているよ!ラーメン!」
「……ラーメン?」あかりちゃんはキョトンとしたが、横田は自信ありげに「ただのラーメンじゃないよ!ミシュランの3つ星が付くほどの超人気なラーメン屋に行きます!」と言った。
「確かにラーメンはめっちゃ美味しかった。見た目はお洒落だし、いつも食べているラーメンとは全然違った。スープはあさりの出汁が最大限に活かされていて、あっさり飲めたし、麺はもちもちしていて食感が楽しめた。チャーシューはレアチャーシューって言うの?口の中に入れるだけでとろけるの。もう一度食べたいくらいに美味しかった。
でもね、2時間待たされたの。炎天下の中で。めっちゃ人気店で予約が出来ないのは、あの美味しさだから分かるけど普通そんな店選ぶ?
まぁ待っている間の会話が盛り上がれば全然良かったんだけど、あいつ全然面白くないのよ。自分の話しかしない。しかもアニメの話ばかり熱く語るの。私アニメに興味ないのに。
で、私が話すってなると一気に真顔になって薄いリアクション。興味ない話を熱心に聞くフリした私の努力を返せって話!あと「でも」「だって」がとても多い。女子と話したことあんの?ってくらい会話がクソ!
それでね、ラーメンを食べた後は、まさかのノープラン。まぁあんな面白くない奴だったからノープランで良かったよ。ラーメン食べてすぐ帰ったわ。
てか、あいつ本当に彼女いたことあんの?本当に何人もの女を抱いたことあんの?あんな最低なデートをする奴よ」
「それがね、あかり。これを見て」
あかりが一通り横田に対する愚痴を吐き出したところで、友達がスマートフォンである写真を見せた。
そこにはてっぺんハゲ時代の横田の顔写真が映し出されていた。
禿げは隠せても禿げ時代は隠せなかったか……
我ながら上手いことを言うな、と横田は笑うが空しくなった。
禿げ時代の横田の写真がサークル内で出回った。横田のデート内容が散々であったことも広まった。そして横田に嫉妬していた男子からは笑い者にされた。女子からはドン引きされた。また、あかりちゃんからは「お前、キモ」というLINEが送られ、その後、連絡先を消された。飲み会での嘘も当然バレた。
さらに酷いことに一連の内容が横田が属する学部内でも広がり、同じ学部の連中からも馬鹿にされた。
横田はこれまでの人生の中で1番大恥をかいた。
顔は良いのに、なんで……。
ふさふさでマッシュな髪を手に入れて1ヶ月、自分の全盛期は終わった気がしていた。
横田はサークルを辞めた。そして毛量が増えていたので散髪した。しかし『永久ふさふさオイル』のデメリットだろうか散髪して3日で毛量が少し増えたように感じた。
そして……
「何だ!これは!」
散髪をして3日後の朝、横田は鏡を見て叫んでいた。
横田の髪の毛は見るだけで分かるくらいにベタついていた。
すぐさま浴室に入り、シャンプーとリンスを使ってベタつきを入念に洗い落とし、ドライヤーで乾かしたが10分経つと髪の毛のベタつき具合が目立った。脂ぎっしゅな前髪がパッカーンと割れていた。
また浴室に入り、シャンプーとリンスを使ってベタつきを入念に洗い落とし、ドライヤーで乾かしたが10分経つと髪の毛のベタつき具合が目立った。脂ぎっしゅな前髪がパッカーンと割れていた。
またまた浴室に入り、シャンプーとリンスを使って……
「まあ、また3、4ヶ月後にはうねってはしまうと思うけど、完成だよ」
松井の髪型はマッシュになった。
「ありがとうございます!」
恐れ多いが、自分自身が俳優のように見えた。
「まぁルックスも大事だけど、中身も大事だからね」
「そうですよね!中身も格好いい男になります」
「応援しています!」
松井はイスから立ち上がった。
「そういえば先ほど何で横田の心配をしたのですか」松井は熊さんに訊いた。
「ああ……増毛社長の会見、聞いてなかった?最後の方にヘアオイルを混ぜて使うのは危険だって言っていたんだよ」
「え、そうなんですか?」
「そうなんだよ。美容師の僕もなぜか分からないけど、『リーブネイチャー』さんが開発したヘアオイル同士を混ぜて使うと、これから一生べたついた髪の毛が生えてくるみたいなの。だから松井君の話に出ていた横田君、大丈夫かなって」
「店予約しておいたよ」
「優太君さすが!」
松井優太は学部1の美少女あかりちゃんと付き合っていた。
「まあ外暑いし、店の中でゆっくり食べながら話そうか」
「そんな長く滞在できるお店なの?」
「そうだよ。穴場であんまり人来ない。でもお洒落なお店」
「それはマジ最高」
今日は付き合ってからの1ヶ月記念日だ。
松井は先日、2度目の縮毛矯正をしてさらさらなマッシュを手に入れたばかり。そしてシンプルな韓国コーデを身に纏い、サボンの香水を付け、あかりちゃんの隣を歩いていた。
その途中、2人は死んだ魚のような目をしている男とすれ違った。
「スキンヘッドの横田」だった――
<了>
お時間があれば感想の方お願い致します。




