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番外編 ジェイの誕生日



「ジェイ、お誕生日おめでとう!」



 今日はジェイの誕生日なのです!


 毎年、夏の陽気で木々が生い茂るこの季節に、ジェイの誕生日はやってきます。

 貴族学園は夏休みなので、こうして日中に二人で誕生日を祝うことができているのです。


「ありがとう、エリー。こうして二人きりで祝ってもらえるなんて嬉しい」

「ふふ」


 手放しに嬉しそうにお礼を言ってくれるジェイに、わたくしは嬉しくて頰が緩んでしまいます。


 実は、わたくしは今回、ジェイを独り占めするためにとても頑張ったのです。




*****



 今回、ジェイの誕生日は木曜日でした。

 王子王女の誕生パーティーの開催は通常、週末に行われます。

 ここでまず、誕生日当日のジェイの予定を確保できる可能性が上がりました。

 わたくしはジェイの誕生日の2ヶ月前から、ほくそ笑んでいました。


 当日に誕生パーティーを開いてもらえないジェイの気持ちより、二人で誕生日お祝いしたい自分の気持ちを優先して喜ぶ。

 わたくしは本当に悪いオンナなのです。





 そうして最初に狙ったのは昼食です。


 わたくしの家でおもてなしをするのもいいかもしれない。

 お昼を持って、ピクニックに行くのも……わ、わたくし、昼食を手作りしてみちゃおうかしら。きゃー!


 そんなふうに計画していたら、それがなんと、わたくしのお父様とお母様にバレてしまったのです。


「殿下を誕生日当日に公爵家に招くなら、盛大に祝わないといけないな!」

「あなた、良いと思いますわ。ここは、エイジャー公爵家がこの婚約を喜んでいることを見せつける良い機会です」

「うむ。金に糸目をつける場面ではないな。よし、直ぐに打ち合わせを開始しよう」

「そうですわね。親族はどこまで呼びましょうか。友人にも招待状を送って……エリザベス、あなたも呼びたい人はいる?」


「や、やめて! 大袈裟にしないで……!」


 わたくしは興奮する両親を必死に宥め、週末に誕生パーティーが控えていることを盾に、なんとか盛大なパーティーを開くのを防ぎました。


 そうして気がついたら、誕生日当日のお昼に、わたくしの両親と兄弟姉妹が同席する昼食会を開催することになってしまっていたのです。


 わ、わたくしの、ジェイ独り占め計画が……!





 誕生日当日の夕食を狙うべき、ですか?

 わたくしだって、ジェイとの夜を過ごしたい!

 い、いえ、夕食をご一緒したいという意味ですわよ!?


 けれども、当然ですが、ジェイは誕生日当日の夕食時、国王夫妻や側室の皆様、それにご兄弟達と過ごすことになります。

 王族一家が揃う夕食に、婚約者でしかないわたくしは、入る余地すらないのです……。





 そうなると、次の狙いはカフェタイムです。


「ジェイ! お誕生日の当日、14時ごろからわたくしと一緒に……」

「えっ」

「えっ?」

「あ、そうか! あの日、エリーは風邪で休んでいたから……!」


 なんと、ジェイは誕生日当日に、14時から友人達との約束を入れてしまったのだそうです。

 入れてしまったというか、入れられてしまったというか。

 友人達というか、クラスメート全員というか……。


「そういえばジェイお前、夏休みに誕生日だったよな?」

「クラスメートの誰にも当日祝ってもらえないじゃないか!」

「夏休み俺、暇なんだよなー。せっかくだから集まろーぜ」

「あーいいんじゃない? せっかくだから何かスポーツやりたい」

「バスケ対抗戦とかいいんじゃないか」

「おーい、夏休み第1週の木曜日にバスケやる人ー!」

「いいねー参加するする」

「女性陣も応援に行っていい?」

「いいよ、皆で集まろうぜ」

「ジェイは昼と夜は誰かと過ごすんだろう? そうだなー、14時から3時間くらいにしとくか。ジェイは遅れてきてもいいからな」

「クラス全員集まっても、試合時間をこのくらいで設定しておけば……」


「あの、僕の誕生日……?」


「「「「「ああ、ついでに祝ってやるから任せとけ!」」」」」


 そんな流れで、クラスメートが全員集まって、何故かバスケ大会を開くことになってしまったのだそうです。


「わたくし、聞いてませんわ!」

「5日前に決まった話だから……むしろ皆、エリーが来ないことは想定してないんじゃないかな」

「ええ……」

「僕もあまりの展開に色々とすっぽ抜けてた。ごめんね」


 ジェイは謝りながらも、「エリーが来てくれないと寂しくて死ぬ」とわたくしを抱きしめておねだりしてきます。

 そういうことをしたら、わたくしが許してしまうと知っていて、彼はそういうことをするのです。

 きっとジェイは、わたくしのことをチョロいと思っているに違いありません。

 なんて酷い人なの!


 わたくしは許しました。





 誕生日ジェイ独占問題は残ったままです。

 どうしたら、わたくしはジェイを独り占めできるの?


 わたくしは涙目でジェイにひしっと抱きつきながら、「ジェイと二人で過ごしたい……」と呟きます。


 そうしたら、ジェイが「朝なら空いてる! 午前中にしよう、午前中!」と言ってきたので、ようやく誕生日当日のジェイを確保できたのです。


 わたくしの頑張りの勝利です!




*****




 わたくしは悩んだ結果、ジェイに少し早めに公爵家に来てもらって、公爵家の広い庭の奥の方にある庭園で過ごすことにしました。


 昼食会があるのでどのみちエイジャー公爵家に戻らないといけないですし、ジェイと過ごす時間を移動時間で減らしたくなかったのです。


 本当は本邸内のティールームかわたくしの部屋に招こうと思いましたが、婚前で扉を開けていないといけない中、わたくしの両親と兄弟姉妹達がニヤニヤしながら廊下を何度も通り過ぎることが想定されたので、場所は庭園を選びました。


 ここなら開けた場所なので、庭師にお願いすれば、部屋の中よりもずっと二人きりにしてもらえるのです……!



 わたくしは庭園のベンチに座りながら、ジェイをおもてなしすべく持ってきた持ち物を用意します。


「あのね、プレゼントを用意したのよ!」

「うん、ありがとう」

「ふふ、きっと気にいると思うの!」


 そう言って、まず一つ目のプレゼントを渡します。

 このプレゼントは、可愛い花柄の布で包んで、ジェイの髪の色である金色のリボンで装飾しました。

 布の色はわたくしの目の色である深い青色を選んでいます。

 わたくしは独占欲の塊なのです!


「なんだろう? 開けてもいい?」

「ええ、どうぞ!」

「そんなに自信があるん……ええええ、ネルリンガー先生の最新著書じゃないか!!」


 ジェイは、袋の中から出てきたものに目を剥きます。


 わたくしはジェイのために、ネストリヴェル=ネルリンガーという冒険者の最新著書を用意したのです。


 その著作者は、世界の謎に迫る冒険をしながら、その内容を本にして出版している方で、その著書は世界的に人気があります。

 そして、著作者が原稿を渡している出版社が遠い国にあるため、我が国では最新著書がなかなか手に入らないのです。


 王子であるジェイでもなかなか手に入らないそのプレミア本。

 ですが、エイジャー公爵家の裏ルートを使えば、このとおりですわ!

 他力本願?

 ジェイが喜べば全ては許されるのです!


「こ、こ、これっ、どうやって……!」

「ふふ、わたくしの愛の力です!」

「エリーの愛、凄いな!? ありがとう! あっ、でも……本当に、こんな貴重なものを、いいの……!?」

「わたくし、他の巻を読んでいませんもの。単独でも読めるけれど、発行順に読むと一段と面白い本なのでしょう? 愛読者のジェイの手元にあるのが一番ですわ!」

「ありがとう! 本当にありがとう!」


 わたくしからのプレゼントというだけでなく、本気で喜んでいるジェイの様子に、わたくしは嬉しくてニヤニヤしてしまいます。

 そんなわたくしをみて、ジェイはハッと我に返った素振りで、恐る恐る問いかけてきました。


「ちなみに、なんでエリーは、僕が彼のファンだって知っているの? 皆に隠していたのに」

「フリッツが教えてくれたの」

「なんであいつが知ってるんだ!?」


 わたくしのタレコミに、ジェイは愕然としています。


 どうやら、ジェイは彼の著作が好きすぎて、自分で気持ち悪いと思うぐらい好きすぎて、恥ずかしくてファンであることを隠していたそうなのです。ジェイが熱いネルリンガーファンであることを知っているのは、本棚のあるジェイの寝室を行き来する侍従侍女と、本の入手ルートの商人だけのはずなのだとか。


「ジェイの隠し事を俺が知らない訳がないだろ? って言ってましたわ」

「あいつ、僕のこと好きすぎないか!?」

「元から分かっていたじゃないの。わたくしも負けていられないわ!」

「エリーのライバルはフリッツなのか……!」


 むん、と気合を入れるわたくしに、ジェイはさらに愕然としています。


「ジェイ、ジェイ。次のプレゼントよ!」

「あれ、まだ貰えるの?」

「もちろんよ! 今度はわたくしが一人で考えたプレゼントなの。ライバルの力を借りていないものも用意しないと!」


 そう言って、わたくしはもう一つの包みをジェイに渡します。

 ラッピングは、ジェイの目の色である空色の布に、わたくしの髪の色である黒いリボン。黒いリボンには、ジェイの髪の色に合わせて、金糸で刺繍をいたしました。

 わたくしは、独占欲のかたま(略


「なんだか良い香りがする」

「でしょう? 見て見て」

「茶葉だ! ハチミツと、レモン……今淹れてくれているお茶と一緒?」

「そうなの! わたくしが材料を集めて作ったの!」

「えええ!? す、凄いね!?」

「ふふふ」


 わたくしは、ジェイのために、ハチミツとレモンのフレーバーの紅茶の茶葉を用意したのです。


 ジェイはきっと、誕生日ということで、ここしばらくは沢山のケーキや甘いものを食べることになるはずです。

 だから、そういった甘いものではなくて、ちょっとした食休めの意味も込めて、紅茶を用意したのです。


 けれども、紅茶店で買うだけだと味気なかったので、エイジャー公爵家で懇意にしている紅茶店にお願いして、フレーバーティー作りを教えてもらったのです。


「ハチミツとレモンなら、ジェイも好きだったでしょう?」

「うん! 本当に、僕のためにありがとう。こんなに嬉しい誕生日は初めてかも」

「もう、ジェイったら」


 手放しで喜ぶジェイに、わたくしはもう有頂天です。


 そして、わたくしは最後のプレゼントを渡すことにしました。


「ジェイ、あのね。最後にもう一つだけプレゼントがあるの」

「本当に? エリーは沢山準備してくれたんだね。どうもありがとう」

「あ……、最後のは準備がいらないような……。でもそうだわ、心の準備がいるわ……」

「?」

「あのね、ジェイ。目を瞑ってくれる?」


 お願いすると、ジェイは素直に目を瞑ってくれます。


 わたくしはドキドキしながら、その端正な顔立ちを見つめます。


 わたくしの大好きな王子様……。


 わたくしは、彼を大好きな気持ちで胸をいっぱいにしながら、そっとその頰に唇を寄せました。


「……! エリー」

「ジェイ、お誕生日おめでとう。ジェイが生まれた大切な日に、わたくしと一緒に過ごしてくれてありがとう」


 今日は、わたくしとジェイが婚約者になってから、初めてやってきたジェイの誕生日です。

 だから、いつもと違って、その……恋人っぽく過ごしたかったのです。


 わたくしがだんだん恥ずかしくなってきて目を伏せると、ジェイがわたくしを抱きしめてきました。


「ジェイ……!」

「エリー、僕の誕生日を祝ってくれてありがとう」

「どういたしまして。ジェイが喜んでくれたならよかった」

「うん。それでね、もうちょっとプレゼントが欲しい」

「もうちょっと? それって、どういう……」


 最後まで言う前に、ジェイはわたくしの唇を奪っていきました。

 ジェイはこういうとき、とても強引なのです。

 悪い男性だわ!


「ジェイ、ダメよ。誰もいないけど、万が一誰かに見られたら……」

「人払いしてあるし大丈夫だよ。何より、煽ってきたエリーが悪い」

「わ、わたくしそんなことしてないわ!?」

「うーん。じゃあね、エリーは僕がこういうことしたらどう思う?」


 そう言うと、ジェイはわたくしの耳元で、「目を瞑って」と囁きます。

 抱きしめられているわたくしは、耳を押さえることもできません。


「ジェ、ジェイ……っ」

「ほら、目を瞑ってエリー」


 わたくしは諦めて、そっと目を閉じました。

 けれども、ジェイはわたくしを抱きしめたまま、しばらく何もしてきません。


 不思議に思っていたところで、不意に頰に、温かい感触がしました。

 驚いて目を開いた私に、ジェイが至近距離で笑っています。


「一緒に過ごしてくれて、僕の方こそありがとう」


 わたくしは、その笑顔に、顔に熱が集まるのを感じます。

 不意打ちの後の、大好きな人の満面の笑み。

 わたくしの心はイチコロです。


「ジェ、ジェ、ジェイ……」

「ね? 凄い威力だろう?」

「わ、わたくし…………」


 なるほど、ジェイが「エリーが煽った」と言うのも無理はないかもしれません。

 涙目で反省しているわたくしに、ジェイは意地悪な顔をして言いました。


「だからね、悪いオンナなエリーは、もう少し頑張るべきだと思うんだ」

「……え?」

「なんで今日、朝会うことにしたんだろうなぁ」


 そう呟いた後、ジェイは再度、わたくしの唇を奪ってきました。

 そしてそれから、何度もわたくしの唇を奪ったり、顔中にキスをしたりと、恋人同士しかしないようなことを沢山してきたのです。


 わたくしは自宅の庭園でこんなことになるなんて、恥ずかしくて恥ずかしくて消滅してしまいそうでしたが、彼にきっかけを作ってしまった悪いオンナのわたくしは、耐え忍ぶしかありません。


 耐え忍ぶしかありません。


 耐え、忍ぶしか……。


 そう思って、頑張って耐え忍んでいましたが、あまりにジェイが離してくれないので、最終的にわたくしは逃げ出すことにしました。

 そして、その気配を感じたジェイは、わたくしを抱きしめたままくすくす笑っています。


「エリー、僕から逃げようとしても無駄だよ?」

「えっ!?」

「僕が何年、君がフリードリヒから逃げるのを手伝ってきたと思ってるの? 君の逃げ方、逃げる場所なんて、僕は全て把握してる」


 そう言って頰にキスをする彼に、わたくしは顔を赤くしながら震えます。


「エリー、僕は言ったよね。絶対に婚約を解消しないから、覚悟してって」

「き、聞いたわ……」

「エリーはまだ覚悟が足りないようだね?」


 そう言って彼は、ゆっくりとわたくしに大人のキスをしました。


「……!? ……ジェイ、待って」

「ほらエリー、頑張って」


 わたくしが抗議しても、彼は全く手加減をしてくれません。


 わたくしは抵抗しようとしますが、言葉とは裏腹に、どんどん力が抜けていってしまいます。


 だってだって、今のジェイは、なんだか色気が凄いのです!

 強引なやり方や、その端正な顔立ちがあいまって……そう、夜の帝王という呼び名がふさわしいんじゃないかしら!?


 わたくしは結局ほとんど抵抗できないまま、彼に翻弄されてくったりとしてしまいました。

 そんなわたくしを宝物みたいに抱きしめた彼は、わたくしの耳元でそっと囁きます。


「それに、エリーはこういうのが好きなんだって聞いてるよ?」

「……ジェイ?」

「僕はエリーの何もかもを愛してるから、エリーが喜ぶことをなんでもしてあげたいんだ」


 わたくしが、こういうのが好き……?


 彼の楽しそうな顔に、わたくしはなんというか、背筋が震えるような予感がして、戸惑いを隠さないまま彼を見返します。

 彼は、そんなわたくしを見てふっと笑うと、わたくしの耳元に唇を寄せて、囁きました。


「これから一生、沢山翻弄するから、楽しみにしていて」


 そう言うと、彼はわたくしの耳を甘噛みしてきました。

 わたくしは、まさかの言葉に、まさかの感触に甘い声を出してしまいます。


 どどどういうことですの?

 ジェイは、わたくしが振り回されるのが好きな変態だってこと、知っているの?

 ま、ま、まさか……。


「フリッツ、まさか……!」

「うん? タレコミ元がバレてしまったね」

「ジェイ! だ、だめよそんな、真に受けたりしたら……」

「エリーの反応を見ると、真実のようだよ?」


 ニコニコ笑っているジェイに、わたくしは口をはくはくさせながら涙目になることしかできません。


「エリー大丈夫。僕は頑張って、沢山意地悪するから」

「何も大丈夫じゃないわ!?」

「そうだよね、エリーは恥ずかしくて嫌がるふりをしているところを、あえて振り回して欲しいんだよね」

「話が通じてない!?」


 わたくしの精一杯の抗議を、ジェイは難なく躱していきます。



 でも、心では分かっているのです。


 全部全部、ジェイの言うとおりなのです。


 だめだと口では言っていても、強引なジェイのやることなすことが、全てわたくしの心に刺さって、わたくしにはもう、ジェイしか見えない。

 わたくしは、どう足掻いても、やはり変態……!!!



「エリー、愛してるよ」



 とっても悪い大人になってしまった王子様は、わたくしに何度も、そう囁いてきます。



 これからのわたくしは、どうやら大好きな王子様に溺愛されて、とても幸せになれるようです。






ご愛読ありがとうございました。


ブクマ、感想、評価など励みになりますのでよろしくお願いします。



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