2 まずは化粧から
復讐をすると決めたらしい二人は、放課後、まずはわたくしの化粧を変えてしまいました。
「エリー、メイク全部落とすわよ。目力のない普通のメイクに戻すわ」
「で、でも、そうしたら……」
「私と殿下がエリーを守るから大丈夫」
わたくしにそう言うキャロラインはキリッとしていて、わたくしはつい、頬を染めて微笑んでしまいます。
そんな私を見て、キャロラインは、私から離れてまた壁を殴っていました。……キャロル?
濃い化粧を落とし、下地の練薬を塗り、粉を叩いてお肌を整えると、キャロラインはわたくしの顔を慣れた手つきで装飾していきます。
そして、それが完成すると、わたくしに鏡を見せる前に、ジェイラス殿下を呼んできてしまいました。
「キャロル、わたくしだってまだ見てないのに……!」
「大丈夫、すっごく可愛いから! ね、殿下!」
ジェイラス殿下は、わたくしの顔を見ると、石像のように固まってしまいました。
そういえば、普通の化粧をした顔をジェイラス殿下にお見せするのは、学園に入学したての頃ぶりかもしれません。
何だか心もとなくて、わたくしは俯いてしまいます。
「あの、お見苦しいものを……」
「可愛い」
ジェイラス殿下の懐かしい褒め言葉に、わたくしはつい顔を上げて彼の顔を見てしまいます。
ジェイラス殿下は口元を押さえて、ちょっと顔を赤くして顔を背けていましたが、その目はわたくしをしっかりと捉えていました。
「ジェイったら、もう。本当にわたくしが可愛いみたいだわ」
実は、ジェイラス殿下とフリードリヒとわたくしは幼馴染なのです。わたくしたちの仲を知っている人の前では、ジェイラス殿下のことをジェイと愛称で呼ぶくらいには、わたくし達三人は仲良くしています。
それでも、ジェイラス殿下がわたくしをこんなふうに褒めてくれるのは久しぶりで、しかもその褒め方が何だか本当に心からの賛辞のようで、社交辞令と分かっていても、何だかくすぐったい気持ちになってしまいます。
そんなわたくしの思いを知ってか知らずか、ジェイラス殿下は、照れ笑いをしたわたくしの手をそっと取って、正面からこんなことを囁きました。
「本当に可愛いよ。天使みたいだ。透明感のある桃色がすごく似合ってる。女神かもしれない……」
「!?」
(ど、ど、どうしたのかしら!? 昔からジェイはマメに褒める人ではあったけれども、こんなふうに沢山の言葉をくれるなんて)
矢次早に繰り広げられる褒め言葉に、わたくしは一気に顔に熱が集まるのを感じます。
桃色とはきっと、キャロラインが使ってくれた目頭用の粉の色ことでしょう。わたくしに使う時に見せてもらったのですが、ラメ入りのピンクシュガー色で、とても可愛いらしいケースに入っていたのです。
「殿下、殿下。あまり刺激を与えすぎると、せっかくの流行りのピンクシュガー色がりんご色に染まってしまいます」
「赤くなったエリーも最高に可愛い」
言葉もなく涙目でふるふる震えているわたくしを、ジェイラス殿下が優しい目で嬉しそうに見つめています。
わたくしは恥ずかしくて、呆れた顔をしているキャロラインの背後に隠れてしまいました。




