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拗らせた二人の異世界生活  作者: くろのあ
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拗らせた貧乏カップル

ミスティアに来て分かった事が色々ある。




言語理解のスキルが役立ったのか辛うじてこの世界については知る事が出来た。




このミスティアという大陸は人間と魔族が争っていて、北半分が人間、南半分が魔族の領土に


なっている。


その中でも人間側の領土は少し前まで小国同士での連合状態だったのだが、最近になって急速に


勢力を伸ばしたバルティア帝国によって統一されたらしい。


ただ身分格差が激しく、人間側の領土を統一したバルティアが最上位、その同盟国、その他の元敵対国の国民の順に区別されている。


特に元敵対国の国民に至っては職業の制限、所得の制限があり、貧しさから奴隷に堕ちる者も


いるほどだ。


現状僕たちは元敵対国領土であり、魔族の領土に近い辺境の町に住んでいる。




そして働かざる者食うべからず、そのことわざの通り、この世界でも収入が無ければ生きていけない。


この町には冒険者ギルドがある。


よく異世界転生物で出てくるアレだ。


魔族領に近いこの地ではモンスターの生息数が多く、バルティアからも討伐が推奨されている為


寂れたこの町で唯一活気のある場所だ。


腕に覚えのある冒険者なら特に身分を気にする事なく就ける職業なので僕たちもそこにお世話になるしかなかったのである。




~そして3か月後~




「はい、今日も下水ネズミの駆除ですね♪いつもありがとうございます♪」


周囲には屈強な冒険者達がたむろしている中、貧相な恰好をした2人組がギルドカウンター


で依頼を受けて立ち去ろうとする。


「ギャーハハハ、また懲りずにやってきたぜ駆除人(スイーパー)!外の魔物を倒す実力もねえからくっさい下水で大した金にもならねー下水ネズミ退治ばっかしてるんだもんな。」


「クセーのが移るから近寄るなよな!」


周りからは嘲笑、軽蔑、色々な黒い視線や声が突き刺さる。


特に冒険者ギルドの一番奥に座している、筋骨隆々の偉丈夫。


冒険者ギルドのリーダー格であるガルバスは僕たちの事を虫でも見るかのような冷ややかな目線で


こちらを見てくる。


体中に生々しく刻まれた傷跡がより歴戦の勇士としての姿を感じさせられる。


でももう痛みは感じない。


もう既に痛みを感じる心さえすり減ってしまった。




希望を持ってこの大地に降り立ったが、現実は残酷でー


外の魔物には歯も立たず、命辛々逃げてくるのでやっとだった。

そんな俺たちが出来る唯一の稼ぐ手段がこの町の下水道に生息している下水ネズミの退治だ。


1日中不衛生で臭い環境で駆除し続けてようやく風呂もないオンボロ宿屋とマズいメシに


ありつける分を稼ぐのが精いっぱいだった。


ネズミばかり狩っててもレベルなんて大して上がるわけもなく、毎日下水ネズミを狩り続ける日々。


そんな俺たちについたアダ名が駆除人(スイーパー)だ。




ーその日の夜ー


ようやく宿屋に一泊する分のお金を稼ぎ、ボロボロの体でフラつきながら2人で宿屋に向かう。


宿屋で出されるメシを食べる時も、お互いに会話もなく、ただただ無言でパサパサの黒パンと

ほとんど塩味しかしないクズ野菜の入ったスープを胃に流し込むだけだった。


それが終わると簡素でボロボロのベッドに倒れ込み、死んだように眠る。


その繰り返しー。


最早お互いに異性としての魅力を感じる事はなくなっていた。


一緒にいないと下水ネズミさえロクに狩れないから一緒にいるだけ。


ただそれだけの関係になっていた。




そんな生活の唯一の楽しみ


それは週1回、湖に水浴びをしに行く事くらいだろうか。


その日も下水の匂いがしみ込んだ体を洗い流せる楽しみに湖へと向かう。


一応町の外だが、魔族も屈強な冒険者のいる町の周辺は警戒してるのか。知能のない低級な


モンスターくらいしか生息しておらず、それもほとんど人を襲う事がない為、安全な場所とされていた。


「じゃあ僕こっちで水浴びてくるわ。」


「ええ、また後で。」


そんな最低限の会話を無気力に交わした後


僕たちはそれぞれ分かれて水浴びに向かう。


ミスティアはこの時期比較的温暖で湿度も高い時期の為、冷たい水が気持ちいい。


水浴びが終わったら、その辺の野生動物を狩って洗った防具を乾かしながらキャンプをする。


憔悴しきった彼女の顔からは、大学時代のクールビューティーの面影もない。


ようやく防具が乾き、そろそろ寝ようかとしたその時ー


生い茂る木々が左右に倒れ、そこに住んでいた鳥たちが一気に飛び去る。


その左右に倒れた木々の間から現れたのは



「オーガロード・・・・!」


ギルドの掲示板で難易度Aランクに分類されている厄災級魔族だ。


上級冒険者が徒党を組んでようやく討伐出来るかの相手だー。


しかもそれが2体・・・・!


思わず僕たちは全身の力が抜け、その場にへたり込む。


【グルルルル、偵察デコンナ辺境ニキタガ、マサカコンナトコロニ人間ガイルトハナ】


そう言い放つともう1匹のオーガロードがニタリと笑う


【見ラレタラニハ生カシテハオケンナ、腹モ減ッタシ食ッチマオウゼ】


【アア、イイナア、マズハウマソウナ女カラダナ】


アーニャの方を見るとその場にへたり込んで、ガタガタと震えて涙目になっている。




このままじゃアーニャが・・・!


だけど、このまま彼女を見捨てて逃げればもしかしたら助かるかもしれないー。


そう心の中の悪魔が囁いたー。


現実的に考えて、奴ら僕らを見逃してくれるとは思えない、かといって戦っても100%勝てない


だろう。


彼女を助けようとしても自分も犠牲になるだけだ、ならせめて自分だけでも・・・。


そう頭では分かっている、分かっているのにー


その刹那、彼女との思い出が走馬灯のように蘇る。


確かにミスティアの地に降り立ってからは彼女に対して特別な感情は何1つ抱かなかった。


たけどー


僕たちは「一番辛い時期」を一緒に過ごし、一緒に現状を変えようと足掻き、一緒に苦楽を共にした


戦友であり、恋人なのである。


ただの恋人という括りでまとめられない絆が僕たちには確かにあった。


呼び覚まされる過去の記憶ー


体中の血液が燃えるように沸騰していくのを感じる。


彼女を・・・、、この命に代えても失うわけには・・・行かないッ!


「愛する人を守って死ぬとか、最高に燃えるシチュエーションじゃねえかよ・・・!」


僕はポツリと呟く。


【アア?ナンカ言ッタカ?アトデ食ッテヤルカラ大人シクシトケ】


力の抜けてへたり込んでいた自分に活を入れ、必死に立ち上がる。


怖い怖い怖い、足がガクガク震える、立つので精いっぱいだ。


まだだ・・・!奴らの注意をこっちに引き付ける方法、考えろ考えろ考えろ・・・!


考えている間にもアーニャの方へオーガロード達がにじり寄っていく。


考えた末に出た言葉はー

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