第47−2話 あだ名は忘れて
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サボり魔ユリス。
それは、勇者ユリスのあだ名のひとつ。
こんなあだ名がついた理由は単純で、サボりの常習犯であったからだ。
ユリスが学園にいた頃、単純にいうと彼は周りを馬鹿にしていた。所詮はみんな雑魚だとそう思っていた。だから、ことあるごとに授業、演習をサボり続けた。
「にしても懐かしいですねえ」
しかし、ある事件を機に彼は少し改めることになる。
それは通称、知る人間の中では揶揄を込めて『サボり魔ボッコボコ事件』と呼ばれている。
「あなた、あの事件がなければ今頃こんな場所にいませんもの」
この事件に関わる人間は多くないが、特筆すべき点としては深く関わっている人間の一人としてグランがいることだろう。
「一応あの人には感謝していますよ」
「顔をひきつらせながら感謝する人間がいるんですねえ」
「お願いだから思い出させないでください……」
グランが何をしたかは言葉にし難いが、要はグランが関わって、ユリスがボコボコになったという事件である。
そして事件以降の彼は少しだけ行動を改めることになる。
まじめに受けるかはともかく授業には出るようになり、実習も受けるようになったのだ。まともに行動さえすれば彼の成績は上位であったため、次第に彼は同期や何も知らない後輩から一目置かれる存在になり、サボりの印象は薄れていった。
「あの事件以降、あなたのサボり癖を指摘する人は少ないのでしょうねえ」
「はい。だからもうすっかり忘れていました。そんなあだ名」
優秀な彼をみてサボり魔だという人間はそういない。そんなあだ名を言う人間はそうそういない。
「まさか、あなたを今でもそう呼ぶ人がいるとはねえ」
そう、このあだ名で呼ばれていた時期はそんなに長くないのである。このあだ名を知っているのはせいぜい学園か勇者かの関係者のみで、その中でもユリスよりも年老いた勇者陣のみなのである。
それを、ただの幼女がどうして知っていたのか。それがユリスにとって違和感なのであった。
「まあ、おそらくどこからか外に漏れていたのでしょう。にしても昔のあだ名は流石に堪えましたよ」
「いいじゃありませんですか。実際、今だっておさぼりさんでしょう?」
「ほんとやめてください」
ネールはからかいつつも、その原因について自分なりに考察を立てた。といっても、その幼女は何かしらこちら側の人間の関係者という当たり前の結論しか思い浮かばないのだが。
おそらく親戚か何かで、ユリスの名前をあらかじめ知っていたのだろう。そうでない理由はとても考えられない。
しかし、それは彼女にとって好都合であった。
なぜなら、そんな人間ならばいずれ会う気がしてならないからだ。
いずれ会うその日には、何を話そうか。魔法の素晴らしさを話そうか。ユリスの恥ずかしい話を話そうか。
ネールは期待を胸にしまい込み、そして運命を信じることにした。
さあ、いずれ会えるその日を楽しみにしておこう。
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