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かつて最強と呼ばれた男は前世の知識と共にTSお嬢様を満喫するようで  作者: 赤木林檎
第2章 低学年編

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第73話 思いの外上手くいったと思ったら

お読みいただきありがとうございます。


以前とは話数が変わっておりますがお気になさらず。

 しばらく休憩しているうちに太陽はすっかり傾き始めていた。


「いけませんわ。今日はもう少しだけやろうと思っていましたのに」

「マジキャサの話でいっぱい盛り上がっちゃったからね」

「だってあなたがパシフィカよりアンプリィの方が好きだとか言うものですから」

「それはだって……じゃなくて、練習するんだよね」

「ぐ……仕方ないわね。さぁほら、お立ちくださいませ」


 座っているノルンを引っ張って立たせ、先ほどと同じようにノルンの手の甲を掴み、ノルンの手のひらの上に火を起こす。

 本日最後の課題と言っても、別に自力で火を出させるわけではない。


「さっきまでやってた練習を覚えているかしら」

「うん、暖炉とかの火を作った。次は何を作るの?」

「次はね、抽象的な火を作る練習よ」

「つまり?」

「情熱の炎を作ってくださいませ」

「情熱の炎……暖炉の炎とは違いそうだし、うーんでも」

「もちろん具体的なものはありませんわ。それを考えるのよ。難しいでしょう?」

「頑張る……情熱。情熱?」


 最後の練習は「具体的なものがなく抽象度の高い物」を作る練習だ。魔法を使うときに、そこに暖炉があることは稀だし、今後強い魔法を出そうと思ったらどうしてもこの世に無いようなものを作る必要が出てくる。


 しばらくは使わないにしても、魔法に対して偏見のない今のうちに練習をしておいた方がいい。イメージが実際のものでないと魔法が出せない、なんてことになったらどうすることもできない。


「うーん、分からない」

「あなた、情熱的な人間ではありませんものねぇ」

「ご、ごめんね……」

「熱くなって周りのことが見えなくなるよりかはよっぽど良いですわ」

「まぁ、たしかに。でも、情熱って難しいね。頑張って情熱的になろうとしてるんだけど」

「情熱なんて出そうと思って出せるものではありませんもの――あ、そうだ。例えばアンプリィみたいに、ってのはどうかしら」

「確かに! アンプリィはいつも燃えてるもんね!」


 アンプリィとはさきほど話題になったマジキャサという少女小説に出てくる情熱的な男性キャラクターである。ノルンも好きなキャラだと言うから想像しやすいだろうと考えていたのだが、この言葉は非常にうまく働いたようだ。


「アンプリィは確か……赤くて……大きくて……ゆらゆらしてて……」

「す、すごいですわねマジキャサ効果」


 みるみると火が変化していく。さっきまで悩んでいたのが嘘みたいに、ノルンがスイスイとイメージを魔力に乗せていく。

 そして、数分も立たぬうちに火は完成した。


「どうかな?」

「いやまぁ、すごいですわよ。すごいんですけれども。……はへぇー」

「呆れられた!?」


 赤といい、大きいといい、本当にアンプリィの設定そっくりじゃないか。私は感嘆と呆れが混じったため息を漏らす。


 先ほど話していても思っていたのだが、どうやらノルンは本当にこの小説を読み込んでいるらしい。良いのか、次期勇者がこれで?

 ノルンはこれだし、その執事もアレだし。何度も思うが色んな意味で心配しかなかった。


「できたのは素晴らしいことですわ、えぇ、それは認めましょう」

「しかもさっきより早くできたかも!」

「……確かに。今日はこれくらいにしようとしていましたが、もう一つくらいなら」

「うん、クールな感じって言われてもすぐできるよ!」

「パシフィカみたいにってことね」

「バレた!?」


 確かにそれは成功するかもしれない。しかし、それは捻りがなくて面白みがない。何よりも、このままマジキャサのキャラしか出せなくなると本当によくない。それは困る、主にノルンが。側から見るととっても面白いけども。ちょっと将来に響きそう。


 うーん、何かいい感じの追加課題、なんかありませんかしら……


「あ! あるではありませんか、マジキャザ繋がり」


 そこでふと妙案を思いつく。マジキャサと大きく関わっていて、かつマジキャザだけに依存しない抽象的なもの。これができるのなら、他に応用も効くはず。


「じゃあ今度こそ最後の課題ですわ。準備はよろしくて?」

「うん、かかってこい!」

「ちなみに今回の課題はマジキャザのキャラではありませんわよ。……いやさっきのも違ったんですが」

「じゃあ無理かも」

「でも安心してくださいませ。今回もちゃんとマジキャザ繋がりですので」

「じゃあいけるかも」

「その調子ですわよ」


 もっとも、私にもどうすればこの火を作れるのか分からないような、少し意地悪な課題ではある。


「次の課題は……」


 まあ、きっとあまりいい成果が出るとは思えないが、魔法の難しさを知ってもらうと言う意味でも、やってみよう。


「恋のような熱い炎」

「こい……恋!? ええっと、あわわぁ」


 さて、どんなものを見せてくれるんだろうか。

 そう思いながら火を見ていると、その火は少しづつ揺れ始め……




 ちょい待て?




 いや待て、いやほんとに、揺れすぎでは!?



「ノ、ノルン様!?」


 私は思わずノルンの顔を見た。


 どういうわけか、目が合った。



 お互いに目を合わせたまま、束の間の硬直。




 そして――





 その炎は、とてつもなく明るく。


 そして、巨大に燃え上がった。


「きゃっ」


 あまりにも急な反応。


 魔法を使ってどうこうする暇はなかった。



 勇者だった頃の本能が私を勢いよく後ろに向かわせた。



 でも油断しきっていた今の私では、硬直状態から魔法なしで急に足を動かすことはできず――




 結果、重心だけが後ろに引かれていく。


「ウッソでしょ!?」


 ノルンを巻き込むまいと手を離し――




 そして私は、後頭部から地面に吸い寄せられていった。





お読みいただきありがとうございます。


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