第2話 生まれたばかりのお嬢様は苦悩したり寝たりする
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生まれてからしばらく過ぎた。
赤ちゃんというのはもう退屈で仕方がなかった。
言葉を知っているのに口の筋肉が発達しているわけでもないし、うまく話せずに母音だけを仕方なく叫ぶ日々が続いた。昔の体のように体を動かそうと試みると、頭がうまく体に付いていかずに転倒する、そんな始末。
それはそれで赤ちゃんらしくて微笑ましいのだが、それは周りから見た話。
この世に自分を俯瞰してみることのできる赤ちゃんが一人でもいるのなら、是非自分の姿をみてほしい。ひどく滑稽であろう。
そういうわけで、俺は赤ちゃんらしく大泣きすることとした。
「またステラが泣いているわ。アルカ、何とかしなさい」
「大丈夫ですよ。彼女、このままにしておくと勝手に寝るので」
さて、泣きながら心の中で語るというのは本当に滑稽だが、とりあえず赤ちゃんというものは涙が出るものなので勘弁してほしい。
俺の名前はステラ。母親、ウィリアのもと、名家ラメル家の末っ子として今は生きている。
兄弟は姉と兄がいる。まあどちらもみたことがないんだけど。
姉は今は遠くの学校で寮暮らしをしているそうだ。兄も兄でなんかしているらしいけど、そこまでの記憶力を赤ちゃんに期待するな。
俺を抱き抱えているのはメイドの一人、アルカ。
家事も育児も高速で正確、一度ベッドメイクをさせれば、ものの見事な速度でフカフカのベッドが出来上がるので、お気に入りのメイドであった。ただし彼女の問題が一つ。
「そうですね、また泣いてますね。まあすぐ寝るからこのまま適当にあやしておきますね」
毒舌である。赤ちゃんだからって分からないと思うなよ!
さて、突然だが赤ちゃんとして重要な問題はいくつかある。泣く泣く涙が出てしまう、というのもその一つだが、もうひとつ、火急の問題がある。
それは……眠い。
体は赤ちゃんだが、通常の赤ちゃんより常に頭がフル回転しており、もちろん体が追いつくはずもないので結果として――えっと、なんだったっけ。そうそう、結果として、過度に体に負担がかかっているわけで――ん、眠い――しかも泣いて疲れたし、いやそれは俺が悪いのだが――――しかしこの世界にも問題があって――――しかもしか――
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その後のことはよく覚えていない。まあ寝たしね。
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生まれてから一年が過ぎた、らしい。
正確な日数はわからない。いつも寝ているせいで、日にち間隔はとっくの昔に潰えた。年がら年中夢の中。
ならばどうして大体一年だと分かったかというと、一歳の誕生日として小さな宝石をプレゼントしてもらったからだ。
「ステラへのプレゼントよ。メリダさんのところからいただいたの。あなたの名前から星のように綺麗な宝石をいただいたのよ! 素敵ね」
「きれいー!」
一歳となると言葉も割とスムーズに話せるようになってきた。しかしまだまだ流暢に話せるわけでもなく、話すのに体力を使うことには変わりはない。
だから、一周回って一歳らしい話し方になっていた。
「でしょう? 持ってみてもいいわよ!」
そう言って母は私の前で宝石を見せてくれた。なのでその宝石を持ってみようとするも、メイドのアルカに抱えられて体が急に宙に浮き、その手は届かなかった。むー。
「ウィリア様、言ってるでしょう。赤ちゃんに宝石なんて渡すと飲み込んでしまうから危ないですって」
「むー、どケチ、ちんちくりん」
「こら、お嬢様、口が悪いですよ」
口が悪いのはお前もだろ。
「そうよ、ステラ。ちゃんと女の子らしくしなさい。でも最近の教育教材はあまり言葉遣いがよろしくないのね。アルカ、教材を変えておいてちょうだい」
「直ぐにミラに手配させます。ひとまず宝石は上の方に置いておきますね」
「そうして」
ミラというのはメイドの一人で、教育の担当として任されている。
俺はそんなミラが選んだ教育教材を毎日聞かされている。もちろん、前世の知識があるため暇で仕方がない。
そこで私は、この時間を勇者時代のリハビリに使おうと思いついた。
この時間はちょうど母が用事で出かけ、メイドたちは家事で忙しい。だから、多少幼児から並外れたことをしていても、うまく視線をかいくぐれることができる。
とはいうものの、今のところ進捗はない。ひとまず体力には依存するが体格にはあまり依存しない魔法から思い出していこうと考えたわけだが、あまりうまくいっていないのだ。
当然ながら知識はある。ただ、反射的に行なっていた魔法は一切使えなかったのだ。残念ながら一筋縄ではいかないらしい。
仕方がないので魔法の基礎、魔力の操作から真面目にやることにした。
魔力とは、たしか学術的には、正確には世界を構成する元の元、まだ世界に形を成していない何かしらのエネルギーだ。
人間はそれを体に取り込み、思いこみによって強制的に形あるものへと変換する。これがいわゆる魔法だ。
そして最近、私はついに安定して魔力を体に取り込むことが可能となってきた、気がする。だからそろそろ魔法の実戦と行きたいところだが、なにか目下の目標は……
「お嬢様、棚の上に宝石はおいておきますが、間違っても登って取ろうとしないでくださいね」
「……わかた!!」
わかったぞ! やるべきことが。そういえばいい目標があったじゃないか。
「うーん、本当にわかっているのでしょうか……」
「わかってる! のぼらない!」
というわけで、暫定の目標を「魔法で宝石を取る」ということに決めた。
さあ、どうやって取ってやろうか。
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