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第47−3話 忘れられない名前

お読みいただきありがとうございます。


一人称です。久しぶりの一人称なのです。

――――――――


「それじゃ、先に帰りますね」

「今日は楽しかったです。本当にありがとう」

「こちらも、久々に話すとおもしろいもんすね」

「じゃ、またいつかあいましょうねえ」


 あの量をペロリと平らげたユリスは、用事があるのかそそくさと帰っていった。そして残されたのは私、ネールのみ。


 いや私が暇人みたいじゃないですか、困りましたねえ。


 うん、まあ、ええ、ううんと、そうはいうものの、実際暇なので。感嘆符でしばらく尺を稼ぐほどには暇なので。まったくもう、みんなが忙しいこんな時間に暇してんじゃないですよ。


 そうはいうもののそうは問屋は卸さないし、そんな私は私に対する私の苦言に否定ができない。


 というか、なんならもう少し子どもでも眺めていたかったので紅茶を追加で頼むことにした。


 ……ここまで回りくどく言うあたり、自分の暇さに呆れ返ってしまいますね。切り替えていきましょう。


 昔から、こうやってカフェで何も考えずぼうっとするのが好きだった。とくに学園時代はお金がなかったものだから、紅茶一杯で耐久していたような。


「それにしても昔の呼び名ですか」


 私はあの人をなんと呼んでいただろうか。おそらく、ただグラン先輩と呼んでいた。皆と変わらず、特別でない、普通の呼び名として。


 もしあの時に、私が動いていたのなら、その呼び名は変わっていたのかもしれない。


 行儀悪く去っていったユリスの、整えられておらずすっかり空いた席を見る。

 当然、さっきユリスが去っていった席なので、そこには誰もいない。しかし、あの日の行動次第では、そこにグラン先輩がいたのかもしれない。私はグラン先輩と、今みたいに楽しく笑談していたのかもしれない。


 もし、あの時に、私が頑張っていたのなら、グラン先輩はここでご飯を食べていたかもしれないのだ。


 もしあの日、私が一歩踏み出せていたら。もしあの日、あの腕を掴んでいたら。


 もし……もし……。




 ああ、まただ。

 心に暇ができると、ついつい思い出す。どうでもいい言葉で心を埋めないと、何かに没頭していないと、心の隙間に後悔が割り込んでくる。


 どうしても私は、これを後悔せずにはいられない。後悔してもしきれない。


 私の数少ない、そして大きな後悔。


「先輩に告白しておけば、また変わりましたかねえ」


 あの日、私は先輩が好きだったのだ。

 その思いが伝えられぬまま、どこかに行ってしまったのだけれど。


「……また会いたいです、先輩」


 私はまだ、信じている。


 例え論理が破綻しようとも。例え神が見放そうとも。



 私は信じる。ありもしないその可能性に縋り続ける。



 どんな姿であれ、先輩はまだ生きているって。


お読みいただきありがとうございます。

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