試練
コウの夢の中のお話です。
ーーフォルトゥナは僕に試練を与える。
ボクを導くためーーボクをより『良く』するために。
母が死んだ日、フォルトゥナは僕の家について来た。
「ただいま……」
ボクはフォルトゥナを家の中に案内した。
「ああ……お帰りなさい。」
居間にいたお父さんはボクたちを見てもなにも言わない。
-あれ?
フォルトゥナを見るといつものようにニコニコしている。
「普通の人には、わたしは見えないのよ。」
「どうして?」
「神さまだからーー」
フォルトゥナは運命の女神さまーーツヤのある金の髪に、整った顔立ち。スタイルのいい身体で真っ白なドレスを着ている。
ーーボクは彼女を疑いもしなかった。
フォルトゥナと母を重ねていたのかもしれない。
ーーボクには女神さまがついてる。だからこの先なにがあってもだいじょうぶーーあの時はそう思っていた。
ーー
「ねぇねぇ、一緒にブロックであそぼ?」
ーー幼稚園で初めて出来た友だちーー智くんは、母の死から立ち直れず暗い顔をしたボクに話しかけてくれた。
ーーそれからボクたちは毎日いっしょに遊んだ。
ーー智くんと遊んでいると、辛いことを忘れられた。
「ちょっとコウくん! それボクのだよ!」
「いたい! センセー、トモくんがたたいた-!」
ケンカもしたけど、すぐに仲直り出来た。
そんなある日ーー幼稚園でのことーー
「あれ? 女神さま! どうしたの?」
ーー智くんと部屋の中で遊んでいると、目の前にフォルトゥナが現れた。
「試練を与えに来たの。だいじょうぶよ、コウ。」
フォルトゥナはボクに優しく微笑む。
ボクにはなにがあるのかさっぱりわからなかった。
そのままトモくんと遊ぶーー
ガシャァン!
トモくんが血だらけになって倒れたーー
「終わったわーーお家で待ってるわ、コウーー」
フォルトゥナは帰って行った。
ーー彼女の試練はボクの周りの人に与えられるーー
それも、回数を重ねるごとに熾烈になっていくーー
小学校の時は半身不随になった子や、植物状態に陥る子も出た。
「ねぇ女神さま! なんでボクの周りの人に試練を与えるの?」
「わたしは運命を司る神よ? 試練を乗り越えた者だけに幸福を与えるの。」
「ーーボクは試練を受けなくていいの?」
「あら、もう受けてるわよ?」
ーー母が死んだことかーーボクの試練は終わった。つまりボクは幸福になれるーー当時はそう解釈していた。
ーーその頃からかーーボクのことを『不幸の子』と大人たちが言い始めたのは。
ボクは一人になった。ボクの近くにいると、フォルトゥナが試練を与えるからーーみんな試練を乗り越えられず、不幸になるからーー
ボクも周りの人も、必要以上に関わることはなくなった。
ーー中学に入ってから、僕が教室で読書をしていると、話しかけてくれる人がいた。
「何の本読んでるの?」
同じクラスの山崎 唯さんだーー
「ハルキ ムラカミの本……」
「やっぱりそうだ! この前後ろからチラッとみたら、なんか読んだことあるなーって思ったんだ!」
まさか、ボクの他にも読書好きがクラスにいるとはーー
「そうなんだ……」
ボクに関わるとフォルトゥナに目をつけられる。
なるべく無愛想に振る舞い、構うなとアピールする。
「わたし、ネジ巻き鳥が好きなんだ! コウくんは?」
ーー僕も読んだことがある! 不思議な世界観だったのを覚えている。あれは面白かったーー
「カフカとか……?」
「あー、あれも面白いよね! まさかハルキストがクラスにいたなんて!! サイコーだわ!」
ーーボクはそれから時間を忘れて唯さんと話をした。
とても楽しく、帰りも途中まで一緒に話ながら帰った。
ーー「お帰りなさい。あらあら? 何かいいことでもあった?」
家に帰るとフォルトゥナが僕のベッドに腰かけていた。
「別にーー」
「ふーん? あっそーー」
しばらくするとフォルトゥナはどこかに行ってしまった。
ーーそれからボクと唯さんは良く二人で話した。好きな本、好きなマンガ、テレビ番組ーー話題は尽きる事がなかった。
「コウくん、今週の土曜日ひま?」
「ーーひまだけど……どうして?」
「ジャーン! 映画のチケット! 二枚貰ったんだ!」
ボクが好きな小説が原作の映画のチケットだーーでも……
「別の人と行きなよ……」
「原作知らない人と行っても盛り上がらないでしょ? つべこべ言わず、行くわよ!」
最近はあまりフォルトゥナがボクの前に現れることはない。ちょっとくらいなら大丈夫だろうーー
ーーボクは唯さんに押されて了承することにした。
土曜日ーー
「あーオモシロかった!」
「うん!原作をよく再現してたね!」
映画は本当に面白かったーー
「ねぇ、このあと行きたい場所あるんだけど……いい?」
ーーボクたちは近くの公園に来た。
今は二人で大きな池を見ている。
「ねぇ、コウくんは好きな人ーーいる?」
「……え?」
隣を見る。唯さんの顔が夕日に照されている。
儚げで生命力に溢れるーー不思議な表情をしていた。
「わたしーーコウくんのこと、好きーー」
不意に唯さんがこちらを向き、ボクの目をまっすぐ見て言った。
ーー時間が止まったように感じたーー
そのまま唯さんがボクの唇にキスした。
ーーそれがボクの最初で最後の恋モノガタリーー
人生で一番心動いた瞬間だったーー
次の月曜日ーー唯さんは教室に来なかったーー
日曜日の夜ーー唯さんの家に強盗が入り、それに気づいた唯さんは殺害された。両親と弟も一緒にーー
「お帰りなさい! コウーー学校は楽しかった?」
家に帰るとフォルトゥナがボクの部屋にいたーー
「お前がーーやったのか?」
「えー? なんのことぉ?」
フォルトゥナが含みを持たせた笑みを浮かべた。
「殺してやる! お前がーーお前がいなければ!!」
ボクはフォルトゥナの首を絞めた。全力でーー殺すつもりでーー
「そんなんじゃわたしは殺せないの、しってるでしょ?」
フォルトゥナは冷めた目でボクを見ているーー
「あの子は試練を乗り越えられなかったのーー仕方ないわーー」
「あれは唯さんの試練じゃないだろ!? ボクの試練だ!! ボクに試練を与えるために、おまえは唯さんを殺したんだ!!」
「なぁんだーーわかってるじゃないーー」
ボクはその場にうずくまって泣いたーー憎しみと罪悪感がごちゃ混ぜになってーー訳がわからない
「それじゃ、わたしはそろそろ行くわーー愛してるわ、コウーー」
そう言ってフォルトゥナはボクのおでこにキスをして去って行ったーー
「うわああああぁぁぁぁぁっ!! 殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!!」
ーーそしてボクは完全に壊れたーー




