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第58話 食べながら話すのは

「ホホホデホフヒホフホヒフウッテナンハホハシラ?」

「食べながら話さないでください」

「すみませんつい……」


 もぐもぐとパイを平らげながら、少し気になっていたことを尋ねることにした。

 それは、彼女が言っていた、ここに来たもう一つの理由はなんなのかしら? ということだ。


「それはですね……少しお待ちを」


 そういって彼女はキョロキョロと周りを見渡した。一体何があるというのだろう。

 私は彼女と同じように周りを見渡して、彼女がそれに気づく寸前にそれに気づいた。そして危うく大口を開いたままフォークを落としそうになった。


「ああ、あれです」


 そこにあったのは……いや、居たのは……


「あそこにいる彼ら、ルイス学院の生徒です。多分ステラ様の同級生の」

「ゴクリ。ふう。って見たらわかりますわよ! どうして彼らがあんなとこにいますの!」

「住んでいるからじゃありませんか?」

「知っとりますわ!」


 思わずどこかの地方の訛りを再現するほどに私は困惑を隠せなかった。

 そこにいたのは紛れもなく同級生、といっても私のクラスの人々ではなく、A組やその他の組の人たちだ。端的に言うならば、私を疎んでいる人たちだ。


 ええっと、名前は流石にわからないなあ。あ、でもあの子は確かメメと一緒にいた男の子、メラクな気がする?


 そちらの方を見ると、どうやらあちらも遊ぶ手を止めてこちらをみているようで……見られたかぁ。


「私のメンツをどうしてくれますのよ!」

「あーもう落ち着いてください。さっきから私は言ってますでしょう? 別にそこまでお嬢様であることにずっとこだわり続ける必要はないって」

「ですが……」

「それに私はここ最近思い出したんです。ステラ様のせいで忘れてしまっていたことを」


 そう言うと彼女は立ち上がり、アグラの方へ向かってまた何か注文して戻ってきた。


「私何かしてしましたか? というかまだ食べますの?」

「いやまあ、別に悪いことはしてないですよ。ちなみに追加で一ホール頼みました」

「食べられませんわよ!」

「でしょうね」

「もう、いったいなんなんですのよ」

「ステラ様のせいで忘れてしまっていたこと。それはですね」


 緊張した空気と、石窯からくる無花果(イチジク)の甘い香りが、あたり一体を支配した。アルカはもったいぶってなかなか話そうとしない。


「もう、忘れていたことってなんですのよ。早く言いなさって」


 無花果(イチジク)の香りは少し離れたところにいる同級生たちの鼻にも留まったのだろうか。彼らも固唾を飲んでこちを見守るものだから、ますます緊張感が増してくる。私がいったいアルカに何を忘れさせたのか。


「それはですね……」

「それは……」

「子どもというものは案外単純だということです」

「なるほ……ってそんなことですの!?」

「ステラ様があまりに賢いから普通に忘れてました」


 驚きの言葉とは裏腹に、その言葉を聞いて私はとりあえず安心した。なんだ、取り越し苦労だったようだ。


「そんなこととはなんですか。いいですか? ステラ様が思うよりよっぽど、子どもたちは分かりやすくて単純なんです、とくに小学校に入ったすぐの年齢なんて。ちょっとの言葉で、誰かを敵にしてしまうし、ちょっと遊んだり良くすれば逆に仲良くなれるんですよ。まあその単純さが悪意を引き起こすこともまた事実ですが」

「そういうものなのですね」


 考え方に関して既に大人の領域のステラという少女、通称私だ。確かに、人の思考で考えてしまっていたのは事実だろう。


「少なくともステラ様より沢山の子どもを見てきた私がいうのだから間違いありません。派閥なんて大人ぶって言ってるけど、結局は単純な関係……楽しい、美味しい、嬉しい、キラキラしている、そんなことで生きているものなのです。なーに大人ぶってるんですか」

「久々にちゃんと毒舌ですわね」


 しかし毒舌のアルカがいうのだから間違いない。少なくとも、私よりも経験のある彼女の本音の言葉なのだから。


「私が毒舌なのすらもステラ様のせいで忘れていましたよ、まったく」

「私が赤ん坊の時からあなた毒舌でしたわよね」


 私としては別に毒舌じゃなくてもいいんですわよ。でも毒舌のないアルカは特殊効果のうちの一つのパリィ耐性を一切持たない聖剣みたいで少し寂しいな。この煩わしい説明、誰が分かるんだよ。


「さて、子どもの生態のことも分かったことですので、これ利用しない手はありませんよね」

「先が読めませんわね。言葉を変えて説明してくださるかしら?」


 私がそういうも、アルカは私の言葉に答えることはせず、立ち上がり売店の方向へ向かった。そして帰ってきた彼女はさらにパイを持っていた。


「何してますのよ。そんなに私は食べませんわよ」

「何って準備に決まっているでしょう? 私がステラ様との話の途中でわざわざ意味もなくパイを買いに行くと思いますか?」


 なるほど、アルカは何かの準備をしているようだ。おそらく同級生らの単純さを利用した何か……


「……ああ、なるほど」


 そして私はようやくアルカの真意に気づいた。



 思わずニヤリと笑みがこぼれてしまう。


「そう、子どもは単純なんです。それも、パイ一切れでこれまでの仲の悪さなんてコロッと忘れて敵味方を変えてしまうほど」


 私の表情を見たアルカもまた悪い顔でニヤリとする。そそくさとパイのホールを切り分けながら。


 それにしても、これまた単純な作戦だ。

 一年生からお嬢様を根回しするなんて回りくどい方法とは真逆、欲求に素直な作戦。大人には通じない。でも多分、子どもには通じる。


「急に近づいて不審がられないかしら?」

「大丈夫ですよ。話くらいは聞いてもらえるはずです」

「つまり、私たちの勝ちね」

「ええ、そういうことです」


 私は座っていた椅子から降りて狙いを定める。


 とくに準備運動も必要ない。強いていうなら、一言目に噛まないため口を動かしておくこと。


「じゃあいってくるわ。行って、言って、そして戻ってくるので。こちらの準備はよろしくね、アルカ」

「行ってらっしゃいませ。ちゃんと人数分以上のパイを確保しておきます」


 そうだな、作戦名くらいはつけておいてもいいだろう。作戦名は……うん、これだ。


『仲が悪ければ一緒にご飯を食べればいいじゃない、作戦』


 うーん、長いけどこれでいいだろう。


 そして作戦名も決めて勢いをつけた私は、一直線に同級生の方向へ大きく舵を切った。


 そういえば、この一歩は私が小学生になって初めて自分から向かっていった、小さくて大きな一歩だった。




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