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かつて最強と呼ばれた男は前世の知識と共にTSお嬢様を満喫するようで  作者: 赤木林檎
第2章 低学年編

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第76話 嬉しかったから

お読みいただきありがとうございます。


季節が飛んだ後の話です。


以前とは話数が変わっておりますがお気になさらず。

「それで、ちゃんと宿題はやってきたかしら」

「うん、見てて!」


 季節は巡り、暑い夏が始まろうとしていた。


 私はもうすぐ三年生を上げようとしており、その前の夏休みが始まったので、それを満喫しに家を出て……


「では、ノルン、どうぞ」

「うん、えっと、『涼しくなれー』」

「さ"い"こ"う"て"す"わ"ーー」


 相変わらずノルンの家に来ていた。


「いやー、ありがとうね、ステラちゃん。夏休みなのにいつものスケジュールでよかったの? ステラちゃん」

「いつも通りしないとノルンも成長できないでしょう」


 そんなわけで、いつも通り練習が始まるわけで。


――――――――


「ここがわかんないんだよね」

「あぁ、これですか。これはですね……」


 練習を眺めて半年と少し。ノルンは今となってはすっかり初級魔法を扱っていた。


「違いますわ。左手をもう少しこう寄せて……あぁ、目線は右ですの。あぁ、左手が行きすぎです、もう少しこっち」

「えっと、左が右で右が左だから……」

「そうそう、それで上を下にやって下を上にすれば……まぁ、及第点ですわね」


 グランの功績もあってか、ノルンは魔法自体への潜在的な抵抗感がない。さらに子どもの成長力もあり、そして私の教え方のうまさも相まって、既に巧みに魔法を使いこなせていた。及第点とは言ったものの、この年齢でこのレベルなら十分すぎるほどである。


「ありがとう! さすがステラちゃんだね」

「まぁ、私にかかればこんなこと造作も……と言いたいところですが、あなたの努力の賜物ですわ」

「ステラちゃんにそう言ってもらえると嬉しいなぁ」


 と、先ほどの理由はあるが、ノルンが短期間でここまで魔法を習得した一番の理由は、間違いなくノルンが真面目に魔法を練習し続けていたからである。彼の努力はこの参考書の汚れと焦げ、カルトラの伝言、そして何より、魔素から感じられるノルンの魔法にかける想いからも見てとれた。


 だからこそ、私もこうやって真面目に練習に付き合っているのである。


「ところでさ、ステラちゃんに聞きたいんだけど」

「あら、魔法のことならなんでも」

「いや、そうじゃなくって……ステラちゃんってどうしてこんなにしっかり練習に付き合ってくれているのかなって」


 そう言われて、確かに言っていなかったことを思い出す。まぁ、カルトラに弱みを握られて、とは言えなかったから言っていなかった、というのもあるけれど。


 しかし、今はそれだけではなかった。少なくとも、義務感だけでやっているのではない。


「単純な理由ですわ、それはね――」


 むしろ逆。私は私の思いで、ノルンを強くしようとしていた。なぜならば――





「――嬉しかったから」





 グラン(わたし)が、こうやって彼に継承されていく。

 それが嬉しかったのである。



 グラン(わたし)には後輩こそいたものの、弟子も子孫もいなかった。

 そして、グラン(わたし)が去ったところで、この世界が良くなったわけでは無いことも知った。

 ノルンへの負担になっていることを知った。


 そんな何もかも無駄だった思いだったけれど、それは違うのだと、ノルンを見て思えた。



 ノルンはグラン(わたし)を無駄にしないでいてくれた。



 ノルンが頑張っている姿を見て、グラン(わたし)の行動は、決して無駄じゃなかったのだと――


 ノルンが強くなってく姿を見て、グラン(わたし)の思いは、こうやって形になって受け継がれていくのだと――


 ノルンを見て、私はそう思えたのだ。


「あなたに言っても分かってもらえませんから聞き流してくださいませ」

「えーなにそれ、言っていってー」

「だめよ。乙女心を探るのは禁止!」


 いつか、ノルンが本物の勇者になった時。


 そうなったとき、グラン(わたし)はようやく報われる。そんな気がしていた。


「ともかく、私が真剣に練習を見てあげるのですから、ノルン様もしっかりと真面目に練習してくださいませ」

「うん、もちろん!」


 だから私は、私の身勝手な想いをのせて、今日もノルンに付き合おう。


 いつかノルンが本物の勇者になる、その日まで。



お読みいただきありがとうございます。


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