第38−2話 大丈夫、だって私は
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「さあ、ドラゴン? ちょっとお話ししましょうか。私を見てくださいませ」
『グガガ』
「こっちを見なさいこのデカブツ」
『ガウ……ガアア!』
先ほどから色々と考えたその結果、まずは挑発することにした。
『え、正気?』「バ……バカにしないでくださいませ」
確かに愚行ではあるが、考えなしではない。隙を作るために仕方なく挑発しているのだ。
その目的は、主にドラゴンの目線をこちらに向けさせるため。
ドラゴンはその大きな目で私の動きを事細かに見ていた。私がどう動くかを確認するためだろう。何を隠し持っているのか、どんな行動に出るのか、それを確認して対応するためだろう。
私もドラゴンをしっかりと見つめ返した。当然だが、ここで引いたら挑発の意味がない。この状況下でも私がまったく怯えないという姿勢を見せることで、牽制状態に持ちこむ必要があるのだ。むしろここで目を離したら襲われる。下手な動きをすれば殺される。決して手の内は晒すな。何もない幼い子どもの手の内に、剣があるように思わせろ。
ドラゴンは目を凝らして私を見ていた。
状況は悪くない。ドラゴンに注意深く見つめられるという最恐の状況は、しかし最適な状況なのだ。
さあ、みろ。
集中してみろ、私から目を逸らすな。
そう。
そう、そうだ。
じっと、じいっと。
私をじいっと、見るんだ。
ここだ!!
その瞬間、あたりが眩い光に包まれた。
光らせたのはもちろん私で、発光源ももちろん私だ。そのカラクリは閃光魔法である。魔術にも満たない単純なもの。
これはただ光らせるだけの魔法だ。子どもでも使える簡単な魔法で、基本的に暗いところを照らすために用いる。その効果から分かる通り、自他ともにまったく害がない。当然、太陽の下での戦闘においては何の役にも立たない。
ただ、ある一つの例外において副次的な効果を生み出す。それは光を直視してしまった場合である。
そう、まさしく今のように。
光は一面を焦がす勢いで広がって、私を直視していたドラゴンは目を瞑った。そして、その巨体は少し後ろに後ずさる。
この魔法はその特性から、直視したものは思わずスタン状態になるのだ。ドラゴンであってもそれは例外でなく、ドラゴンが勢いを失ったこの一瞬なら近づける。
しかしこのスタンはそう長くない。これはあくまで副次的なものであり、その持続時間自体はほんの一瞬に過ぎない。さらに、おそらくこの後ドラゴンは暴れ出すだろう。先ほどまでの牽制しあう時間は終わって、ここからは戦い、もとい力比べの始まりなのだ。
当然、その戦いには勝てるはずもない。だからタイミングはドラゴンが身をひいたこの一瞬しかない。
『死んでも知らんからね』
「安心くださいま……せ!」
足に強化魔法を準備し、自らの言葉を合図に力を込めて地面を蹴り飛ばす。すでに常人離れしたこのスピードに対して、風をおこすことでさらに早める。同時に風の操作で全身の抵抗を減らして減速を抑えることもお忘れなく。
目まぐるしい速さで加速するため、その動きを考えている余裕はない。ただ、こういう日のために何度もやった動きだ、考える必要はない。
最適化されたその動きは音すら出さず、足を地面につけることもなく。
そして私は、ドラゴンに引き寄せられるが如く進んだ。
気がつけばドラゴンとの距離はもうなくなった。私の目の前にはドラゴンの大きな体がある。
もし今ドラゴンが少しでも暴れようものなら私の体は八つ裂きだろう。神様のいう通り、こんな死にたがるような作戦をするのはよっぽどの愚か者だ。
でも、大丈夫。私は大丈夫だ。
なぜなら、この程度の死線、幾度となく超えてきたのだから。
私は、現在五歳にして、ほんの少し魔法を使い、ちょっぴり体を強化して、時に風変わりな本を読む。
そんな、少しやんちゃなお嬢様である。
そして――
「私はかつて最強と呼ばれた男ですわよ」
かつての俺は、最強と呼ばれていた勇者だ。
「とどけ!」
短い腕を伸ばし、右手に持った宝石をドラゴンに向けて、もうひとっとび。
ドラゴンは、ようやく目を開けて私の動きに気づく。そして体を動かそうとして……
ペタリ、と触れた。
宝石が、ドラゴンに。
成功したのである。
悪運か幸運か、はたまた当然か。ドラゴンは、私がその硬い体に触れるまで暴れることはなかった。
私は勢いよくドラゴンに触れた。それによって私たちは神様の部屋へ意識を飛ばした。
お読みいただきありがとうございます。
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ちなみに何だか最終回ムードぶちかましていますが、ただの一章完です。
一章完したら一月ほど間を開ける可能性こそありますが、しばらく物語自体は続けます。




