9 川に落ちた事件 ※ジェイラス第三王子目線
僕が二人と会うことができるのは、第三王子である僕との交流を深めるための、貴族の子女が集まるお茶会や野鳥観察会等だった。
貴族の子女を集める会は頻繁に開くことが難しいので、二人と会う機会はそんなに多くはなかった。
ある日、僕が母上に、二人に会う機会が少なくて寂しいとぽろりと話した。
そうしたら母上は、「あの二人ならちょうどいいわ。ジェイもお母様のお茶会に来る?」と言った。
なんのことだろうと思っていたら、僕の母上と二人の母上達とは仲が良くて、頻繁にお茶会を開いてるらしい。
そして、僕の気持ちを聞いた母上は、僕と二人もそのお茶会に呼んでくれるようになったのだ。
それから、母上達がお茶会を開くたびに、二人と遊びまわった。
年の近い兄がいて色々な遊びを知っているフリードリヒは、僕達を引っ張って、沢山の遊びを教えてくれた。
そのこと自体も楽しかったし、何より、フリードリヒに、ぽてぽてと頼りない歩みでついていく可愛いエリザベスのフォローをするのが楽しくて、僕は夢中になってしまった。
「ジェイがいてくれるからいつも安心ね」
エリザベス本人だけでなく、僕達の母上達まで、僕達の様子を見てそんなことを言うくらい、僕はエリザベスの後ろをずっと歩いていたように思う。
そんなある日、エリザベスが川に落ちた。
フリードリヒが公爵家の庭に面している小さな森の中の探索を先導していて、川を飛び出ている石伝いに渡ろうとした際に、エリザベスが足を踏み外したのだ。
エリザベスは、足を捻挫し、川に落ちたせいか、三日間高熱でうなされることとなった。
僕はエリザベスを守りきれなかったことを悔やんだ。
悔やんで、でもできることがなくて、僕はエリザベスが好きな白詰草の花を摘んで、指輪を作った。
「守れなくて、ごめん……」
お見舞いに行った僕は、作った指輪をエリザベスの手にはめて、エリザベスが好きな絵本の王子様みたいに、そっとその手にキスを落とした。
エリザベスが喜ぶことが、他に分からなかった。でも、何かせずにはいられなかったのだ。
本当は、この熱を取ってあげたい。僕が身代わりになれたらいいのに。
そんなふうに思いながら、僕はうなされているエリザベスを残して、部屋を去った。
さて、熱から覚めたエリザベスは、僕にとんでもないことを言った。
「フリッツがね、お見舞いの時に、白詰草の指輪をはめてくれたの!」
僕は目を丸くした。
エリザベスが嬉しそうに見せてくれた指輪は、……うん、多分僕が作ったものだ。
「……あいつが? そう言ったの?」
「ええ! わたくし、とっても嬉しかったの」
僕は一瞬、「それは僕が作った指輪だ」と言おうかと思った。
けれども、病み上がりで喜んでいるエリザベスに、これ以上心労をかけたくはなかった。
だから、「よかったね」とだけ言って、エリザベスの頭を撫でた。エリザベスは、嬉しそうに目を細めていた。可愛い。
けれども、それが間違いだった。
それ以降、エリザベスはあからさまに、フリードリヒに恋情を向けるようになったのだ。




