第74話 こけちゃいました
お読みいただきありがとうございます。
以前とは話数が変わっておりますがお気になさらず。
驚きと共に私の足も絡まって、私の転倒はもはや避けられない。
しかし、そこまで大した問題ではない。別に勢いよく吹き飛ばされたわけではないのだから、打ちどころが悪くない限り大した怪我にすらならないだろう。
そこで、打ちどころを調整すべく両腕を広げた。東方の武術にこういう受身の方法があるのだ。地面に腕を打ちつけて、地面全体で衝撃を逃すという、そういう類のやつ。何度も家のベッドで試したので、反射的に実行できる。ちなみにやり過ぎて一度ベッドフレームを破壊した。ちょっと反省している。
ドレスと違って体操服だから袖の不自由もなく、すんなりと腕を広げる。よし、準備は完了だ。あとはこけるのを待つのみ。
こける間に、先ほどの事故の被害を確認することにした。
まず第一に、火がまだ残っている可能性。ノルンが火傷でもしていたら取り返しもつかない。もちろん、離れる瞬間に魔素の流れは切ったのでないはずだが、念の為にノルンの手を確認した。うん、問題なく消えているようだ。
続いて先ほどの大火力。天井に移っていたら賠償金やら慰謝料やらで緊急事態なのだが……それも問題なさそうだ。私の財布は守られた。
さて、最後にノルンだ。どうせびっくりして足をもつれさせて転けているに違いない。ノルンの反応速度を考慮すると、きっと今頃びっくりして体をのけぞらせているに……
そんなことはなく、ノルンは引いてはいたもののうまく体制を取り戻して立っていた。
あぁ、よかった。これで私は自分の転倒に集中できる。ノルンから意識を離して、傾きを調整して……あれ?
もう一度ノルンを見返すと、先ほどまでとは姿勢が変わっていた。
おかしい。もうしっかり立っているのだから、これ以上姿勢が変わるのは不自然だ。それこそあえて動こうとしない限り。
しかも、尚更おかしい点がある。
どうして彼は前傾姿勢なんだ? もうそれは、転倒を避ける動きではないぞ。
それは明らかに、次の動きをするためのフェーズではないのか?
え、もしかして……
って、ウワァァ!?
私が考えるより早く、ノルンは倒れていく私を食い止めようと、勢いよく飛んできて……
――――――――
「いや、まあそうなりますわよね」
「ごごごめんステラちゃん!?」
「あなたも一緒に転けてどうしますのよ」
二人してずっこけた。バカですか。
「ええっと、大丈夫? 怪我はない? というか火というか炎というかアワワ」
「落ち着いてくださいませ。お話ししますからひとまず退いてくださいませ」
「わぁ、そうだよね。うん」
ノルンを退かせたあと、私は起立してクルリと回って自分の様子を確かめる。特に問題なしっと。
ついでにノルンもえいやと回転させて、今出来た怪我がないことを確認する。
「ちょっとステラちゃん!? 人を無断で回すのはよくないよ!」
「ダンスも似たようなものじゃありませんの」「絶対違うよ!?」
え、違うの? あれって男が女のことを何回転させられるか競う競技じゃないの? というか競わないのになんでみんなこぞってダンスするの!? っといけない、話が一人踊りしてしまっていた。
「ともかく、あなたが無事で何よりよ。にしても、あなた、どうしてわざわざ」
「どうして……?? いや、ステラちゃんが転けそうだったからなんとなく」
「もぅ、後先考えず飛び込んではいけませんわよ」
「ステラちゃんだってしたのに」
「しませんわよそんなバカなこと」
「いや、してくれたよ。だいぶ昔の話」
「昔……生前はまあやっていましたが」
「いや宗教的な話ではなくて! 僕がちっちゃい頃の話」
「あなたが小さい頃?」
「ステラちゃんが庭に遊びにきてくれた時、僕と一緒にこけたじゃん」
あぁ、そういえば、そんなこともあった。ノルンが転けそうなところを守ろうとして、結果的に私も一緒にこける羽目になった日が。
「さっきはさ、あの頃のステラちゃんを思い出して、僕も守らなきゃって」
「守れなきゃ意味がありませんのよ」
私がのんびりとノルンを眺めていると、ノルンは勝手にフラフラして勝手にこけて、それを守ろうとした私も転けてしまって。
今とは立場とは逆だ。腑抜けた私がすっかり転んでしまい、対照的にノルンは体幹もしっかりして、そんな簡単には転けなくなっている。
うん、言われてみれば、ノルンも以前と比べたらしっかりしてきたじゃないか。
「でも、少し安心できましたわ。あの頃より成長しておりますのね」
「そりゃあんな小さい時から比べたら成長するよ」
「それはそうですが、そうではなくて……」
ノルンの体からは、幼児から小学生に至るまでの一般的な成長では説明できない成長が感じられた。
色々やってきた証拠が、その体にはあった。私にはその努力が感じられたのだ。
「いつかあなたは強くなりますわ。この私が保証します」
運動神経とか、まだまだなことはいっぱいあるけれど、それもこれからのトレーニングのうちに変わっていくんだろう。
努力するノルンはきっと、強くなる。性格はともかく、問題なくノルンは強い勇者になれる。私は心の中で一人安心した。
「ステラちゃんに言われると嬉しい。がんばる」
ノルンはグッと手を握る。まだまだ小さいその手も大きくなるのだと思うと、今後が少し楽しみだ。
「強くなったら、今度はちゃんとステラちゃんを守るから」
「それは……期待せず待っておりますわ」
「期待してよ!」「えぇー」
そうは言っても、私がノルンに助けられるなんて、しばらくはないだろうけどね。
一応、ノルンの言葉は頭の隅に入れておくことにした。
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