26 わたくしの王子様 ※ジェイラス第三王子目線
「……待って」
今の今まで、好意的な誤解を深めていたエリザベスが、急に我に返ったかのような声を出した。
「じゃあジェイは、わたくしの気持ちを知っていて、わたくしから逃げていたってことなんですの?」
「え!?」
「ジェイは、わたくしのこと、嫌いになってしまったの……?」
僕の右手を握る可愛い両手が震えている!
「ち、違うんだ、誤解だ! 僕がエリザベスの好意から逃げる訳ないじゃないか!」
「ほ、本当に? じゃあ、なんで……」
「ええと、僕はエリザベスはフリードリヒを好きなんだと思っていたんだ」
「えっ!?」
僕の話した真実に、好意的な誤解を覆されたエリザベスは、こぼれ落ちそうなくらい目を見開いて驚いている。
「でも、あの、エリザベスは、僕が大好きなんだ……?」
恐る恐る聞くと、ぽかんとした表情のエリザベスの顔が、じわじわと林檎色に染まっていった。
「ジェ、ジェイの嘘つき! 酷いわ!」
「嘘のつもりは……」
「全部分かってるなんて言うから!」
「悪かったよ。エリー、それで、本当に……?」
「……!」
僕の問いかけに、エリザベスは顔を真っ赤にしたまま固まってしまう。
でも聞きたい。
僕はどうしても、エリザベスの口からもう一度、その言葉を聞きたい。
「……さ、さっき言ったわ」
「ちゃんと聞きたい」
「ジェイの意地悪!」
「エリー、だって信じられない。二人で僕をからかってるんだろう?」
僕は屁理屈をこねてしょげたフリをする。
エリザベスはそんなことをしないと分かっているけど、なんとしても僕は彼女の言葉を聞きたいのだ。
「あー、そうだな。確かに俺はそういうエグい嘘をつく奴だ。だから、エリーはもっと頑張らないと、ジェイに信じてもらえないと思うぞ」
横からフリードリヒによる援護射撃が入る。
どうしたんだ、なんでこいつはこんなに協力的なんだ? まあいいけど。
それはともかく、可哀想なエリザベスはすっかり僕達に騙されたようで、慌てながら必死に言い募ってきた。
「ジェイ……! そんなに悲しそうな顔をしないで。わたくし、そんな酷いことしないわ。信じて欲しいの……!」
「エリーは小さい頃からフリッツが大好きだったじゃないか」
「わ、わたくしが今好きなのはジェイなの!」
「……本当に?」
「本当よ!」
「……」
「ジェイ、本当なの。本当に、わたくしの好きな人はジェイなの……!」
「じゃあ、もう一回言ってくれたら信じようかな」
僕の言葉に、エリザベスが目を見開く。
そろそろ可愛いエリザベスも、僕にからかわれていることに気がついたらしい。
頬が緩むのを隠しきれていない僕を見て、ニヤニヤしているフリードリヒを見て、なんとも言えない悔しそうな顔をして抗議してきた。
「二人とも酷いわ!」
「……もう一度言ってくれないの? じゃあやっぱり、エリーは僕のことなんてなんとも思ってないんだ……」
「え!? ち、違う……ジェイだって分かっているくせに!」
「へぇ、エリーはやっぱり嘘をついてたのか。エリーは本当に悪い女だなぁ」
「フ、フリッツまで……!」
僕にがっかりされて、フリードリヒに煽られて、エリザベスは困り果てた顔で僕とフリードリヒを見ている。
「エリー、お願い」
僕の右手を握っているエリザベスの手を握りながら、僕はエリザベスの目を見てお願いをする。
急に真摯な態度になった僕にエリザベスは狼狽えていたけれども、最後には腹を括ったようで、深呼吸をして僕に向き直った。
「わ、わたくし、は……」
「うん」
「…………ジェイが、好きなの」
「……」
「ここのところ、ずっとジェイのことばかり考えていて……最初は、ジェイが色々と気にかけてくれるからだと思っていたけれど、そうじゃないの。沢山考えたけれど、わたくしやっぱり、ジェイが大好き。ジェイはわたくしにとって、一番特別なの……」
今度は、エリザベスも僕の目を見ていた。
不安そうに深い青色の瞳を揺らしている。
「信じてくれる?」
信じるかだって?
ここまで言われて疑うバカがいたら、僕が退治してやる!
僕は気持ちの赴くまま、エリザベスを思い切り抱きしめた。
「ジェイ……っ!?」
「エリー、僕のお姫様。世界で一番愛してる」
耳元で、そう囁くと、彼女は僕にしがみつきながら、ポロポロと泣き出してしまった。
僕はそんな彼女が愛しくて、好きだ好きだと囁きながら、しっかりと彼女を抱きしめる。
そうしたら、彼女が僕の耳元で、なんとこんなことを囁いたのだ。
「大好きよ。わたくしの、白詰草の王子様……!」
……え?
な、なんでエリザベスがそれを知っているんだ?
気づく要素なんかどこかにあったっけ?
フリードリヒが真実を言う訳もないし。
ど、どういう……。
いや、なるほど理解した。
やっぱりこれは夢だ。
そう、僕にだけ都合のいい、白昼夢……。
混乱した僕はとうとう、今日この瞬間が現実であることを信じられなくなってしまった。
そしてすぐさま、エリザベスに僕の頬をつねるようにお願いして、またしても彼女を困らせてしまったのである。




