第83.5-1話 わたくしだってできますわよ!
お読みいただきありがとうございます。
今回はたまによくやる番外編。ステラ目線以外で書いております。
ステラ目線以外で書くの、地味に楽しい!
ローズマリーは包丁を握ったことがなかった。
当たり前だ。彼女の家は裕福だから。
だから、彼女は包丁を持ち料理をする予定はなく、班の女の子二人に任せた。
「も、もちろん! さ、私たちでやっちゃいましょうー」「おー」
この学年でローズマリーの名前を知らない人間はいない。彼女は比較的成績が優秀で、家柄もよく、そして普段から友達を交えていかにも貴族らしく振舞っているからだ。
とはいえ、彼女より、良くも悪くも目立つ存在がこの学年には存在した。
ステラだ。
彼女はローズマリーにとって忌まわしき存在だった。
彼女より裕福な家であることすら稀有であり、それすら恨めしいのに、彼女はローズマリーより成績も良く、ローズマリーが苦手なスポーツもできる。おまけに普段の生活態度が悪い。
……おまけについてはともかく、ステラは結果として、ローズマリーを差し置いて他の人から一目置かれていたのだ。とても悔しかった。
そんなローズマリーにとって、今日はチャンスだった。
彼女は野菜を班員に任せ、ステラを目で探すことにした。
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入学してしばらくしたときに、勝手にお嬢様の席を降り、半自動的にE組でお嬢様といえばローズマリー、ということが不動になった。
それに伴い、ローズマリーを慕う友人もでき、一方でステラはE組で少し浮くようになったので、ローズマリーはステラが負けてくれたのだとひどく喜んだ。
ただ、しばらくして、心の成長に伴って、ローズマリーは思うようになった。
こうじゃない。これは彼女が自ら席を立っただけ。彼女は落ちたわけでも落とされたわけでもないのだ。
ローズマリーは落胆し、そして同時に思った。
ステラが負ける姿を見たい。
それから彼女は、ステラが苦手なこと、できないことを探すため、ステラを観察するようになった。
ただ、ローズマリーはこの二年間で、ついにそれを見つけられなかった。
なんでも得意げに、そして自身気にステラはやってしまう。彼女がどのように語り掛けようとも、ステラからこれといった弱みを確認することはできなかった。
なんでもいい。私が勝たなくてもいい。ただ、彼女が負ける姿を一度でも見れたら、それでいい。
次第にそう思うローズマリーにとって、今日は最大のチャンスだったのだ。
成績が良く、スポーツもできるステラも、料理はできないはず。だって彼女は私と同じく裕福だから。
ただし、そう思っていたローズマリーの前に広がっていたのは、難なく包丁を握る彼女の姿だったわけで。
――――――――
私の前に広がるのは、あり得るはずのない光景。
ステラは難なく包丁を握り、野菜を切っている。いつもみたいに、いかにも得意げで自身気な顔をして。
気が付くと、私は自身の班に戻り、二人いる班員の女子の片方から包丁を奪い取っていた。
「ローズマリーさん、どうしたんですか?」
「私だってできますわよ!」
悔しい。まただ。彼女は私より上なのだ。
包丁を握れない私を見て彼女はいつもみたいにやり方を教えてくれるのだ。それはいやだ。
いやだ。いやだ。負けたくない!
「ローズマリーさん、ええっと、包丁は利き手で持って」
「知ってますわよ! 指図なんていりませんわよ!!」
たまに見るコックの動きをまねて包丁を握る。野菜のどこを切ればいいのかわからないので、とりあえずてっぺんから切る。おもったサイズにならないから、もう一回切る。変な形になった。捨てる。
しばらく時間が経って、包丁はまっすぐに入れると切りやすいことがわかった。どうせステラだってこうやって切っているに違いない。私もできる。
「私だって、ステラさんみたいにできてますわよね!」
「はい、えっと、そうだと思います!」
しばらく切ると包丁に慣れた。余裕じゃありませんの。
慣れてきたから、コックみたいな切り方をしよう。これはステラもできないはずだ。
「ローズマリーさん、包丁は縦に――」
「わかっていますわよ。策がありますの」
えっと、たしか、お野菜を抑えて、包丁を横向きにして。
「ローズマリーさん、いくらなんでもそれは――」
「うるさいわよ! ステラより私はうまいもの」
「えっと、うーんと……」
うるさい、あとは力をいれるだけ。
私はステラより上手なの!
左に向かって、ぐっと力を込める。もっとですわ、勢いをつけて――
「ローズマリーさん、ちょっとおまちなさって!!??」
力を加えようとした瞬間、無礼にも私に大声で指図する人間に声をかけられた。
他の誰であろうが私は手を止めるつもりはなかった。
ただ唯一彼女に声をかけられてしまうと、私は手を振り向かざるを得なかった。
ステラだ。
――――――――
お読みいただきありがとうございます。続きます。




