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第15話 顔と思考は一致しないことがままある

お読みいただきありがとうございます。

 カルトラはいつものようにやってきて、私たちの前にあるものを見せてくる。それはとある紙袋。ここからでもわかるとても甘い香り。


 とっても危険な取引……とかそんなわけではなく。いつも通りただの美味しくて即刻食べたいお菓子である。はよう食べたい。


「素敵なお嬢様方、今日はアルトンの街で買ってきたプリンを持って参りました」

「持ってくるものといい、言葉選びといい、今日もなかなかセンスありますわね」

「お嬢様に褒められて光栄に思います」


 美味しいお菓子でティータイムをするという至福からは逃れられないのが我々淑女というもので。


 ……うーん、私は淑女というよりガールだし、ミラはそもそも何歳なのかしら。アルカよりは老けている気がする。聞くのは流石にマナー違反。


 カルトラは毎度お菓子を持ってきてくれる。持ってくるお菓子は有名なものから無名なもの、焼き菓子や生菓子など千差万別ではあるが、そのどれも非常に美味しい。一体どこからこんな美味しい情報を仕入れているのか知りたいものである。こうやって美味しいお菓子を毎回持ってこられると、少々礼儀が悪くてもついつい許してしまわなくもない。


 私としては自分(グラン)の話を聞かされるのにも飽き飽きしていたし、ミラとしても話を聞かないステラにイライラしていたことであろう。そのため、本日のお勉強はひとまずここまでにすることにお互い異論はなく、ささっと場所を変えてティータイムの準備が進められた。

 まあ、ティーが準備されてはいるが、私はティーせずオレンジジュース。

 子どもの舌の私としては、紅茶はそこまで好きじゃない。


「今日はアルカちゃんいないんですね」

「ええ、本日は野暮用のそうなので」

「おお、なかなか暇そうで」

「あなたには言われたくありませんこと」

「「おほほほほー」」


 毒こそあれどつまみにはならない、そんな苦いお話はささっと無視して私は甘いプリンをいただきます。うーん、うまい。


「あ、そうそうステラ様、今日も色々面白い話を持ってきたよ。何から聞きたい?」


 自分のスプーンをクルクルと回しながらカルトラは私に話しかけてきた。毎回自分の分のお菓子も用意しているあたり計算高いというか、ここで一緒に召し上がる気まんまんと言うか、がめついというか、うん、がめついだな。


 自分からティータイムに誘うだけあってか、カルトラは色々と話題をもち揃えている。ただ、どうやらカルトラの話には私のティータイムを華やかにできる話のレパートリーが少ないらしい。こいつに自由に話をさせると王朝のゴシップ話とか、有名人が国外追放された話とか、そんな話ばっかりになってしまうのだ。そして、そういう話がおそらく好きであろうミラは、怪訝な顔をしながらも興味深そうに聞くのである。

 もっと、近所の猫が増えたとか、せめてご主人様が可愛らしいとか、そういうちょっと微笑ましい感じの話はないのであろうか。


「そうですね、ノルン様のお話とか聞きたいですわね」

「おお、ステラ様、ノルン様にご興味を持ってくれてるの? いいねえ」

「いえ全く微塵もこれっぽっちも興味はありませんわ。誰があんな何一つ守れなさそうな弱っちい子どもに興味があるものでしょうか」

「こら、ステラ様」


 険しい表情でミラに怒られてしまった。まあ致し方ない。

 ミラはアルカより少々厳しいのだ。といっても、アルカは優しいというより最近私の不躾さを諦めつつある。いや、アルカさんもうちょっと頑張って?


「本当にすみません、うちのステラが失礼なことをいうもので」

「いえいえ、まあ子どものいうことですし」

「むう」


 ゴシップ話よりかは面白いからですわ、といいたいが、すごく言い訳に聞こえてしまうので、仕方なく手を引いた。

 子ども扱いされて若干ムッとくるが、悲しきかな私はこう見えて(どうみても)子どもなのである。仕草とかそういうことはここ四年間でだいぶ手慣れてきた。まあ、四歳になったあたりからもうそれも煩わしいので普通に喋るようにしているのだけどね。

 そうはいっても、精神は大人のせいか、ついつい子どものことを子どもといってしまう。子どもが子どもに子どもとか言ってんなし、と子ども見たいな格好をした神様に言われて何がなんだかよく分からなくなるのである。今の間に子どもって何回言ったっけ?


「まあ、僕から見てもノルン様がまだまだ頼りないことは事実ですしね。そうそう、最近は日々僕の手で鍛えておりますよ」

「あら、あんな可愛かったノルン様も逞しく成長されているのですね。喜ばしい限りです」


 ミラはそう言って微笑んだ。なるほど、これが社交性というものか。お嬢様として私もこれからつけていこう。


「まだまだ戦力にはなりませんけどね。まあでも、半年ほど前から訓練を始めたんですけど、すぐに転んでいた以前とは結構違いましてね」

「あら、それは良いことです。たくましい男になるのはとってもいいことだと思いますわ」


 ものはためし、ミラの真似をしてノルンを褒めるお嬢様を実践する。うん、社交性。身についている気がする!お嬢様できている気がする!


「本当にステラちゃんと一緒にこけていた頃が懐かしいですよ」


 そう喜んでいたのはほんの数秒前までの話。


 その話はまだミラにはしていないわけで。アルカと墓場に持っていこうと約束した話なわけで。こっそり家を出て人の庭でずっこけてお洋服をダメにした話はミラにすらしていないわけで。

 私はすっかり顔を引きつらせ、まるで壊れたからくり人形のようにカクカクと首を傾けていき、ミラのほうをむいた。そして、彼女の表情を伺う。ああ、なるほどなるほど。


「……あらステラ様、そんな話、微塵も聞いたことがありませんわね。その話を詳しく教えていただきたいのですがいかがでしょうか?」

「……ええっと、なんの話か、さっぱり、ですわね」


 ミラはすごく笑っていた。あれ、多分激おこですわ。




お読みいただきありがとうございます。

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