第83.5-2話 あなたもできないことがありますのね
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「あら、ステラさん。どうかいたしまして?」
「はぁ、はぁ。ローズマリーさん、その包丁の持ち方はマジで危ないですわよ」
どうして。どうして。私は彼女に指図されなければならないの。
「それくらいわかっていますわよ」
「いや絶対今のは危なかったですわよ……左手がプッツンする寸前でしたわよ?」
どうしてあなたは私の心配をしてくれるの?
「っていうかそこの二人、班員でしょう!? いつもメラクに注意しているみたいに、ローズマリーさんにも注意しなさいよ!」
「「ご、ごめんなさい」」
「いえ、あのそこまでおびえないでくださいませ。ごめんくださいませ?」
そして、どうしてあなたは彼女たちと仲良くお話ができるの?
「と、とりあえず! 私からローズマリーさんに重要なアドバイスをお渡ししようかと思いまして」
「そんなもの必要ありませんわ。あなたに聞くくらいなら班の皆さんに聞きますもの」
嫌だ。あなたのアドバイスは聞きたくない。負けたことになってしまう。いやだいやだ。
私は班員を出してごまかそうとする。まだあまり話していない班員なのにね。
「あら、わかっているじゃない」
「?」
やめて。
まるで私がわかっているかのように話さないで。私じゃ、わからない。あなたほど秀でていないもの。
「私からのアドバイスは一つ。料理に関しては、優秀な班員の方からアドバイスを貰うといいってこと」
「……それはあなたのアドバイスではない気がするのだわ?」
ステラが何か教えてくると思っていたが違ったらしい。ひょんなことをいわれたものだから、思わず聞き返してしまった。
班員からアドバイスを聞くように言うアドバイスは果たしてアドバイスたりえるのだろうか。
「うーん、いわれてみれば違うような。なんだろう、体験談的な?」
ステラはそう訂正した。
ふと、思った。
「体験談ってことは……あなたも班員に尋ねたのかしら?」
「そりゃもうそうですわよ。私、野菜の切り方なんてこれっぽっちも知りませんですもの。優秀なチエさんに全部教えてもらいましたわ」
あぁ、なんだ、そうだったのか。
「へぇ。ステラさんも」
「あなたは班員から教わっていないでしょうに……」
「いえ、そうではなくってよ」
ステラにも。
いえ、あなたにも。
あなたにも、できないことがありましたのね。
少し安堵した。人の弱点をみて安堵するのもどうかと思うが、それでも安堵せずにはいられなかった。
多分、少しムキになったせいで、見えていなかっただけなのだ。
ふと包丁と手を見ると、確かに包丁の先に自分の手があった。
危ない、とステラが言っていたが、確かにそのとおり。見えないまま勢いよく進んでいたらどうなっていたのかしら。想像したくありませんわね。
それを思うと、今更ながらステラに対して声をかけてくれたことへの感謝の気持ちが沸いてくる。
まぁ、湧いてくるが――
「ステラさん、あなたの体験談、一応頭の隅の方に入れておきますわ」
「えぇ、そうしてくださいませ。ではまた後ほど」
――それでも、ここで感謝の言葉をいってしまうと、やっぱり負けたことになってしまう。やっぱり負けたくはない。
でもほんのちょびっとほどは感謝している、それは本当だ。
だから、彼女の言葉は素直に聞いておこう。……見られると恥ずかしいから、彼女がどこかに行ってから。
彼女が去るのを見送る。正確には私のことを簡単には見られない場所までステラが移動したことを確認する。
それから、私は包丁をまな板の上に置き、横にいる班員達に体を向けた。
班員の二人と交互に目が合う。よく見ると少し怯えが見える。これも見えていなかったらしい。
確かに怖がらせたかもしれない。ならば、少し下手にでることにしよう。
「ねぇ、あなたたち。もしよろしければなんだけれど」
「「……ごくり」」
「えっと、どうやって包丁を使うのか、教えてくださらない?」
「「は、はい、もちろんです!」」
やっと話せた。ちょっとうれしいじゃありませんの。
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包丁は危ないので慣れないうちはよく気を付けて使ってください。小説を安易にマネをしないでください。つい先日怪我した作者より。




