第72−2話 暖かかった
お読みいただきありがとうございます。
以前とは話数が変わっておりますがお気になさらず。
火を魔法で大きくしたり、小さくしたりを何度か繰り返した。
ノルンは、初めこそ時間をかけてゆっくり考えていたが、次第に少しずつ火の変化の速さが上がってきているようだ。
私が想像を補助的に加えているし、そもそも魔素の操作に関してはほとんど私がしているのだが、それを差し引いても順調に魔法の練習は進んでいるといっていい。悪くない飲み込みだ。
「簡単な大きさの変化には慣れてきましたわね」
「やったー」
「では次は大きさだけでなく、その性質も変化させてみましょう。まずは暖炉のような火から。『雪降る日、彼女は部屋で暖を取りて』」
「性質……だんろ……ええっと」
性質を変化させるのは、大きさを変えるのとはまた話が違う。目にみえる大小の変化と違い、性質を変えるためには、まずその性質を頭の中に思い描き、そしてそれを伝えようとする必要がある。
「この火を暖炉のように変化させますの。暖炉の火ってどんなものかしら」
「うーんうーん」
当然ながら、ノルンもピンと来ていないようである。でも、これは想定範囲内。
そんな時は具体的なイメージを外から貰えばいいのだ。
「分からなければ、カンニングすればいいのよ。幸い、この部屋を暖かくしているものがあるでしょう」
「あ、確かに。これが暖炉だね。だんろ、だん……」
「手元の火については私が見ているからご心配なく」
ノルンは私の言葉を理解してくれたようで、暖炉の方をじぃっと見つめ始めた。火を目に焼き付け、手を見つめ。また暖炉を見て、手を見て――
「……できた……かな?」
「よくできましたわ、ノルン様。とっても優秀ですわよ」
「わぁ、うれしい」
次第に火は変化して、パチパチ、と音を鳴らしはじめた。飛び交う火の粉とその音も火に反映させられるなんて、よく観察しているじゃないか。
「じゃあ今度はこれを小さくしてみましょうか。『時に執事は薪の補充を忘れ』」
「カルトラはあんまり忘れないよ」
「そういうところで優秀さを出すあたりにまた腹が立ちますわね」
「ステラちゃん荒々しくない?」
「気のせいではないかしら? というより思考が止まっていますわよ」
「あわわ、本当だ」
このまま大きな火がついたままだと、いつか火の粉が手に落ちてしまいそうなので心配だ。手のひらに防御魔法を展開しているため基本的には問題ないのだが、私の経験上、防御魔術に過度な期待を寄せると文字通り痛い目に遭う。
「……よし、小さくなりましたわね」
「想像するって中々難しいね」
「魔法において必須の技術ですので、今後も要訓練ですわ。では次に……」
魔法の練習は、その後もさくさくと進む。
――――――――
「さっきの暖炉ね、初めはよくわかんなかったけど、目で見ると、とってもやりやすくなった!」
「自然現象等は特に、自然を見てイメージを掴むのがいいですわ。でも、音を聞いたりすることでもそのイメージを掴むことができますわ」
「なるほどー。水とかだったら触ってもいいかもね!」
「ええ、そうね。……いや、あまり触るのはお勧めしないわ」
「なんで?」
「下手すりゃ死ぬわよ」
「なんで!?」
ノルンが言うように、五感を使ってもいい。特に人間が持つ触感はイメージに重要な大きな要素だ。
しかし、それを許してしまうと大変なことになりかねない。私はどっかのバカからそれを学んだ。
……わたしの後輩のネールは、よく雷雨の日に外に出て自分から感電しにいってた。『あ゛あ゛こ゛れ゛で゛す゛よ゛せ゛ん゛ぱ゛い゛ぁ゛』と雷を浴びながら言っていた。
…………いやこれ、どう考えてもあいつがバカなだけだな。一般人には関係ないわ。
「さっきのは流石に嘘よ」
「もう、からかわないでよ」
「うふふ」
バカな学生時代を懐かしみつつ、私は急に冷静になって考えた。
そして真面目に魔法を練習するノルンに、ついつい尋ねてしまった。
「……ところで、あなたって学校は楽しい?」
ノルンは、学生生活を楽しめているのだろうか。
「うん、楽しいよ」
「あなたみたいな学校なのでしたら、勉強も訓練もあって大変じゃない?」
「大変だけどね、どれも楽しい」
「友達とか、ちゃんといるの?」
「もちろん、みんな仲良しだよ」
そうじゃない。聞きたいのは、そういうことじゃない。
私は意を決してノルン尋ねた。
「……あなたは怖くはないの?」
「怖いって?」
「その…… あなたの親戚、つまりわたしのことで、色々言われたりしないの?」
「グラン様のことで、か。うーん」
わたしの功績による世間の重圧の中で、ノルンという少年はどう感じているのだろうか。
その期待に押しつぶされたりしないのだろうか。
わたしが、あなたにとって、ただ迷惑な存在になってしまっていないだろうか。
「…………まあ、色々言われたりする」
「……そう」
私とノルンの手の上にある小さな火が、今にも消えそうに揺らぐ。
ノルンの心が揺れているからか。それとも……。
やっぱり、重荷になってしまっているのだろう。申し訳なくて思わず俯いてしまう。
「でもさ――」
少しして、ノルンがまた話しだした。
わたしは彼の言葉に思わず顔をあげた。
私を見つめるノルンと目が合った。ノルンは、少し照れるように笑った。
また火が揺らいだ気がした。
「なんというか…… 期待されているのは、嬉しいことだよ。うん。だから、大丈夫」
大丈夫。
その言葉を言ってすぐに、火がわずかに大きくなった。
ノルンの強い気持ちの表れだろうか。いや、違う。これは彼の虚勢の表れなんじゃないだろうか。
「……それなら、よかった」
それでも、私は安心してしまった。ノルンがそう言ってくれて許された気持ちになった。
「それに、ステラちゃんみたいに優しい人がいーっぱいいるから、何にも問題ないよ」
……優しいのはむしろあなたなのに。
いいかけて、心の中に留めた。
「だから、心配してくれてありがとう」
こちらこそ…… ありがとう。
心の中で、わたしはつぶやいた。
少し大きな火のせいだろうか。ノルンの手はなんだか暖かかった。
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