第70話 二つ目の要求
お読みいただきありがとうございます。
以前とは話数が変わっておりますがお気になさらず。
「ほんとうに?」
「……まぁ少しは」
「すごい!」
あまりにも急な出来事に、私は嘘をつく余裕すらなく応答してしまった。
「ってよく考えたら、カルトラ様が私たちを集めた理由の話の流れはどうしましたのよ」
「いいや、これはその話。これこそ僕が君たちを集めた理由の話さ」
「うーん、どういうこと?」
ノルンと同じように私も分からなかったので、カルトラの答えを待つことにした。
「ズバリ、ステラちゃん。君のその得意を生かして、ノルン様の魔法の指導をしてくれないかな?」
「当然やりませんが?」
即答した。勝手に私をノルンの魔法の指導者に抜擢されても困る。
「教えられるくらい魔法上手なのステラちゃん? すごいね」
「確かにその気になれば教えることは可能ですが、魔法の指導なんてやりま――」
「そうだよ、ステラちゃんはびっくりするくらい魔法が上手でね」
「……指導なんて一切しま――」
「とっても楽しそう!」
「…………絶対やりま――」
「やってくれるよね、ステラちゃん?」
しかし、カルトラが笑顔で私に圧をかけてきた。言語化すると、「お前、これで譲歩してやるんだから受けろ?」という圧をカルトラから感じた。
そして弱みを握られている以上、私に対処する術はないわけで。
「……やればいいんでしょ」
こうして私は、カルトラの要求通りの駒となって、急遽ノルンの魔法の指導に抜擢されてしまった。
「じゃあ決まり。早速今日からやってみようと思うんだけど、ステラちゃん時間あるよね」
「ありますわ。ええもう、私の時間は好きに使ってくださいまし!」
「僕も今日は大丈夫」
「じゃあ、ノルン様は早速着替えてきてくれるかな? 学校の体操服がいいと思うよ」
「うん、わかった」
もう半分くらいヤケクソだった。
――――――――
ノルンが部屋から出て、足音が遠くに行くのを確認してからもう一度強くドアを閉じる。さて、カルトラに聞きたいことはたくさんあるのだ。
「疑問その一。これがあなたの二つ目の要求ですの?」
「うん、そうだよ。理由が欲しいって顔だね」
すべての前提を飛ばして本題に入った。聞かれることが分かっていたらしくカルトラも即答した。
「魔法の指導はあなたの管轄でしょう?」
「僕は魔法の指導にとことん向いていないからね」
「ノルン様に仕えるのやめちまえですわ」
彼は給仕兼ノルンの指導者としてここの執事をしていると聞いていた。それなのに魔法の指導ができないとは一体どういうことなんだと、カルトラを採用した人に問いただしたい。
「僕って天才型じゃん? だから魔法を苦労もせずに感覚で使えるんだけど、そのせいで魔法を学んで使うっていう概念が分からなくてね。反対に君は、部屋に積み上がった本を見る限りちゃんと学問書を読んで魔法を使えるようになったタイプだ。つまり、僕よりも君の方が指導者に向いている。どうかな?」
「なるほど。一理ありますわね。そうはいっても仕事放棄は如何なものかしら」
「それは君の言うとおり。まあどっちかって言うと単純に面倒なだけだし」
私は何度頭を抱えればいいのだろうか。絶対に後者が理由じゃないか。こいつの面倒に巻き込まれる身にもなってほしい。
どうしてこんな男に弱みを握られてしまったのか。来世はこんな男に注意しようと決めた人生二回目の小学二年生の冬だった。
……そういえば、私が小学二年生ってことはノルンもまだ小学三年生なんだよな。
「そう、疑問その二。ノルン様の学校では小学三年生からもう魔法の実習が始まっていますの? 随分と早いことね」
「いいや、はじまるのは四年生からだ。それでも十分早いけど」
「ではその時から練習を始めればいいじゃありませんの。まだ四年生まで半年以上ありますわよ」
「いいや、そうもいかないのよ。考えてみなよ、ノルン様の状況をさ」
ノルンのことなんてあまり考えたこともなかったが、カルトラの言葉を受けて少し考えた。ここでいう状況というのはつまり、ノルン自身のことというよりも、彼を取り巻く周りの環境のことだろう。
「特筆すべき点といえば、この家が英雄グラン様の一族ということことでしょうか。そうはいっても、ノルン様はグラン様の実子ではないでしょう?」
「かといって、英雄グラン様に直接の子孫はいない。知ってると思うけど」
「えぇもちろん」
グランは子孫を作っていない。世界の皆が知る事実を、当の本人である私が知らないわけがなかった。
それならば順を追ってみると……なるほど確かに。
「つまり彼を継ぐ存在として最も相応しいのは現状ノルン様だというわけですね」
「そう、だから彼は非常に注目を集めている」
確かにグランという男、すなわち、かつて最強と言われ、数々の世界の窮地を救ったとされる男の子孫なのだから、その息子も当然強いのだと誰もが考えるのだろう。だから勝手に期待を向けるのだろう。彼にかかる期待の重圧なんてちっとも考えることもなく。
それが悪いことだとは思わない。期待を寄せるのは当たり前なのだから。きっと誰も悪くない。強いて原因を考えるならば。それはグランだ。
「だからノルン様は失敗できない。あの学校において、彼は世間の目に応えて優秀でい続けなければならない。それはまだ習っていない魔法においても」
「そうでしょうね」
「大変だろうね、色々」
「まぁ、そうですわよね」
グランがこの世に残したものは結局何だったのだろう。世の中は一人の力だけじゃ何も変わっていないのに。
結局、グランはノルンに重荷を背負わせただけなのだろうか。そうなのだとしたら、やはりノルンに申し訳ない。
せめて、彼への魔法の指導で罪滅ぼしができればいいのだけれど。
「そういうことだから、魔法の上手なステラちゃんの直々の指導を組んだわけ。分かってくれたかい?」
「ええ、しっかり。じゃあ私も準備にかかるわね」
罪悪感に苛まれつつ、私はノルンへの魔法の指導をきちんとすることに決めたのであった。
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次回は番外編なので読み飛ばしても問題ありません。




