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かつて最強と呼ばれた男は前世の知識と共にTSお嬢様を満喫するようで  作者: 赤木林檎
第1章 幼児編

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第6話 暇を持て余した幼女は外に行きたい

お読みいただきありがとうございます。


 私が生まれてから三年と少しが経った。最近は何をしているかというと、特に何もしていない。強いていうなら、神様と毎日とある勝負をしている。


『今日も私の勝ちね。君さ、相変わらず弱いよね』


 宝石を持つと聞こえる神様の声。

 二歳ごろから、駄々をこねて宝石をペンダントにして持つことを許された。神様がお住み付き(・・・・・)のこの宝石を持っていると、神様と会話できるのだ。まぁ、別に会話したところで特に進展もなく、なんの恩地も得られないのだが。


 とりあえず暇なので、こうやってしょうもない勝負をしているのであった。


「うるさいです。流石に今のは反則です」


 勝負名は「お嬢様の言動ちゃんとできているかチェックゲーム」だ。ルールはタイトル通り。私が一日中心身ともにお嬢様を勤めたら私の勝ち、それ以外は私の負け。


 もちろん今日も負けた。およそ百連敗中である。百連敗もしてくると悔しさは微塵もないが、神様の鬱陶しさ、嫌らしさは日に日に増しているのであった。


『それって、君が勝手にイラついているだけだろ? 神様、なーんもわるくなーいープップー』

「そういうとこだぞ」


 うん、やっぱりこいつ切れ味上がってるわ。さて、この宝石を壊す方法はっと。


『は、話は変わるけど暇だね』

「壊されたくないから唐突に話題を変えましたわね……まぁ暇ですが」


 もちろん、何も存在しない故の暇ではない。むしろ、お人形セットを貰ったり、アルカがいつでも一緒に遊べるように待機してくれたり、と、環境としては至れり尽くせりなのだ。


 ただ、如何せん幼女という生き方はつまらない。これに尽きた。


 そのため最近は、日中は窓の外を眺めている、という日々が続いていた。


「お嬢様、お暇ではありませんか?」


 そうしていると、いつも通り、アルカが声をかけてくれた。

 彼女は私のことをいつも細かく気にかけてくれる優しいメイドだ。それも、ちょっと困ってしまうほど。


「うーん、ひまです」


 ただし、今はアルカに声をかけられたところで、つまらない気持ちが晴れるわけではない。


「では、お人形遊びは――」

「いらなーい」

「では、カード遊び――」

「いらなーい」

「お絵か――」

「いらなーい」


 なにせ、三歳の遊びが面白くないことに変わりはないのだから。


「……相変わらず難しいですね」


 そういうわけで、アルカの遊びは全て拒絶し、結果として私はアルカをかなり困らせていたのであった。


「なるほど……ステラ様にもイヤイヤ期が来たのですね。二歳ごろに来なくて心配でしたが、やっぱりどの子どもにもあるんですね」

「きっと、そう! これはイヤイヤ期!」

『多分違うと思うよ』


――――――――


『窓の外見て何かあるの?』


 しばらく窓の外を眺めていると、脈絡もなく突然神様が声をかけてきた。さては神様、めっちゃ暇だな?


 たしかに、窓の外を見ても雲の形の変化を眺めることしかできない。ただ、私が楽しんでいるのは、実は景色ではない。


「よく耳を澄ませてください」


 少し遠くから聞こえるのは、一人の男の子の声だった。それに交じって時折大人の男性の声も聞こえていた。


『これってもしかして、メリダ家のところから?』

「場所から考えるとおそらくそうかと。多分、私くらいの年齢の子どもがいるんだと思います」


 メリダ家はかつての俺の家である。ラメル家のすぐ隣にあって、ここの家は昔から仲の良いご近所さん、という立ち位置だ。かつての俺にもラメル家に幼馴染がいたものである。


「わー、まてー!!」

『あ、確かに聞こえるね。子どもの声が』


 今も耳をすませば、そういった声が聞こえてくるのだ。おそらく、メリダ家の子どもの声だろう。


「ところでステラ様、最近は毎日お外を見ていらっしゃるようですね」


 私が神様と話すために窓際にずっと立っていると、それを疑問に思ったアルカが伺ってきた。そうだ、彼女ならこの声について何か知っているかもしれない。そう思って彼女に聞いてみた。


「なるほど。おそらくそれはノルン様のお声ですね。えっと、ノルン様というのは、メリダ家の子どもで、ステラ様の一つ年上のお兄様です」

「おー、おにいさま!」


 なるほど、お兄様か。じゃあもし俺が生きていたら、甥とか姪とかに当たるわけだな。何その複雑な関係。


 そんなことを考えながら振り返ると、ふとアルカと目が合った。アルカは少し私を見てから突然切り出した。


「ところでステラ様、もしかしてなんですが……お外行きたいとか思っていません?」

「ぎくっ」


 図星だった。

 実際、外で遊びたい気持ちは少しあったのだ。生まれてからずっと家の中というのは、流石に暇すぎだ。


 しかし私には、彼女にそのことを頼みにくい事情があったのだった。


――――――――


 私がお昼寝を終えてベッドから起きあがろうとしていた時だった。


 私は、アルカとお母様の会話を聞いてしまった。


「ステラお嬢様をお外で遊ばせてはいかがでしょうか」

「いけませんわ。お外で太陽光を直接浴びたらせっかくのお顔が台無しになりますもの。それに、外で遊んで怪我でもされたらどうするんですか」

「しかし、お嬢様はお部屋遊びに大変飽きておられます。いつも外を眺めて、たまに一人で呟いたり、地団駄を踏んだりしています。やはり外に遊びに行かせるべきです」

「いいえ、なりません。お嬢様になんと言われようと、絶対に外に出さないように。あと、できるだけ、窓からの直射日光にも浴びせないようにしてくださいます?」

「はい。かしこまりました」


――――――――


 そう、私の母親は、私が外で遊ぶのを断固拒否していたのだ。


 もし私が外で遊んだ場合、アルカが後でこっぴどく怒られるだろう。その姿が容易に目に浮かんでしまい、どうしてもそれは頼めなかったのだ。


「おそと、べつにいいかなー。おひさま、こわい」

「……ステラ様、一応聞いておきますけど、お母様と私のお話聞いていたりしませんよね」

「!?」


 ……はぁ。これだからアルカは困る。

 私のことを気にするあまり、私に対してすごく鋭い。さっきだって、今だって。


「やっぱりそうですか。困った子どもですね」


 アルカはため息をつきながら私に近づいてきた。


 そして、私の頭に手を伸ばし――


「いい子ですね」


 そして、私の頭を撫でながら話を続けた。


「ステラ様。あなたが真面目な子でいるのは良いことです」


 そう、彼女は本当に優しかった。

 ちょっとダメなことでも、ついつい甘えてしまいたくなるほどに。だから私は、ほとほと困るのだ。


「でも、だからといって、あなたがわざわざあなた自身の思いを変えてしまう必要はないのですよ」


 隠した心だってすぐにお見通し。ほんと、困ることばっかりだ。


「それで、本当はお外に行きたいんですよね?」

「……いきたい」


 だから私は、彼女の前では、素直にならざるを得なかった。


 私の言葉を聞いたアルカは、少し間を置いてから、再度私の頭を撫でてくれた。


「素直なステラ様もとてもいい子ですね」


 頭を撫でられるのは、何度だって悪い気はしなかった。


――――――――


 少しして、彼女はすっと立ちあがった。


「いいですよ」

「ほんと? おこられない?」

「大丈夫です、ばれなければ」

「それ、ほんとうに、だいじょうぶ?」

「……まぁ、最近極秘ルートから入手した日焼け防止用の化粧水を体に塗れば、少しの間は大丈夫でしょう。あれ? あれって幼児に塗っても大丈夫なやつでしょうかね……後で確認するとして……あとは、日傘を持って行きましょう」

「なんかわからないけどすごそう」


 結局、私はアルカの優しさに破れ、外に出してもらえることになった。


「あ、そうだ。くれぐれも、地面に座ったり寝転んだり、ましてや転げたりしちゃだめですよ」

「もちろん、わきまえた」

「多分、心得た、ですね」


 よし。せっかくなので、メリダ家のお兄ちゃんとやらの顔を拝みに行こう。




お読みいただきありがとうございます。


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