16 フリードリヒとの決裂 前編
わたくしは我慢できなくて、ある日、フリードリヒの家を訪問して尋ねてしまいました。
「フリッツはわたくしのことが嫌いになったの?」
「別に、そんなことないけど」
「わたくしのこと、避けているでしょう」
「避けてるのはエリーの方だろ。学園だとあの変な化粧してるから、恥ずかしくて近寄れないって言ってるのに、俺が言ってもやめないじゃないか」
ぐい、とわたくしを抱き寄せるフリードリヒに、わたくしは慌てます。
フリードリヒとちゃんと話がしたかったので、今日は濃い目化粧をしていないのですが、濃い目化粧をしていない日は、彼のスキンシップも過剰になってしまうのです。
「フリッツ! 待って」
「エリー、なんで逃げる」
「近すぎるからよ」
「婚約者なんだ。これくらいなんてことない」
「そんなこと……」
わたくしは、いつもと違う距離に迫ってくるフリッツに、顔を真っ赤にして俯いてしまいます。
「それとも何。やっぱりあいつがいいの」
「え?」
「俺なんかより、あいつの方がずっと優しいもんな。いつだってエリーは、俺なんかよりあいつに心を開いてる」
「……別にそんなことは」
静かに言葉を返す私に、フリードリヒが自嘲するように笑います。
「誰のこととは言わないのに、すぐジェイのことだって分かるんだな」
嘲る視線に、わたくしはそっと目を閉じます。
「ジェイの方がいいんだろう? 学園での濃い化粧だって、俺がやめろと言っても聞かないけど、あいつが言えばやめるんじゃないか」
「そんなことないわ」
「じゃあなんで学園に行く時だけ化粧が濃くなった。今日は薄化粧なのに……噂どおり、学園で男遊びでもしてるのか」
「おとっ……わ、わたくしにそんなことできると思っているの!?」
「……」
……できるとは思わなかったようです。
気まずそうに目を逸らすフリードリヒに、わたくしも微妙な顔になってしまいます。
「とにかく、男遊びなんてしていませんし、ジェイも関係ありません」
「どうかな。そんなふうに男好みの格好をするくせに、相変わらず俺には指一本触れさせないじゃないか。他に好きな男がいるんだろう」
「違うわ! わたくしは」
「俺はもう諦めたよ。お前の心が俺になくても別にいいさ。立場上、お前は俺のものなんだから。笑えるよな。あいつは何でも持ってるくせに、これだけは手に入らなかった……」
そう言って、フリードリヒはわたくしの顎に手を添えます。近づいてくるフリードリヒに、わたくしは……。
「――いや!」
わたくしは思わず、フリードリヒを押し退けてしまいました。
フリードリヒは目を大きく見開いた後、顔を歪めてわたくしに詰め寄ります。
「なんだ、やっぱりジェイの方が……」
「フリッツのばか!」
わたくしはボロボロ泣きながら、フリードリヒを睨みつけます。
フリードリヒはわたくしが怒ると思わなかったのか、心底驚いた顔をしています。
「フリッツは相変わらず、わたくしのことではなく、ジェイのことばっかり!」
「……え?」
フリードリヒは、わたくしの言葉が理解できないのか、ぽかんとしてしまいました。




