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かつて最強と呼ばれた男は前世の知識と共にTSお嬢様を満喫するようで  作者: 赤木林檎
第1章 幼児編

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第28−1話 宙にぶん投げられ

お読みいただきありがとうございます。

 勇者ユリス。

 人間の最高峰、人類の最後の砦と言われる勇者の一人。その特徴は空間操作魔術。

 最強家系に生まれた最強性能を持つ男だ。そうしてついたあだ名はサボり魔ユリス……かわいそ。


 いや、こいつが悪い。サボるのだ。国家連合レベルの命令であろうとサボるのだ。もっとかっこいい二つ名をつけてあげたいけれど、サボるから仕方がないのだ。現にこうして木の上でサボっていた。


 そして先ほど、音も前動作もなく裏を取られたのはおそらく空間操作魔術を使ったからだろう。まったくもって理不尽な魔術だ。


「子どものふりなんかしてんじゃねぇ。さっさと正体を見せろ」

「私の名前はステラよ。何者かと問われますと、ただの四歳児ですわ」


 こいつは、言葉は悪いが悪いやつじゃない。礼儀はないが無礼な人間でもない。弱い人間に理不尽にキレ散らかすほど弱い人間でもない。だから私は堂々と話すことにした。


「じゃあなんだ、ただの四歳児が魔力を追ってきたっていうのかよ」

「どうしてただの四歳児にそんな警戒しているのですか、私はここを通りがかっただけですわ」

「……マジかよ」

「マジですわ」


 ユリスは私の前に立ち、私に疑いの眼差しを向ける。モノの見方にもよるが私の視点ではただの四歳児であることは事実なので、私はこれっぽっちも嘘をついていない。なのでユリスの眼差しに正面から向き合うことにした。


 数秒間向き合った後、それでも変装を疑いきれないユリスは私の頭をポンポンし、肩を触って顔を触って……


「ってやめなさいな、まったく。噂に聞く通りデリカシーのない男ですこと」

「…………マジでマジかよ?」

「ええ、マジマジですわ」


 またしばらく向き合う。確かユリスは精神干渉を使えなかったはず。だからしらばっくれれば大丈夫のはずだ。


「まあ、そういうことにしておいてやる」


 しばし向き合った後、ようやく、そして渋々、納得してくれたようだ。変に疑われても面倒なので、ここで退いてもらえるのはありがたい。まあもしかすると、魔力感知で魔法を使えることはバレているのかもしれないが、めんどくさがりのユリスだからそんなことはしていないはず。


「まあじゃあ、とりあえず手を貸せ」


 納得したユリスは、続いてあたりをキョロキョロしながらそう言った。


「……??」


 手を差し伸べられて、握手のようなポーズをされる。まるで頼りにされているかのような口調だが、私には何にもできませんわよ。


「物理的に手を差し出せや! ほらはやく」

「あら、そういうこと。はいはいなんですの」


 本当に急にどうしたのだろうか。よく分からないけれど、ひとまずはユリスのいう通りに手を出す。


「とりあえず俺の暇つぶし相手にでもなれ『ほい』」


 手を握られた次の瞬間、宙にぶん投げられた。


――――――――


「『木の葉隠れ(クリーピング)』さて、準備完了」


 同じく木の上にやってきたユリスは隠密魔法をかける。同じく、と言うのは何かというと、もちろん私と同じく、と言う訳でありまして。


「ガキがよ、迷子か?」

「ええ、そんなところですわ。ところで私のこと、木の上に飛ばす必要はありまして?」


 そう、私は今、木の上にいた。

 ふと気がつたとき、私は木の上にいたのだ。投げられたと思った次の瞬間にそんなところにいるなんて、正気の沙汰ではない。正直少しクラクラする。車酔いに近いものを感じる。


「さっきから俺は探されてんの。だからここで隠れているってわけ。お前も知っているだろ」

「それと私と関係が?」

「だって暇だろ」

「はあ……」


 暇なのか、じゃあ仕方ないなー。……仕方なくねぇよ。


 しかし私も暇なので仕方なく仕方ないことにしてあげよう。


「もしかしてあなたも迷子ですの?」

「んな訳ねえだろ、子どもと一緒にすんな」

「むう」


 なんだこいつ、子どもっぽいこと言いやがって、と思いつつも、子どもがこれを言っても効力がまるでないので、この言葉は胸にしまっておく。


「というか、もう少し驚けよ。投げられたこととか、木の上にいることとか。なんで普通に会話が成立すんだよ」

「驚かした本人が言うセリフですか? 随分と都合がよろしいですね」

「うっせえ落とすぞ」

「それはちょっとかんべんくださいませ」


 あれ、おかしい。お嬢様っぽくお上品に言っているのに、相手側が全然オブラートではないというか、優しくない。お嬢様がお上品にしていると全体的に場が和むというアルカの教えは嘘だったのか。うん、どう考えても嘘じゃん、むしろストレスだよそれ。


「どうして冷静かと言われましても、私これでも相当テンパってましてよ? ただ人間って情報が多くなりすぎると思考が停止するって知っていまして?」

「そういう時、子どもって普通泣くよな?」

「泣いたほうがいいのなら泣きますが」

「やめろうるさい」


 冷静になるために一度ここまでの動きを整理する。

 先ほど私はぶん投げられた。ただ、正確にはほんの少し、私の身長ほど投げられただけで、木の上に届くほどではない。じゃあなぜ私は木の上に?

 それは彼の固有魔法を考えるとその答えは自ずと見えてくる。


「なるほど、さっきのが空間操作魔法ですのね」


 あれは彼の固有魔術、空間操作に関係している。実際、視界が一瞬にして変わり、気がつけば地面が遠くなっていたのだ。

 まったく訳のわからないものを見せられた。


「そ、空間操作魔術の一つ、余分な余白(デリトスパッソ)、お前と木の上までの間にある空間を一時的に取り除き、疑似的に瞬間移動をしたってわけだ」

「なるほど、よくわかりませんわね」

「つまり雲隠れに便利な魔法の一つだな」

「それも良くわかりませんわね」


 未だかつて、彼の先祖においてこの魔法をそんなチンケなことに使っている人間はいるのだろうか。先祖が泣いているぞ。


「しかし、この魔法、聞いたことはありましたが、実際にやってみるとなかなか怖いですわね」


 見える世界が急に変わる。案外これは恐ろしいものだ。脳がバグってしまいそうである。


「昔から操っていると勝手に慣れるもんよ。今ならこれで空中浮遊も楽しめるぜ、やっていくか?」

「酔いそうなのでやめておきますわ」

「そっちかよ……」


 いや車酔いは死活問題ですわよ!


――――――――

お読みいただきありがとうございます。

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