17 フリードリヒとの決裂 後編
「フリッツは相変わらず、わたくしのことではなく、ジェイのことばっかり!」
驚くフリードリヒに、私は言い募ります。
「いつもいつもそう! わたくしはフリッツのことがこんなに好きなのに! フリッツが大好きなのはいつだってジェイで、わたくしじゃないのよ!」
「なっ、人を男色家みたいに言うな!」
「いっそ男色家だったら良かったわ! フリッツは、わたくしに興味があるんじゃない。女性だったら誰でもいいの。でも、ジェイに張り合って優越感を感じたいから……先に婚約者を作りたいから、わたくしと婚約を飲んだだけだって、知ってるんだから!」
フリードリヒは言葉もないようです。
そう、わたくしは分かっていたのです。
フリードリヒが本当に興味を持っているのは、ジェイに対してだけなのです。
わたくしが白詰草の指輪をもらって以降、あからさまにフリードリヒに対して恋情を向けるようになっても、フリードリヒはわたくしと二人きりになろうとはせず、三人で遊ぶ関係を続けていました。
それは、フリードリヒがジェイに、わたくしがジェイよりもフリードリヒを好きだという事実を見せつけたかったから。
婚約してからは、フリードリヒはわたくしと二人きりになろうとはしてきたものの、彼はわたくしに対してはっきりと好意を述べたことがありません。
一般的に女性が好む場所にエスコートして連れて行ってくれましたが、わたくし個人の好みを探ることはしません。
彼はわたくしに注目していないので、わたくしが知らない男性達からの接触に困っていることも知りませんし、目化粧をやめろとは言っていても、その理由を聞いたのは今日が初めて。
出会ってからついぞここまで、フリードリヒはわたくし個人に興味を持ったことはないのです。
――あの、白詰草の指輪をはめてくれた時を除いては。
呆然としているフリードリヒに、わたくしは泣きながら続けます。
「……わたくしは、フリッツが好き。でも、わたくしのことを好きじゃないフリッツには、触られたくない」
そう言って、わたくしは家路に就きました。
もう、わたくし達の仲は最悪です。
それでもわたくしは、フリードリヒがわたくしに興味を持ってくれる日が来ると信じたかったのです。わたくしの大好きな白詰草の指輪をくれた彼が、いつかまたわたくしの方を見てくれる日が来ると……。
そんな中、貴族学園の教室内で、クラスメートの男性陣がフリードリヒに「あんなケバい女が婚約者で大変だなー」とわたくしの悪口を言ったのです。それに対するフリードリヒの返事は、なんとこんなものでした。
「仕方ないさ。あいつが好きで婚約してる訳じゃないしな」
分かってはいました。
フリードリヒはわたくし個人に執着していない。
クラスメートにからかわれたら、恥ずかしさも相まって彼は反射的にこういうことを言ってしまうだろうということだって、わたくしは理解していました。
けれども、今のわたくしは、それを看過することができなかったのです。
「――あら、そうでしたの。初耳ですわね」
後ろから声をかけると、フリードリヒもその友人達も、ギョッとした顔でわたくしを見ました。
教室内で話しているのだから当然、クラスメートのわたくしに聞かれる可能性だってあります。
わざとでないなら、不用心にもほどがありましてよ。
「……言ってなかったかな」
「聞いていませんわ。でもそうですわね、先日の話が当たっていたということかしら」
わたくしの言葉に、フリードリヒがカッとなって言い返してきます。
「あんなの、当たってる訳ないだろう!」
「どうかしら。その割には図星を突かれたように驚いていたようでしたけれど」
「女のくせに生意気だ!」
「あら、わたくしは大人しい女ではありませんわよ。フリッツだって、森を駆け回る向こう見ずででしゃばりな女だって知っていて婚約したんでしょう」
わたくしの言葉に、ついにフリードリヒは、あの言葉を口にしてしまったのです。
「お前との婚約は、俺が望んでした訳じゃない!」
売り言葉に買い言葉とはいえ、この言葉は致命的でした。
――フリードリヒのことが大好きなわたくしに、婚約解消を決意させるくらいには、致命的だったのです。
ジェイはエリーばかり見ている
エリーはフリッツばかり見ている
フリッツはジェイばかり見ている
一方通行です。




