5 キャロラインの不安
それから、わたくしの環境は一気に変わりました。
今までわたくしを遠巻きにしていた人達、特に男性陣が、隙あらばとわたくしに話しかけてくるようになったのです。
「エイジャー公爵令嬢。これからお昼ですか? よかったらご一緒に……」
「エイジャー公爵令嬢。日直なんですね、お荷物お運びしますよ」
「エイジャー公爵令嬢、よかったら二人で放課後に出かけませんか」
婚約者のいない公爵令嬢とは、こんなにも男性に話しかけられるものなのですね。
権力とは恐ろしいです。
「何言ってるの。エリーが異常にモテているだけよ!」
学園のカフェでお茶をしながらぼやいたわたくしに、キャロラインが眉間に皺を寄せながら指摘します。
「まさか。ほんの少し見た目を変えただけじゃないの」
「その見た目が可愛らしすぎるの。もうね、学園中の噂になってるから」
「ええ!?」
キャロラインによると、どうやら『エリー改造計画』によって、『ケバい魔性の女』という学園内でのわたくしのレッテルは見事に剥がれたようです。
そしてなんと、『本当は初心な清純系美女』という別の評判に塗り変わってしまったのだそうです。
「う、初心、ですの?」
「そりゃあそうよー。あれだけ毎日、ジェイラス殿下に翻弄されて」
「キャロル!」
そうなのです。『エリー改造計画』を実行しだしてから毎日、ジェイラス殿下がわたくしに対して意地悪をしてくるのです。
わたくしのことを毎日、わたくしが照れて何も言えなくなるまで可愛い可愛いと褒めてきますし、隙あらばエスコートしようとしてきますし、耳元で不意に「エリー」と愛称を囁いてきたりして、本当に意地悪なのです。わたくしは殿下のそんな対応に全然慣れなくて、殿下が何かする度に涙目になってしまっていました。
けれどもまさか、そんな様子も全て噂になっていたなんて……!
「でも、凄いわね。これだけジェイラス殿下が張り付いてるのに、隙を見てエリーに近づいてくる男ども……」
「張り付いてるだなんて。それに、ジェイラス殿下とは、そういう関係ではないのだから」
「それよ」
キャロラインに頰をつんつんされて、わたくしは首を傾げます。
「エリーがあまりにジェイラス殿下にそっけないから、男どもがまだ機会があると思って群がってきちゃうんだわ」
「そっけないかしら。そんな冷たい対応なんてしてないけれど」
「エリーはジェイラス殿下のこと、好きになれない?」
紅茶が気道に入って、わたくしはゲッホゴッホと、公爵令嬢らしからぬ大声で咳をしてしまいます。
「キャ、キャロル! わたくし、ジェイラス殿下とは、そんな」
「……本当に、そんなんじゃないの? だとしたら私、悪いことしてしまったかしら」
「キャロル?」
心配そうに私を見るキャロラインに、わたくしは目を瞬きます。
「エリーが今まで、ああいう格好でああいう化粧をしていて、せっかく落ち着いてきていたものを、私が揺り起こしちゃったかなって」
「キャロル……」
キャロラインは、わたくしがなぜ今まで、大人びた服装をして、濃い目の化粧をしていたのか知っているのです。
「殿下がエリーを守ってくれるし、エリーも元々殿下に対してかなり好意的だから、大丈夫だと思ってたの。でも、エリーが殿下のこと、異性として好きになれないなら、私……」
「キャロル」
わたくしはキャロラインの手をしっかり握りしめます。
「ジェイのことは、自分でもまだよく分からないし、服装を変えたことで危険はあるかもしれないけど……。でもね、わたくし本当は今の格好の方が好きなの。ありのままの自分でいられるもの。二人には感謝しているのよ」
「エリー」
「それにね、きっと大丈夫よ。公爵令嬢って凄いのよ。婚約解消してたった一月だと言うのに、婚約の申込がもう25件も」
「にじゅうごっ……ええ!?」
驚くキャロラインに、わたくしは微笑みます。
「その中できっと一人くらい、わたくしの事情を理解してくれる方がいらっしゃるに違いないわ。だからキャロル、変に気に病まないで」
「……それは、僕には話せない事情なのかな?」
ぎくりとしてわたくしは背筋を凍らせます。
「……ジェイラス、殿下」
そう、そこにはジェイラス殿下が立っていたのです。




