11 二人の決裂を目撃した後 ※ジェイラス第三王子目線
エリザベスとフリードリヒが、よりにもよって貴族学園の教室内、公衆の面前で決裂した。
エリザベスは美人で可愛くて胸が大きくて公爵令嬢で、男が嫌がるタイプの化粧をしているけれども男受けのする大人びた服を着ていて、魔性の女かと思えば話しかけてみると初心で儚くて、いつだって男子生徒の注目を浴びている。
だからその日も、フリードリヒの友人達が「あんなケバい女が婚約者で大変だなー」「いや、魔性の女の方が言い得てるだろ」と、フリードリヒに対してやっかんでいた。
けれども、フリードリヒは鈍くて、やっかまれていることに気がついていないようだ。
いつものとおり、恥ずかしさからそっけない言葉を吐いていた。
そして最悪なことに、それをエリザベスが聞いていた。
あいつらは何をやっているんだ。教室内でそんな話をしていたら、クラスメートのエリザベスが聞いてしまってもおかしくないし、案の定聞かれてしまったではないか。
そして、エリザベスの反応も少しおかしかった。
いつもなら貴族らしく、ちくりと嫌味を言って去るであろうところを、真っ向から言い争っている。どうしたんだろう。
あれよあれよという間に口論が続き、フリードリヒが言ってはいけないことを叫んでしまった。
「お前との婚約は、俺が望んでした訳じゃない!」
(はああああ? 言っていいことと悪いことがあるだろう! 大体、大天使エリーとの婚約を望んでないってどういうことだ!)
しかもフリードリヒは、とうとうエリザベスの見た目を貶すような発言までしていた。
目化粧のことはともかく、僕はエリザベスがフリードリヒの好みに合わせて無理に大人っぽい服装をしていることを知っていたので、正直怒りで振り切れそうだった。
けれども、僕の怒りは長続きはしなかった。
「フリッツの気持ちはよーく分かりましたわ! わたくしだって、最低限の礼儀すらない殿方との婚約なんてごめんです。そんなにわたくしと婚約解消したいというならしてあげましてよ!」
婚約解消。
エリサベスは、婚約解消するのか。
そうか……。
やましい気持ちがむくむくと湧いてくるのを感じる。
いやいや、今はそんな場合じゃない。
エリザベスはきっと傷ついているはずだ。それを慰めるのが先決じゃないか。
キャロラインと共にエリザベスを追いかけると、最初は虚勢を張っていたエリザベスが、最後にはぽろりと涙をこぼした。
「わたくし、振られちゃいました」
そう言って泣いてるエリザベスを見て、僕は思った。
こんな可愛くていじらしいエリザベスを傷つけたフリードリヒは、ギャフンと言わせなければならない。
そして、僕とキャロライン嬢による『エリー改造計画』が実行された。
それによって、当初の目的は一見、成功したように見えている。
何せ、今のエリザベスは学園で注目される『本当は初心な清純系美女』で、フリードリヒは清純美女の魅力を引き出せないばかりか、婚約者の容姿を罵倒して婚約解消した最低男と評価されているのだから。
しかしながら、教室で大げんかを繰り広げて以降、フリードリヒは不思議なほど沈黙していた。
一度、廊下ですれ違った時に、「エリーに謝らないのか」と僕は声をかけた。
けれども、「お前には関係ない」と突っぱねられてしまった。
エリザベスも、フリードリヒの境遇を見て、ざまあみろと思っている節がない。
エリザベスは、公衆の面前で貶められたにも関わらず、フリードリヒのことを悪く思っていないのだ。
どうにも腑に落ちない。
この、胸に引っかかるものは、一体なんなのだろう。
そうしてモヤモヤと悩んでいたある日、僕は見てしまった。
エリザベスとフリードリヒが、裏庭で話し込んでいるところを。
二人とも、穏やかに笑いながら話をしている。
頭が真っ白になった僕が二人を眺めていると、フリードリヒの言葉に反応して、エリザベスが、なんだか恥じらったような顔をした。
僕は、血の気が引くのを感じた。
やっぱり、婚約を解消して1ヶ月以上経った今でも、エリザベスの心はフリードリヒにあるのだ。
僕がしたことは、エリザベスのための復讐なんかじゃない。ただの自己満足で、二人の仲を邪魔しただけの、当て馬で……。
石像のように固まっている僕に、二人は気がついたらしい。
エリザベスが、ぱっと笑顔になって僕を見たようだったけれども、僕はその表情に気がつくこともなく、踵を返してその場を立ち去った。




