第71−1話 まほうのおべんきょう
お読みいただきありがとうございます。
以前とは話数が変わっておりますがお気になさらず。
「では始めていきましょう」
「よろしくお願いします!」
学校の体操服にそれぞれ着替え、淡々と準備運動を済ませまして。
「それで、どこから教えればいいのかしら?」
「うーん、どこから教わればいいのかな?」
「さっそく困りましたわねぇ」
そして教える以前の大きな課題に直面するのであった。
「じゃあ、ええっと、うーんと。あ、そうですわね、ノルン様が学校で勉強したことを話してくれてもよろしいかしら?」
「うん、あ、はい! ちょっと待っててね!」
ノルンはそう言うなり、すぐに大回りして体を反転し、ドアに向かってピコピコと走り出した。それから頑張って部屋のドアを開け、テクテクと部屋を出て、トッタッタと廊下を走って、トコトコと戻ってきた。うーん、運動神経のありません動きですこと。
手には表紙に『まほう』と汚い文字で書かれたノートがあった。
「せっかくなので、どんなことを教えてもらっているのか説明してくださいな」
そして、急遽ノルンによる学びの発表会が始まった。……小学生みたいなことしてますわね、いや、何も間違ってはいないのですが。
――――――――
「ええっとね。じゃあ始めるよ。ま……魔法は世界に溢れる力、ええっと魔素? によって、人の想像を具現化するものである。そこに火があることを想像し、魔素によって火を起こす。そこに水があることを想像し、魔素によって水を生み出す、といったことができる。……こんな感じで続けていいのかな?」
「ええ、もちろん。続けて」
ノルンの最初の文言を聞いて私は少し安心した。なぜなら、この最初の文言は魔法を習得する上で非常に良くできたものであったからだ。
まったく、巷の大抵の魔法書は、神様だの救済だの、そんなんだから素人がすっかり避けるんだぞ。筆者も少しは自重しろ。
話を勝手に逸らす私を放ってノルンは音読を続けていた。
「……である。戦闘において、魔法は人の限界を超えることができる要素として非常に重要視される。魔法を習得することで、優れた兵士、あるいは人類種を守る勇者になることができる。ああ、ごめん、ステラちゃんにはこのあたりは関係もんね」
「気にしなくて結構よ。そういう話は好きですわ」
なんてったって、かつては最強の勇者ですからね。
「それにしても、その言い方だと魔法が使えるとお得って程度ですわね」
「?? 間違ってるの?」
「いや、間違ってはいないのですが……なんというかニュアンスが気に食わないですわ」
ノルンはカクンカクンとした動作で首を傾げる。こういうところからも運動神経のなさが滲み出ている気がするが、これ以上言及するとキリがないので今は気にしないことにした。
さて、魔法が使えるとお得だとノルンはいうが、ここはそんなに甘い業界ではない。特に勇者においては、魔法は重要視どころか前提条件であり、魔術が達者に使えないザコは門前払いされてしまうのだ。兵士だって、魔法が使えない人間が上官になることはいささか厳しいだろう。そういうシステムになってしまっている。
そういえば、あの頃から私は一つだけ言いたかったことがある。それも大きな声で。
そうだ、今言っておこう。
すうううううううう。
人類種は本来魔法なんて使えないんだよ!!! テメェら狂ってやがる!!!!!
ふう、心の中で叫んだのでスッキリ。
今度またカルトラにこの部屋を貸してもらおう。防音室なので叫び放題だ。
「--おーい、ステラちゃーん? 続けて大丈夫ー?」
「は! 心が叫びたがってるものでしたからつい」
「上の空だったからね、体調が悪いのかと思っちゃった」
「ごめんなさい、でも大丈夫。あなたに心配されるほど私も弱くありませんわ」
「それならいいんだけど」
「続きをどうぞ」
「うん、わかった。じゃあ続けるね」
ノルンはまたノートを大袈裟に目の前に掲げて自分のノートの音読を始める。
――――――――
「……魔法の種類としては大きく三つに分けられる。一つ目は汎用魔法。魔素を火に変えたり水に変えたりする」
「ちょっと練習を積めば誰でも使える簡単な魔法ですわ。もちろん上手い下手はございますが……」
「見ていてとっても便利そうでした」
「……って急に子どもじみた説明になりましたね!?」
「ごめん。これは僕の感想だった」
「どうりで呑気な感想ですこと」
「……?」「自分で言うのもなんですが貶されていますわよ」「やっぱりぃ……」
いやまぁ、うん。便利だけどね! 今朝もアルカは魔法で家事してたし!
されど私としてはこれも懸念点でしかない。今後、強さを求める中で魔法を攻撃道具として使う男がこんな呑気な感想でいいのだろうか。そんな弱そうな感想でいいのだろうか。心配しすぎではあるが、やはりかつて最強だった人間としては気にしてしまうものである。
「……そして二つ目は超強力複合魔法。魔術とも呼ばれる」
「単純に言うとすごーい魔法ね」
「……ステラちゃん、雑じゃない?」
「いいのよ適当で。そもそも魔術はそれぞれ独立しているから、魔術の説明としてはこれが正しいの」
「そうなんだ。あんまりよくわかんないや」
「でも本当にすごいのよ。使い方を間違えたらそれはもう大変。あっというまに遺跡が半壊したわ」
「ステラちゃんがやったの?」
「……って誰かが昔やったってどこかの本に書いておりましたわ!」
「誰かもどこかもわからないけど、とっても恐ろしいことがあったんだね……」
「あったそうよ!」
おおっといけない。遺跡を半壊させたグランとかいう奴の話をしてしまうところだった。決して私じゃないよ、わたしだよ。
かつての私がやってしまったヤバい事件を掘り起こしかけてしまうも、なんとか軌道修正で乗り切った。ちなみにあの話は色々あってうやむやになったので、どの本にも書いていないと思う。嘘ついてごめんね、ノルン。
「さて、三つ目の魔法についての説明はまだかしら?」
強引に話を促す。これ以上詮索されてもボロしか出ない。
「ああ、うん。わかった。いうね。えーっと、三つ目。継承魔法。主にその魔法を持つ名家にのみ許された、時空間をも超越する魔法である」
「まあ、大体の解釈はあっていますわね」
厳密に言うとその説明は間違っているのだが、これを完全に否定できる人間は残念なことに未だに一人たりとも現れていない。すなわち説明が正しいと断定して差し支えないわけである。
「ええっと大体学んでいることはこのくらいなんだ。最近は魔法の系統について学んでいるところ」
「ご苦労様。大体理解しましたわ」
私はこれらを踏まえてノルンの学習範囲から今日のスケジュールを考えることにした。
与えられた時間はあまり長くない。その中で魔法の実践に先駆けて――。もちろん、この時間だけで成長しようなんて無茶な話なので、宿題としてこれとこれと――。ノルン様の現在の理解、新たな知識への理解力、運動神経を加味して、こうしてこうして――
「よし、大体考えましたわ」
私の中での理論も固め、ようやく準備は整った。これからは実践あるのみ。
「あ、そうだ! 四年生の教科書をお父様から預かっているんだけど、使う?」
「あら、まだ何かございましたの?」
「確かね、魔法の実践についても書いてるんだって、カルトラがこの前言ってたけど」
「……何をするか私が必死に考えている間にその教科書が欲しかったですわね。当たり前ですけども」
しかもその教科書はこれまでの学習から地続きになっているものらしい。もーまったく……。
私は無言でノルン様の肩を持って、ドア方向に押し込んだ。早く教科書もってきてくださいませ!
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