4 「エリー改造計画」発動
フリードリヒとわたくしが教室で婚約解消の話をしてから一週間後、わたくし達の婚約は正式に解消されました。
理由が理由なので、わたくしとフリードリヒは顔を一切合わせませんでした。
とはいえ、貴族学園でのクラスメートなので、今後一切関わりを持たないのは不可能です。
そのため、両家の両親が協議した結果、お互いに不要な接触を避けつつ、学園の教師にもお伝えして配慮を求めることになりました。
両家の話し合いの際、フリードリヒのお母様は特に念入りにわたくしに謝ってくれました。わたくしのせいであんなに悲しそうな顔をさせてしまうなんて、フリードリヒのお母様には本当に申し訳ないことをいたしました。
わたくしは、お母様達の仲が崩れないよう必死に、今回の婚約解消はお母様同士の友情には関係ないのだと主張いたしました。
わたくしの主張のおかげで、両家の関係は若干ギクシャクしたものの、ヒビが入るというところまではいかなかったようです。本当によかったですわ。
そして、婚約解消してからさらに1週間後、ジェイラス殿下とキャロラインによる二人の『エリー改造計画』は実行されました。
「キャロル。わたくしやっぱり、恥ずかしいわ」
「大丈夫、とっても可愛いから。皆きっとびっくりするわ」
改造計画の初日、わたくしはジェイラス殿下の選んでくれた、花柄のワンピースを着ていました。
化粧はキャロラインに習ったとおりの柔らかい印象になるようなものにして、長い黒髪は毛先をほんの少しだけコテで巻いています。
ドキドキしながら教室に入ると、騒ついていたクラスメート達が一気に静まり返ってしまいました。
「お……はよう、ございます?」
皆一様に、わたくしの方を見て、石像のように固まっています。
せっかく挨拶をしたのに、完全無視です。わたくしはもう、不安で不安で、教室に入ってもいないのに既に涙目です。
焦るわたくしが今にも教室を立ち去ろうとした時、聞き慣れた彼の声がしました。
「エリザベス嬢」
もちろん、ジェイラス殿下です。
教室の中央から、わたくしに向かって、満面の笑みでわたくしの方に向かってきます。
「ジェイラス殿下」
「その服にしたんだね。すごく似合ってる。いつも可愛いけど、今日は一段と魅力的だ」
ジェイラス殿下は流れるような仕草で、わたくしの手をとって席までエスコートしてくださいます。
「……あれってエイジャー公爵令嬢なのか?」
「えっ、同一人物?」
「可愛い……」
ざわつきだした教室から、そんな言葉が聞こえてきて、わたくしは何だか恥ずかしくて赤くなって俯いてしまいます。ちなみに、エイジャー公爵令嬢とは、わたくしのことです。
そんなわたくしを見ながら、ジェイラス殿下とキャロラインは、これ以上ないほどいい笑顔でわたくしを囲っていました。
とても恥ずかしくて居た堪れないけれども、二人が満足してくれたのなら、わたくしは本望です……。
ふと、教室の隅、窓際の席から視線を感じて、わたくしは振り返ります。
やはりというか、視線の主はフリードリヒでした。
フリードリヒは、わたくしと目が合うと、ふい、と目線を逸らして窓の外を見てしまいました。
わたくしが目を伏せると、ジェイラス殿下がわたくしの耳に口を寄せます。
「エリーは笑顔の方が可愛いよ」
わたくしにだけぎりぎり聞こえるような声で囁かれて、耳を押さえたわたくしは涙目で真っ赤です。
しかも、わたくし達のやりとりに、きゃーっと令嬢達から興奮したような黄色い声が上がってしまいました。
「ああ……せっかくの流行りのピンクシュガー色がりんご色に」
「赤くなったエリザベス嬢も、最高に可愛い」
キャロラインの指摘に、ジェイラス殿下はこの上なく楽しそうに笑っています。
わたくしはもう、意地悪なジェイラス殿下に憤慨するばかりです。
そして、お陰でフリードリヒのことが頭から抜けていってしまったことに気が付きませんでした。




