24 逃げの一手 ※ジェイラス第三王子目線
ジェイラス第三王子目線です。
僕は、見たくない光景から目を逸らすべく、くるりと踵を返してその場を立ち去った。
結局、僕のやったことは全て自己満足だったのだ。
エリーの希望を聞かずに、エリーのためだと言いながら、エリーを振り回した。
沢山エリーを口説いて、エリーを困らせた。
きっと、フリードリヒに心を残していた彼女は、ずっと困っていたんだろう。
彼女は優しいから、僕に本当のことを言い出せなかったに違いない。
彼女の事情とやらだって、僕は教えてもらえていない。
彼女にとって僕は、やはり友人止まりの存在なのだ。
思えば、彼女は自分から僕を頼るようなことを言ったことは一度もなかった。
僕はきっと、頼ることすらしない程度の、もはや知人程度の存在なのかもしれない……。
じわりと涙が出そうになって、僕は頭を振る。
だめだ、今日の僕はきっともうだめだ。
幸いなことに、もう放課後だし帰ろう。
そう思っていると、背後から声が聞こえた。
「ジェイー!」
な、なんだと……!?
なんと、僕の天使が、僕の名前を呼びながらポテポテと走ってきている。
その緩慢な動きは、もはや早歩きと言っていいかもしれない。エリザベスは運動音痴なのだ。
呼ばれて、つい駆け寄りそうになる。
けれども、今の僕は、彼女と話をできる精神状態にない。きっと、彼女と話をしたら、情けないことばかりを言ってしまうだろう。
そう思った僕は、初めて彼女の呼びかけを無視して、逃げるために走り出した。
「ジェイ!?」
どうやら彼女は驚いているらしい。
それはそうだろう。
僕は彼女と出会ってから今まで、彼女を無視したことは一度もないのだ。
「ジェイ〜〜〜、待って〜〜〜〜!」
僕は彼女の声を遠くに感じながら、廊下を駆け抜ける。
彼女の足で僕に追いつけるはずはないので、きっとすぐに諦めるだろう。
「ジェイ〜〜〜〜〜〜!」
……まだ諦めていないようだ。
ならば僕も足を緩めるわけにはいかない。
「待って〜〜〜〜、ジェイ〜〜〜〜〜〜!」
走れども走れども、まだ後ろに声が聞こえる。
どうしたんだろう、彼女はそんなに大事な用事が……いや、でも今の僕は彼女と話すのは無理だ……!
「――おい」
「え!?」
全力疾走中にひょい、と首元を掴まれて、僕はぎょっとする。
振り向くと、フリードリヒが僕のジャケットの首元を掴んでいた。
服をひっぱられて、僕は仕方なくその場で止まる。
「危ないな! 鞭打ちになるだろう!」
「いや、お前が逃げるから……っていうか、お前、アレから全力疾走で逃げるなんて、鬼なの?」
フリードリヒは笑うのを堪えるので必死といった様子で、まだまだ遠くをポテポテ走って(?)いるエリザベスを指し示した。
僕は息を切らしながら、余裕綽々のフリードリヒを睨みつける。
「鬼はお前だよ! 同じ距離を走って、息も切らしてないし……僕より優秀で、エリーだって手に入れてるんだから、こういうときぐらい空気読めよ!」
ここまでして失恋した僕を追い込むような真似しなくてもいいだろうが!
流石に怒りをぶつけたら、フリードリヒは何故か、ポカンとした顔で僕を見てきた。
「なんだそれ。お前本気で言ってるのか?」
「今の話、嘘が入る余地あったか!? いいから離せよ、今はエリーと話したくない」
「……それはできないな」
それだけ言うと、フリードリヒは何だか気の抜けたような、肩の荷が降りたような顔でけらけらと笑い出した。
何なんだこいつは、一体何がしたいんだ!
結局僕はフリードリヒに首根っこを掴まれたまま、エリザベスに追いつかれてしまったのだ。




