3 洋服も一新
化粧に引き続いて手を入れられたのは、わたくしの服装です。
二人に王都に連れてこられたわたくしは、それはもう、着せ替え人形のように何着も試着させられてしまいました。
しかも、何を着ても、ジェイラス殿下が雨のように褒め言葉を振らせてくるのです。
「可愛い。どれを着ても可愛いし美しいし魅力的だけど、この服の淡い黄色の彩りが最高に似合ってる」
「白いシャツの清楚な雰囲気がエリーの内面を表しているようでとても綺麗だ」
「黒い服もこういう形のものを選ぶとエリーの可憐さが際立つんだね。髪の色との相乗効果で神秘的だ」
ジェイラス殿下は洋服店で勤められるんじゃないかしら?
二人が選んでくれるお洋服は、控えめで清楚感のある化粧とあいまってとても素敵で可愛らしいものばかりですが、それにしても次から次へと賛辞が溢れ出してきます。
「ジェイ。今日は一体どうしてしまったの」
「僕はいつもこんな感じだよ」
「息をするように嘘をつかないでくださいまし!」
「殿下はいつもこんな感じよ、エリー」
「!?」
半目でこちらを見ているキャロラインに、わたくしは動揺しきりです。
「殿下。本当に、本人にだけは上手く隠し通してきたんですね……」
「エリーには今まで婚約者がいたんだから、こんなふうに話す訳にはいかないだろう?」
「それはまあ、そうなんですが。言っておきますけど、まだいますからね? 婚約者」
「いなくなるのも時間の問題だ」
いいから控えめにしてください、というキャロラインの言葉もどこ吹く風で、ジェイラス殿下は楽しそうにわたくしの洋服を選んでいきます。
(ジェイは、いつもこんな感じ……?)
「ジェイは、お相手の決まっていない未婚の令嬢に対してはいつもこうなんですの?」
「違うよ! はあ……エリーは本当に、フリッツしか見てないんだもんな」
ジェイラス殿下は、わたくしの頭を撫でながら寂しそうな顔をします。
その見覚えのある顔にはっとしたわたくしは、ついジェイラス殿下の服の裾を掴んでしまいました。
「……エリー?」
「あ……いいえ、ごめんなさい」
パッと服を離すと、ジェイラス殿下が窺うようにわたくしの顔を覗き込んできます。
ジェイラス殿下の長いまつ毛が、間近にチラチラ見えてしまって、わたくしは今日一番に動揺してしまいます。
「ジェイ、ちょっと近いですわ」
「エリーはすぐ隠し事をするから」
「顔を覗き込んでも、隠し事の正体は分かりませんわよ?」
「どうかな。エリーは恥ずかしがり屋だから、案外上手くいくかもしれない」
(本当に、ジェイはどうしちゃったの!?)
今までにない至近距離に、わたくしの心臓は早鐘のようです。
耐えられなくなったわたくしは、慌ててキャロラインの後ろに逃げ込みました。
ジェイラス殿下はくつくつと笑ながら、わたくしに手を差し出します。
「エリー、隠れてないでこっちにおいで」
「殿下、控えめにって言ったでしょう」
「これでも控えめにしてる。本当はもっと色々と」
「殿下」
威嚇するキャロラインに、ジェイラス殿下はようやく手を下ろして、次の洋服をキャロラインに差し出しました。
「分かったよ。次はこれなんかどうかな」
「……服の趣味はいいんじゃないかしら。エリー、どう?」
ふんわりとした素材で、軽やかな印象のワンピースでした。上の方は無地ですが、下にいくほど花模様が増えていく薄い桃色の可愛らしい服です。
わたくしは胸が大きく、ワンピースは着膨れしてしまうので苦手なのですが、このワンピースはウェストに絞りがあるので、わたくしのような体型でもすっきりと見せてくれそうです。
わたくしのことをしっかり見ていないとなかなか選ぶことができないデザインの服に、動悸がさらに激しくなるのを感じます。
「わ、わたくし……」
「エリーはワンピース、着てみたかったんだろう?」
「どうして」
どうしてそれを知っているのか。
言葉にならなかったわたくしの疑問に、ジェイラス殿下は優しい目で答えてくれます。
「エリーはワンピースを着ている令嬢を、いつも羨ましそうに見ているから」
「……ジェイ」
「エリーが本当は、いつも着てる大人っぽい服より、こういう可愛い服の方が好きなのも知ってる」
ぽろりと、涙がこぼれ落ちるのを感じました。
わたくしがずっとずっと欲しかった、わたくしだけを見ての言葉。
それをくれるのは、やっぱりジェイラス殿下で、フリードリヒではなくて……。
「エリー」
「ジェイが、優しいから」
「エリーにだけだよ」
「嘘ばっかり」
ふふ、と笑うわたくしに、「嘘じゃないんだけどなぁ」と呟きながら、ジェイラス殿下は困った顔をしています。
結局、洋服店では大量の洋服を購入することになってしまいました。
しかもなんと、全部ジェイラス殿下が買って、わたくしに贈ってくださったのです。
「ジェイ! こんなに沢山、貰えないわ」
「失恋したエリーを慰めるためのものだから、気にしないで」
「で、でも……」
「僕が選んだ服、着るのはいや?」
そう言われてしまうと、わたくしも断りづらくて、色々と抵抗しましたが、結局押し切られてしまいました。
私は恐縮しきりで、隣でキャロラインが「私も選んだんだけどな……」と呟いているのも耳に入りません。
「エリーの名誉を挽回するためだから、安いものだよ」
「ジェイ……」
「困った顔をされるより、笑顔でお礼が言われたいな。エリーの笑顔は可愛いから」
ジェイラス殿下がそう言って愛おしそうな目で見てくるものだから、わたくしはもう一杯一杯です。
「ジェイ、ありがとう……」
恥ずかしくてくすぐったい気持ちをなんとか抑えて、ふわりと微笑むと、ジェイラス殿下の顔がぱっと真っ赤に染まりました。
「どう、いたしまして」
「あの……」
「いや、ごめん。思った以上に、エリーが可愛かった」
お互いに涙目で俯いているわたくし達の横で、キャロラインが引き気味な顔をして立っていました。
「私、帰りたい」
「キャロルがいないと困るわ!」
「そうだな、そろそろ皆で帰ろうか!」
勝手に一人で帰ったらだめですわよ!?
心臓が爆発して死んでしまうわ!!
わたくし達は、己を守るために、必死でキャロラインに縋りつきます。
そんなわたくし達二人からの圧力に、キャロラインは呆れたように笑いながら、「仲良しで何よりだわ」と呟いたのでした。




