6 僕じゃ不足かな
「……それは、僕には話せない事情なのかな?」
ぎくりとしてわたくしは背筋を凍らせます。
「……ジェイラス、殿下」
「今はジェイでいいよ」
「私、席を外しましょうか」
「キャロル、待っ……」
「うん。そうしてくれる?」
ジェイラス殿下はわたくしに有無を言わせず、キャロラインを他所にやってしまいます。
「……ジェイ」
「婚約の申込が25件か。先週は18件だったはずだけど、また増えたね」
「ご存じなんですか!?」
きっとわたくしのお母様が、ジェイラス殿下のお母様に漏らしたんだわ。まったくもう、お母様ったらなんてお喋りなの。
「エリーは、申込の内容は全て知ってる?」
「……」
「僕が一番最初だったと思うけど」
そう。婚約を解消したわたくしに、誰よりも早く婚約を申し込んできたのは、ジェイラス殿下でした。
「やっぱり、僕じゃ不足かな」
「……っ、そんなことは!」
「あいつが忘れられない?」
わたくしは下唇を軽く噛んで俯いてしまいます。
「わたくしは……まだ、次の婚約者を決められる心境じゃなくて」
鈍いわたくしでも、事ここに至れば流石に気がついています。
ジェイラス殿下は、わたくしのことを異性として好いてくださっています。
……自惚じゃないですわよね!?
問題は、わたくしの気持ち。
わたくしは……。
(正直に言うと、ジェイのことが凄く気になっていますわー!!)
1ヶ月前にあの喧嘩をするまで、あんなにフリードリヒが好きだったはずなのに、わたくしったらどうしたことなんでしょう。
全部全部、ジェイラス殿下が人が変わったみたいに強引になったせいですわ。
こんなふうに毎日毎日近づいてこられたら、どんな御令嬢だろうと、ジェイラス殿下のことを意識してしまうと思うんです。わ、わたくしが浮ついているせいではありません!
でも、これは恋なのかしら。
失恋したばかりのところに優しくされたから、ふらふらしているだけなのかもしれません。
5歳の頃から散々、三人で一緒に遊んできて、急にここにきて気になるなんておかしいですもの!
それに、フリードリヒのことだって、まだ心の整理ができていません。
あんなふうに喧嘩別れになってしまって……。
ジェイラス殿下とキャロラインの二人は、フリードリヒのことを悪様に言いますけれども、わたくし、フリードリヒのことをそんなに悪く思っていないのです。
だって、わたくしにだって至らないところはあって、歩み寄りができなかった結果、あの喧嘩に繋がってしまったのですから。
その辺りのことを整理してからでないと、わたくし、次に進めないような気がするのです。
思考がふらふらしますわね。とにかく、分かっていることは!
「わたくしの気持ちの整理がつかないのは、8割方、ジェイのせいです!」
「僕のせい?」
恨みがましい目で見るわたくしに、寂しそうな顔をしていたジェイが、キョトンと目を瞬きます。




