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かつて最強と呼ばれた男は前世の知識と共にTSお嬢様を満喫するようで  作者: 赤木林檎
第2章 低学年編

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第75話 降臨祭の夜は静かに

お読みいただきありがとうございます。


以前とは話数が変わっておりますがお気になさらず。

「ただいまー」

「おかえりなさいませ、ステラ様」

「あら、アルカ。戻っていたのね」

「むしろステラ様が帰ってくるのが遅かったのですが……まぁ、メリダ家にいたのであれば良いことにしましょう」

「理解が早くて助かるわ」


 ノルンの家ですべきことも終わり、日が暮れそうな頃合いに私は家に帰ってきた。


 家に入るなり美味しそうな夕食の匂いが漂ってくる。さっきまで食べたお菓子はどこへやら、お腹はしっかり空いてくるわけで。


「にしても、少し髪が乱れていますね。……今日いったい何をされましたか?」

「早いのは理解だけでいいんですわよ」


 前言撤回。お腹いっぱい、もうやめて。


「はぁ……とりあえず部屋に行きましょう。そんな髪だと、どう考えてもお母様に怒られます。さっさと直しますよ」

「仕事が早いメイドって本当に素敵! 早さ大事!」

「はい雑」

「あなたもなかなか」


 前言撤回の撤回。手のひらも意見もくるくると。

 さすがアルカ、お母様のお怒り回避のプロフェッショナルである。その道で食っているに違いない。


――――――――


「そんな職はないです。しがないメイドです。ステラ様のせいで(ステラ様が怒られ)私が怒られるのが(まくる事がとても)もう嫌なの(可哀想なの)でお母様の沸点回避能力を身に付けただけです」

「どういうわけか、すごく言葉の裏を感じますわ」

「気のせいでしょう」「本当に?」


 朝にいつもやっているように、アルカに髪を直してもらう。先ほどの発言には変な思念がのっていた気がするが、手櫛が気持ちいいのでその辺りは水に流すといたしましょう。


「まぁ多少のやんちゃをされていても私は構いませんよ、子どもなんですから」

「髪を触るとそんなことも分かるのかしら?」

「ステラ様ならば、なんとなく」


 今日の私は、ノルンにちょっとした渡しものだけして帰るつもりが、魔法のことをバレたりバラされたり、ついでに少し暴れたりしてしまった。そして、どういう話の流れかノルンに魔法を教えることになったわけである。アルカはあまり詮索しないでくれるようだし、言える訳もないので私はありがたく沈黙を貫いた。


「そうですね、私から絶対に忠告しておくべきことは一つだけです」

「安心してくださいませ。そんな変なことはして――」

「火遊び。これだけは絶対にだめです」

「――ますぅぇん!?」

「……噛む必要ありましたか?」

「まさか私がそんな危ないことするわけないじゃありませんのまったくアルカは想像力が豊かですわね本当に仕事中に本読んでサボっているだけありますわ〜」

「すごい早口ですね。しかもちゃっかり嫌味まで入れて……何か隠しているとしか思えませんが?」

「火は危険、火は危険。ワタシ、キケン、シナイ」

「……まぁ、それが分かっているのなら良いことにしましょうか」


 まさか火を使った魔法の練習をして、危うく火事になったなんて言えないだろう。そんなの、完全に火遊びをしてやらかした子どもでしかない。

 いや待てよ、あれはあくまで練習だから遊びじゃないのでノーカンなのでは?


「一応言っておきますが、遊びじゃないなんて言った日には速攻お母様に報告しますからね」

「だめ、絶対」


 心を読むのはダメです。


「さ、髪の毛も整いました。では下にいきましょうか。夜ご飯のお時間ですから」

「あら、もうそんな時間なのね」

「今日は降臨祭なのでいつもより早いんですよ」


 すっかり日も暮れて、これから家族で夜ご飯の時間である。

 降臨祭の日は家族で集まってゆっくりと夜の時間を過ごすのがしきたりだ。美味しいご飯を食べながらゆっくりとした時間を過ごし、ジュースを飲みながら今日、今月、今年、これまでにあったことを話すのだ。


 といっても、何を話してもお母様に怒られそうな内容なので私はあんまり話せないんだけどね!


――――――――


「それで、学校ではうまくやれているのかしら?」

「ええ、お母様、もちろんですわ」


 よく先生に怒られています、はい。


「お友達とかはちゃんといるのかしら? できれば由緒ある家のお友達とかがいると私は嬉しいのだけれど」

「ええ、お母様、もちろんですわ」


 クラスのお嬢様とバチバチに対立していますわ。私は悪くないのよ、あっちが目をつけてくるだけで。


 お母様の言葉に、イエスという仕事を続けて早数分……えっ、数分しか経っていないの!?

 あまりにもお母様にいえないことばかりなので、私は曖昧な返事を繰り返していた。どこかの執事と違って嘘を話すのは苦手なので。


「ステラ様は学校でもうまくやっていますよ。現に、学校での成績トップを常に出しております」

「そうですわ。私、お兄様と同じく勉強はできますので」


 さすがに部が悪いのを感じたのか、アルカが私の味方をしてくれた。

 前世の知識を存分に発揮した結果、授業はあまり聞いていないが成績は本当にいいので、これについては本当のことを話せる。


「あら、それはいいことね。でも別にいいのよ。勉強はできなくても何も問題ありませんもの」

「そうですわよね、ははー」

「そんなことより、私はあなたのお友達のことが気になりますわ」


 しかし残念、成績の話について食いつきはあまり良くなかったようで。なんでさ、成績大事じゃん! お兄様を大学に通わせようとする母親のくせにー!


 しかし、こうなってくると言えることに限りがある。学校で下町の子どもと仲がいいとか、あんまりお母様にいえないし……。


「お友達といえば、ノルン様とはどのようなお話をしたのですか?」

「確かに、それも気になるわね。ステラ、ノルン様とは仲良くやっているのかしら?」


 さすがはお母様の沸点管理委員会会長のアルカだ。助け舟を再び送り出してくれた。さすがにこの船に乗らない手はない。


「ノルン様とは良好な関係を築いておりますわ。そうね、例えば……」


 ノルン様との仲良しエピソードを探して……


「ノルン様と好きな本についてお話ししました」

「あら、素敵なお話ね」

「でもノルン様とはまるで趣味が合いませんでしたのよ!」

「……ステラ?」

「ち、違いましたわ。ノルン様は本を読むのが早いから、足並みが合わないって言おうとしましたの、ノルン様、文学がとても出来ますので。私ももっと文学に嗜まないと」

「あら、そうなのね。てっきりステラがノルン様の悪口を行ったのかと思ったわ。私の聞き間違いでよかった」

「まさかそんな思っている、わけないことを言うわけないじゃありませんか」


 うっかり思考が漏れてしまった。いけない、ノルン様のエピソードを話すと愚痴がセットでやってくる。


「ノルン様はいつも女の子らしくて(女の子の気持ち)みっともなくて(がわかっていて)

「褒めている割に顔が険しいわね。ノルン様と喧嘩でもしているのかしら?」

「いえ、そんなことはまったく」


 カルトラの時も思ったが、私はもしかして表情に出やすいのだろうか。今後は表情を作る訓練していこう。ろくな場面で役に立たないけどね。


「それで、ノルン様は運動がとっても苦手で……じゃなくて、やんちゃなんてしないすごくいい人で」


 ノルンのことを考えると、どうしても悪いことばかり出てきてしまって――


「そうね、運動に関わらず、ノルン様ってとっても不器用なの。無視していいみんなの声をちゃんと聞こうとするし――」


 そしてみんなの期待に応えてわざわざ真面目に魔法を練習したりするし――


「助けられもしないのに、わざわざ転けるのを止めようとしたりするし――」


 自分が不器用なのを分かっていて、それでも頑張って強くなろうとしているし――


「ナヨナヨしているし、そのくせ努力家だし、優しいし――」


 まったく愚痴を上げていくとキリがない。本人の前で色々と言ってやりたいところだ、それにそれに――


「……ステラ様、ステラ様ー?」

「……はっ! いえ違いますのよお母様。これは愚痴とかそういうのではないのですわ、ええまったく」


 話しているうちに興奮してしまい、ついつい伏せも隠しもせずに続けてしまった。さすがのお母様も目を丸々とさせてこちらを見ている。やば、流石に怒られそう……。


「あら、ごめんなさい。ステラがイキイキと楽しそうに話しているのが珍しくてつい見入ってしまったの」

「やめてよ、お母様」

「でも仲良くしているのならよかったわ」

「そうなのかしら?」


 愚痴を話してイキイキしているって、それどんな嫌味だよ。


 たくさんの愚痴を言った私に対してお母様は優しく笑っていた。まったく、何を聞いているのやら。


「これからも仲良くしなさいね」

「えぇ、それは、うん」


 まあ、約束もしちゃったからね。これから魔法も教えないとだし。


 カルトラが癪だとか、相変わらず性格は女々しいなとか、そういうことはあるけど……





 まぁ、仕方がないから、本当に仕方がないから、ノルンとはそれなりに仲良くしていこうかな。





――――――――




 お昼は色々あったけれど、そんな問題も心配も、気がつけばどこかに消えていて。



 ゆったりと、長々と、いろいろな話をして、気がつけば私はスヤスヤと眠りについていた。

 明日もまた、変わらない日々が続いていく。








お読みいただきありがとうございます。


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